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朝木 海①【実験的小説】

 この記事では小説を書いていくのだけれど、今回は少し特殊な形式を取ろうと思う。
 それは何かというと「作者の自己主張が強すぎる三人称形式」。
 つまり、物語の合間でしょっちゅう作者が出てきて、自分自身の感想を語りまくる、という形式。

 私はもともと小説より随筆や感想文といった類の文章を書くのが得意。空想をするのが好きで、その内容を小説にしたいと思うことは多々ある。だがどうにも、一般的な小説の形式だと筆が進まない。「私」が出てきてしまうのだ。別のことを思いついて、それを書きたくなってしまうので、物語に集中できなくなってしまうのだ。
 そこで、それを解決するために編み出したのが、この形式。随筆を書きながら、物語を書く。これなら、苦を感じることなく、物語を綴ることができる。

 あまり見慣れない形式だから、ついてくるのが難しいかもしれないけど、頑張って読んでみて欲しい。面白くなかったら、まぁそれはごめんなさい。でも面白かったら、面白かったことを教えてほしいな。反応がなかったら「やっぱりこういう形式ってダメなんだな」と思って、書くのやめちゃうかもしれないからね。こういう書き方が、読み手にとってアリなのかナシなのか、とりあえず知っておきたいんだ。

 そういうわけでこれから書いていく話なのだけれど、そもそも何の話を書くのか実は決まってないんだ。でも主人公は決まってる。朝木海ちゃん。この子は元々私の想像上の友人、浅川理知の通う高校のクラスメイトの一人として設定された人物で、性格はおちゃらけ、顔は幼さを残した万人受けするような美人。とても頭がよく、努力家。でもその努力を人に誇ったりはあまりせず、どちらかといえば「努力しなくても何でもできる天才」を演じようとするタイプの、才女。
 どこにでもいるような秀才タイプというわけでもなくて、独特な感性を持ち、書道部でいい成績を残している。小説を書くのが趣味だけれど、才能の限界を感じ始めていて、職業作家は無理だな、と考えている。
 恋に対する感覚は人並みで、いつか素敵な人と出会えたらいいなと思っている。
 彼女を一言で言い表すと「意外と普通な天才系傲慢美少女」。

 私は結構彼女を気に入っていて、彼女をモデルにしたキャラクターを主人公にした物語も何本か書いている。でも彼女自身を主人公として一本まとまった話は書いたことがないなと思ったので、今回はそれを書こうと思っている。

 成長物語にするつもりはない。(私は成長物語、というのがあまり好きじゃない。物語の進行とともに、結果的にキャラクターが成長するだけなら別にいいのだけれど、何というか、作者の意図でキャラクターを成長させる、みたいなのが、作者の傲慢を感じさせるから、あまり好きじゃないのだ。私は人間というものについて、何が優れていて、何が劣っているか、それがよく分からないから、同じように、何をもって成長と呼ぶのかも分からない。したがって、私には成長物語は書けない、というわけだ)

「ねぇ、ねぇ空!」
 彼女は姉に呼びかける。海、空、月。朝木家の三姉妹は、三人とも美人で、それぞれ癖の強い性格をしている。
 空は返事をしない。三女である月は、苛立って、何かものを投げたい衝動に駆られるが、彼女はなんだかんだ言って小学六年生でありながら自制心が強い。
「空! お風呂沸かしてって!」
「月やっといてー」
「空の仕事でしょ!」
「私今日風邪っぽいから、ごほごほ」
 わざとらしく咳をして見せる空。ソファに寝転がって、スマホをいじってる。
「沸かしてくれないと、空の大事にしてる……」
 何かを壊してやる、と脅すつもりで口に出したはいいが、空が大事にしているものが分からなかった。というか、月はずぼらな姉が、何かを大切にしている姿が想像できなかった。
「空って、なんか、かわいそうだね」
「ああん? おこちゃまがなんやねん」
「いや、空って、守るべきものもないんだなぁって。宝物がないくらいならまだアレだけど、プライドもないし、心もない。ぷぷ」
 空は黙って立ち上がり、月の前に立ちはだかる。月は、自分がぶたれることを察知したが、逃げない。涙目で下を向き、叩かれるのを待つ。叩かれたら、海姉に言いつける。そのあと、二人で空を懲らしめる。そしたら、ちゃんと風呂も沸かしてもらえるだろうし……
「ぷぷ。びびっちゃって。かわいいなぁむんたんは!」
 むんたん、というあだ名は海がかつてふざけて付けたものだったが(moonたん)、月が嫌がったから定着はしなかった。しかし、空はしつこく何かあるたびにそう呼んでからかう。嫌なやつだ。
「空、嫌い」
 涙目で、月は歯ぎしりする。
「もぉ。かわいいなぁ月は!」
 そう言って、空は月を抱きしめようとする。月は空を傷つけないように弱いパンチで拒絶する。
「仕方ないからお姉ちゃんがお風呂沸かしに行ってあげよう。感謝するんだぞ妹よ」
「早く行けバーカ!」
 捨て台詞を叫んだあと、悔しさで脈打つ心臓を抑えて、長女、海の部屋に向かう。

