見出し画像

書評 人生を狂わす名著50  三宅香帆   読書とは戦いである。本との距離感が明らかにおかしいと思える著者の人生を狂わす本は、とても興味深い。

画像1

著者は、京都大学の現役大学院生なのだそうだ。
彼女の人生を狂わせた50冊についての書評が本のすべてだ。

まずは、そのラインナップから・・・
読んだことのある本* 積み上げ本+
既読28冊 積み上げ本3冊でした。

『高慢と偏見』ジェイン・オースティン *
『フラニーとズーイ』J . D . サリンジャー +
『眠り(『TVピープル』所収)』村上春樹 *
『図書館戦争』有川浩 +
『オリガ・モリソヴナの反語法』米原万里
『スティル・ライフ』池澤夏樹 *
『人間の大地』サン= テグジュペリ *
『グレート・ギャツビー』スコット・フィッツジェラルド *
『愛という病』中村うさぎ
『眠れる美女』川端康成 *
『月と六ペンス』サマセット・モーム *
『イメージを読む』若桑みどり *
『やさしい訴え』小川洋子
『美しい星』三島由紀夫 *
『死の棘』島尾敏雄 *
『ヴィヨンの妻』太宰治 *
『悪童日記』アゴタ・クリストフ +
『そして五人がいなくなる』はやみねかおる *
『クローディアの秘密』E . L . カニグズバーグ *
『ぼくは勉強ができない』山田詠美 *
『おとなの進路教室。』山田ズーニー
『初心者のための「文学」』大塚英志 *
『妊娠小説』斎藤美奈子
『人間の建設』小林秀雄・岡潔
『時間の比較社会学』真木悠介
『コミュニケーション不全症候群』中島梓
『枠組み外しの旅「個性化」が変える福祉社会』竹端寛
『燃えよ剣』司馬遼太郎 *
『堕落論』坂口安吾 *
『アウトサイダー』コリン・ウィルソン
『ものぐさ精神分析』岸田秀
『夜中の薔薇』向田邦子
『東京を生きる』雨宮まみ
『すてきなひとりぼっち』谷川俊太郎 *
『チョコレート語訳 みだれ髪』俵万智、与謝野晶子 *
『ぼおるぺん古事記』こうの史代 *
『百日紅』杉浦日向子
『窮鼠はチーズの夢を見る』『俎上の鯉は二度跳ねる』水城せとな
『二日月(山岸凉子スペシャルセレクション8)』山岸凉子
『イグアナの娘』萩尾望都 *
『氷点』三浦綾子 *
『約束された場所で』村上春樹 *
『存在の耐えられない軽さ』ミラン・クンデラ *
『春にして君を離れ』アガサ・クリスティー
『ティファニーで朝食を』トルーマン・カポーティ *
『光の帝国―常野物語』恩田陸 *
『なんて素敵にジャパネスク』氷室冴子
『恋する伊勢物語』俵万智 *
『こころ』夏目漱石 *
『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ +

小説も多いが、文学評論や他の分野にも幅広いのがわかる。聞いたことすらないタイトルもある。私も、まだまだだなぁと思うのでした。

『ぼおるぺん古事記』が選ばれているのは?です。
古事記に関して書かれているものなら、他にも良書はあったのにと思われるし、俵万智の作品が
2作品入っているが短歌の歌人なら、もっと優れた読み手は他に山ほどいます。
これはバランスを考えてという出版社の意向が見え隠れします。
村上春樹にしても、本筋でないオウム事件を扱った『約束された場所で』を入れるのは、どうなのかと思う。意図は理解できるが少し不満だ。

著者は、読書を戦いであると言っていた。
この書評のすべてを読むと、何となくわかる気もしてくる。
彼女は、作品との距離が圧倒的に近い。
傍観者のような視線ではなく、もっと近くで見ている戦場カメラマンのような視点なのではないのかと思う。故に、本質をよく見抜いている。
それは私も本が好きだからわかる。この人の実力は、相当なものだと思いました。

