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懐かしい黄金時代の記憶④ Med Bed

カップをテーブルに置いて瞑想の準備を始める。今日では、人口の7,8割ぐらいが瞑想している。特に地球に住む人は、自然の助けを借りやすいというのもあって、9割ぐらいが瞑想しているといわれている。

スペースコロニーでは、地球上と同じような昼夜のサイクルというのがないため、人工的に明るさや時間設定をすることで対応している。やはり地球発祥の人類には太陽の光が重要であるらしく、遠く冥王星軌道まで何らかの形で太陽の光が届けられるようにシステム化されている。

日常的な瞑想により意識が高くなり、余計なことを考えたりする人は大幅に減少した。人々の食生活の変化や、日常的労働からの解放によってストレスにさらされることがなくなったこともあり、人類の寿命が格段に延びることになった。中でも大きな影響を与えたのがメドベッドの登場だった。

2020年ごろから始まった世界的流行病によって、世界中の人の往来がピタッと止まり、約2年に渡って半鎖国のような状態になっていた。流行当初から死者数はかなり限定的で、既往症を持つ高齢者が圧倒的に多かったにもかかわらず、各国は非常に厳しい規制を設け、人々をそれに従わせようとした。

加えて、ほとんど何の影響もなった中高年から若者まで、その発症を防ぐという名目で大々的なワクチンキャンペーンが多くの国で行われた。それまで一般的だった手法と異なり、特定の型のものに対応できるようにDNAを改変するという全く新しい技術で、治験も終わっていなかったにもかかわらず、多くの人は同意書もろくに見ずにサインしてそのワクチンを接種した。

接種者は特に当時の先進国地域に多く、8割以上が打った国もあった。不思議なことに、この時期はなぜかインフルエンザの流行が例年の1000分の一という異常事態だったのだが、それについて大きな議論がなされることはなかった。

異変が起こったのは、流行から2年半ほど経った2022年秋で、各国から接種者の死亡の激増、原因は不明ながら超過死亡が例年と全く違うペースで推移しているということが報告されるようになった。

この影響を、かなりの部分回避したのはアフリカ諸国だった。この大陸は、それまで何十年間も出血熱や後天性の免疫不全病、その他ワクチン接種によって散々な目にあわされてきたため、この時の世界機関によるグローバルな締め付け推進には徹底して反対する国が多く、接種率も総じて上がらなかった。

2023年になると、最初は薬害被害者の救済の様相を呈していたこのワクチン接種は、第二次世界大戦中のナチスが行ったのと同様の戦争犯罪行為に相当するということで、各国の保健当局や医師会、製薬会社、更にはそれを宣伝したメディアまで、様々な組織に対する訴訟が爆発的に増加した。

この流れを受け多くの国では政権が交代し、国さえも巻き込んで人口削減を図ろうとした人々の存在が明るみに出て、あちこちでデモや暴動が起こった。一方でこれらを主導した指導者たちの多くが、すでに逮捕・処刑されているという事実が公表されると、人々は怒りのやり場を失って更なる大混乱に陥った。

その中であわや世界各国で内戦か!?と思われたタイミングで全世界に公表されたのがメドベッドだった。今までの投薬などの治療とは全く違う技術で、その人の成長が終わる30代半ばの身体の状態に戻すことができ、あらゆる疾患を治療することができるということで、一転して全人類が歓喜する事態となった。

最初は各国に100台程度が配備され、症状の進行度合いのスクリーニング後に優先順位の高い人から順に治療が開始された。技術情報が惜しみなく開示されたことにより、装置がものすごいスピードで増産され、わずか3年ほどの間に全人類がメドベッドを使うことができるという奇跡が実現した。

同時に、当時の西洋医学的な投薬中心の治療と呼ばれるものが、実はほとんど意味がなかったことが明るみに出たことで、既存の医療というものが音を立ててガラガラと崩れていくことになった。

この頃から、老化はストレスがもたらす「病気」であり、それまでの食生活のスタイルがそれを加速するものであるということが知られるようになっていった。一部の人々には、いくら身体を痛めつけても元に戻せるため、無茶なスポーツや暴飲暴食に走る者もいるにはいた。

一方で、メドベッドの作用なのか、食べることを必要とする人々が少しずつ減っていき、それまで1日3食、肉を中心とした食事を摂ってきた人々が、段々とその重い波動の食事が出来なくなっていき、食事の回数自体も段々と減っていった。

10年後ぐらいにはベジタリアンないしはビーガンの食事をする人が7割ぐらいになり、それらの人の平均的な食事は1日1回程度になった。さらに5年程経つと、フルーツや液体のみで生きる人が3割ぐらいになり、その人たちの食事頻度は1週間に1回程度まで減少した。

残りの7割の人もほぼベジに移行し、食事回数も2,3日に1回程度になっていた。肉を食べる人も残ってはいたが、数%程度で、家畜ではなく山野の野生生物や魚を食べるような感じになっていった。これは、どちらかというと増えすぎた動物のバランス調整のためだった。

トリガーとなったのはメドベッドだが、人々の意識が変わっていくのに瞑想が大きな役割を果たした。特に朝日や夕日は多くのエネルギーを含んでいるので、この時間帯に瞑想することで身体が必要とするエネルギーのかなりの部分を得ることができるため、それを実践する人が増えていった。

瞑想の実践者が増え、食事の回数は全世界的に減っていき、それによって農地として使っていた土地がどんどんと森に戻っていくということが起こった。それを進めるために人々は木を植え、地球は加速度的に緑化が進んでいった。

さっき届いた西瓜も、今しがた飲み終わった野草茶も、その場のエネルギーを取り込んで身体に循環させるために摂っているだけで、その栄養を得るのが目的ではない。

今となっては、多くの人が植物を育てるのは、その場を整え、イヤシロチにしていくのを喜びとしているからで、自分の不安から目をそらすためや、不足感を満たすための食事は必要がなくなっている。

これらの人類の種としての意識の変化が、爆発的な人口増加と後に訪れる宇宙進出を後押しする原動力となった。今日では、世界最高齢は180歳となり、平均寿命は毎年更新され、今は150歳となっている。

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