 トントン、と部屋のドアを叩く音を聞いて、この物語の主人公である海は二万円近くする立派な黒のゲーミングチェアをぐるりと回し、扉に体を向ける。そして腕を組み、咳払いをする。
「入りたまえ」
 月はゆっくりと部屋に入ってくる。涙目。海は一目見て、また空に意地悪されたな、と察した。組んだ腕をほどき、膝の上にのせる。権威ありそうな厳かな表情から、少し眉をあげて、とぼけたまんまるな目を意識する。ちょっとお上品。という演技。
「海姉。空がうざい」
「あいつはうざいなぁ」
「いちいち私を泣かそうとしてくる」
「んー……まぁ泣いてる月かわいいからなぁ。気持ちは分からなくもない」
「悔しい。空を泣かせたい」
「あいつ泣いても、一時間後には泣いてたこと忘れるよ。馬鹿だから」
「馬鹿ってずるい」
 その言葉に、思わず海は吹き出してしまう。月もつられて笑う。
 二人は小さな幸せを噛みしみた。月も、口に出して言うことはないが、空が意地悪なおかげで、このように敬愛する長女と深い絆を育むことができる、という事実を受け入れていた。月はそれのおかげで、空のことをそれほど嫌わずに済んでいる。
 海の方は、姉妹のことをそれほど深く考えてはいなかったが、むしろそういう気楽さが自分たちの家族に必要なのを理解していたし、自分の長所であることも自覚していた。

 海は心の中で「私っていいお姉ちゃんだなぁ」などと頻繁に思っているが、口には出さない。海がよく口に出すのは、冗談と慰めの言葉。時々うんちくを語り、また別の時には自分が思いついたゲームに二人を巻き込んだりもする。
 三人とも楽しめることが重要だと、頭のいい海は理解していた。あらゆる場において、三人の関係というのは、ひとりでも不満を持っている人間がいると、残りの二人に不満をぶちまけようとするから、三人全員が楽しんでいないと、自分自身の楽しみが台無しになってしまうのだ。

 第一に、自分が上機嫌であること。第二に、自分以外の二人の問題にはできるだけ干渉しないこと。第三に、それぞれと良好な関係を築くこと。そして最後に、愛を持って接すること。
 朝木海は、確かに変わった人物であったし、他人を傷つけることに躊躇しない冷酷さを持った人物ではあったが、なんだかんだ常識人であり、人から好かれる性格でもあった。思い遣りがないわけでもなく、ただ少し己の自分勝手さに正直なだけである。そして、嘘をつくことや大げさな演技をすることに抵抗がないだけである。


 さて、今の章は実のところ、物語自体とはあまり関係がない。朝木海の性格を分かりやすく説明するのに、朝木家三姉妹の話をするのが手っ取り早いと思ったのだ。
 というのは嘘で、ただ思いついたエピソードをそのまま語って、その理由を今でっちあげただけだ。私は相変わらず、この物語をどのような物語にするかまだ決めていないし、アイデアも湧いていない。
 この段階で「くそつまんねー」と思っている読み手もいるかもしれない。もしそうなら、私は涙目になる。でも私が涙目になったところで何になるだろう? 読み手は、書き手に対して同情なんてしないし、するべきでもない。文章による心の繋がりに、同情は不必要だ。私がつまらない文章を書いたなら、あなたは「クソつまんねー!」と思うべきだし、そうじゃないなら「いやいや、けっこうおもろいよ」と上機嫌に読み進めるべきだ。

 何はともあれ、今日はこれ以上何かを思いつきそうもないので、明日続きを書こうと思う。意味のないことではあるが、書き手としての私の気持ちを優先して、お別れの挨拶を。アディオス!

 ちゅぢゅく


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