例えば、『フラニーとズーイ』。


基本的に、青春小説は「自意識が上滑った小説」になりやすい。
これは本質を見事についている。
主人公の自意識の流れが青春小説の成功のカギのように、私もずっと思っていました。

『高慢と偏見』では


古典と呼ばれる作品は、いかに人間が立派になることができないのか、を教えてくれるから古典たり得る。
これも同感。古典は、現代小説よりも人間っぽいものが多く。たいていの登場人物は立派じゃない。


三島の作品では、「仮面の告白」や「金閣寺」ではなく『美しい星』を選んでいる。
三島についての考察が愉快だ。

こんだけ自分の思想や美学を「本気で」信じている人なんて、たぶん三島由紀夫以外にいなくて・・・
思わず、にやりと文面を見て笑ってしまった。

『死の棘』のようなメンヘラ小説に対しては・・・

この妻、ひたすらに夫を責める。というか攻撃する。夫はひたすらに耐え忍ぶのみ。・・・言ってしまえば、これだけの小説なんです「死の棘」

なるほど・・・。
『燃えよ剣』に対しては、土方をカッコいいと誉めちぎる。実際、この小説の土方はかっこいい。

この小説を読むと「カッコいいって、結局、何だろう」と思います。

三浦綾子の「氷点」について語っている部分はとても共感できる。

人間は永遠に満たされない。なぜなら、人間は幸福にすら飽きてしまうから
このように、見事に作品の核をついてくる。
これらの作品を読んだ人なら、この作品評がいかに的確であるかがわかって貰えると思う。
単に、私と考えが同じだから、その部分に共感したのかもしれませんが、私には、このように思っていることを的確な言葉で言語化するセンスがない。だから、彼女のセンスには脱帽するばかりです。

もちろん、作品解釈のすべてに賛同しているわけではありません。

『眠れる美女』川端康成の解釈は私とではかなり違う。


性のフェチシズムから、死のフェチシズムへ傾けられます。
この眠っている少女を美しい死体になった時を想像するとのことです。
それは違うと私は思う。死体になぞ欲情するものか。
主人公は不能な老人である。眠っている少女を自由にできるということなのだ。
決して、眠っている少女=死んでいる少女じゃない。
生きていると思っているから、老人は、この行為をするのだ。
通常なら、老人は美少女には選ばれない存在である。でも、眠り続けているという状況下では
老人は彼女を支配できる。独り占めできる。つまり、これは独占欲の問題で、死んでいる=存在が無なのだ。それだと意味がない。というのが私の考えだ。

本の感想は、それぞれなので、実は自分と違う考えの方が読んでておもしろい。
本を読んで書評とかを書いた後、他の人の書評を読むことがよくあります。
その時、自分の考えと同じだと安心はしますが面白みはない。まったく意見が違うと、逆に「こいつ何か凄いな」と思うことがあります。今回は、このパターンです。
『眠れる美女』を死と紐づける発想は、実はおもしろかったりします。
その「無機質さ」の裏に、この著者は何を感じ取ったのでしょうか?。
たぶん、肌感覚レベルの何かだと思うのですが、川端が、そこに屍姦という概念を重ねていたとしたら、かなりの狂気ですし、この本の著者がそう感じているのだとしたら、まさしく、川端の文学に狂わされたと言えるでしょう。私は、そこまで川端はド変態ではないと思います。しかし、確かに『眠れる美女』には、川端先生の変態的な部分が文面から泉のごとくあふれ出ているのも確かです。
人生を狂わす名著、まさに、彼女にとって、これらの作品はそうなのだということが、よくわかるのでした。読む価値のある本だと思います。たくさん、読みたい本が見つかりました。
『オリガ・モリソヴナの反語法』米原万里さんは、ぜひとも読んでみたいです。

#人生を狂わす名著50

#読書の秋2021


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?