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家庭医が挑戦する、これからの在宅医療と地域連携とは

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〈プロフィール〉
■氏名:鈴木 昇平
■役職:医療法人結新会(musubi Group)  理事長 兼
      結新会ホームケア鈴木クリニック 院長
■経歴
平成17年 山梨医科大学医学部 卒業
平成17年 同仁会耳原総合病院
平成22年 淀川勤労者厚生協会西淀病院
平成22年 亀田ファミリークリニック館山
平成23年 大阪きづがわ医療福祉生活協同組合
     たいしょう生協診療所
令和3年   結新会ホームケア鈴木クリニック
■資格・所属
大阪市大正区医師会 理事
日本プライマリ・ケア連合学会認定プライマリ・ケア認定医
日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療専門医
日本プライマリ・ケア連合学会認定指導医
認知症サポート医

‐医師を目指した理由とは?

 子供の頃から生き物に興味があり、生き物を扱う仕事につきたいと思っていました。大学受験で浪人して「どうせ浪人するなら、生き物の最高峰の人間を扱う医師になろう」と決意しました。立派な動機でなくてすみません(笑)なので、学生時代や研修医になりたての頃は外科系の医師を目指していました。外科医とは真逆の家庭医へ方向転換のきっかけとなったのは救急外来での経験でした。救急外来には、少なからず「しんどい」などの不定愁訴で来院される患者さんがいます。検査をしても異常無く「様子を見ましょう」で帰宅させられることが多いですが、そういった患者さんも「きちんと診療できるようになりたい」と思ったことが、家庭医療の道に入ったきっかけです。

‐家庭医の仕事内容とは?

 みなさんは家庭医ってどんなイメージでしょうか? 私は家庭医療専門医です。家庭医療は20世紀末に欧米で発展した、比較的新しい専門科です。家庭医療は家庭の医学ではありません。呼称の由来は「二つの家庭」です。患者さんをケアするためにはこの「二つの家庭」を知る必要があります。一つは、その患者さんがどんな「家庭」で育ったのか。二つ目は、その患者さんが今どんな「家庭」で生活しているのか。そして、それらを知るためには、患者さんとの継続的な、良い関係性が必要となります。そこを重視するのが私たち家庭医です。

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‐musubi Groupに入ったきっかけは?

 地域医療を担う病院で15年ほど働き、独立を考えていた頃にmusubi Groupの代表安部と出会いました。musubi Groupは医療介護系のベンチャー企業です。代表の安部は「大学で社会福祉を学んでも、いざ社会に出た時、優秀な人材が働きたくなるような会社がない。そういう会社を作りたい」と起業し、「最期まで自分らしく生活できる地域を創る」という理念の基、運営されてきたことに共感しました。
 医療法人結新会(musubi Group)は「組織的な在宅専門クリニックを作る」ことを掲げております。特に在宅医療は多職種連携が重要です。医師の仕事も処方箋を書くだけではありません。多方面にわたる膨大な仕事があり、業務の効率を高めていかないと結局はケアの質を落としてしまうことになります。私は病院でQI(Quality Indicator、またはQuality Improvement)事業を担当していましたので組織的な医療には興味があり、また長年研修医の教育に関わってきた経験も、この若い会社なら生かせるのではないかと思いました。独立開業と最後まで迷いましたが、代表の安部はじめ、様々な経歴を持つタレント豊富な人材と一緒になら「一人ではできない、大きなことができるのではないか」と考え、musubi Groupとして一緒にやっていくことを決めました。

‐仕事に対する考えやこだわりは?

 医療法人結新会(musubi Group)では、家庭医療学に基づいた在宅医療をおこなっています。医学情報は常にアップデートし、スタンダードな医療を提供します。そして、患者さんやご家族の話をしっかり聴いて、医師や看護師と「なんでも話せる、頼れる」関係性を作ります。そういったことを実践するには時間が必要です。医師や看護師が患者さんにしっかりと時間を取れるよう、事務スタッフと協力して日常的に業務の効率化に取り組んでいます。当法人は業務改善に積極的ですが、規模拡大のためにだけ行っているのではなく、医療の質を担保するために行っています。目の前の患者さんをどのように診ていくのがベストなのか?という問いが常に出発点で、私たちの努力の源は患者さんです。そこが医療法人結新会(musubi Group)のこだわりですし、法人が大きくなっても忘れないようにと、スタッフでいつも会話しています。

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‐立ち上げから1年経過したが現在の状況は?

 2022年4月で開院から1年が経ちました。現在*の訪問患者数は居宅95名、施設11名で、1日の訪問件数は10名程です。この1年で44名の患者さんをご自宅でお看取りしました。患者数ゼロからのスタートでしたが、当院と連携して頂いた方からのリピートやお口添えも多く、現在は月20〜30件程度の紹介や相談を頂いています。最近は患者さんやご家族からの直接の依頼も増えています。地域包括ケアセンターからの所謂「ごみ屋敷」の相談や、高齢者だけでなく若年者の引きこもりや精神疾患でお困りの相談もあり、地域の中で困った時の相談先のひとつとして認知され始めていることを実感し、家庭医としてもやり甲斐を感じているところです。
*2022年3月末時点

‐教育体制や研修について教えてください。

 医療法人結新会(musubi Group)は教育やスタッフの成長を重視し、コストをかけて取り組んでいます。特に看護師は当法人の要であり、地域連携の中心です。病院からの情報、ケアマネジャーや訪問看護、薬局からの情報、そしてご家族からの情報等、全てが看護師に集まってきます。困ったらとりあえず「結新会クリニックの〇〇さんに相談してみよう」と思ってもらえるような「地域のキーパーソン」とも言える看護師を育てることを目標にしています。
 当院では看護師に求める能力をリスト化し、OJTを行ない、評価とフィードバックを繰り返し行なっています。また、併設の訪問看護ステーションmusubi大正と合同で、ケースカンファレンスを毎週金曜日に行っており、じっくりと考えて学ぶための時間も確保しています。

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 医師の働き方の工夫としては、毎日の訪問を午後早めの時間に終われるようなシフトを組み、訪問から帰ってきた後、医師と看護師が雑談の中でその日の診療を振り返り、学びを深めることができる時間を作る努力をしています。さらに木曜午後は原則訪問予定を入れず、医師が外部のカンファレンスに参加する等、学習のための時間を確保しています。

‐在宅医療の面白さとは?

 私は医師になって17年で、それなりの経験をしてきましたが、在宅医療の現場ではそんな私でも年に何回かは心を揺さぶられる出来事があり、涙が出てしまうことがあります。患者さんの生き様だったり、ご家族の努力だったり。中には奇跡と感じるような出来事もあります。家庭医は患者さんの人生の物語を聴いていきますから、訪問診療という仕事は毎日がドラマです。患者さんの人生の重要な部分に、短期間かもしれませんが同行させてもらえる事のやり甲斐は、とても大きなものがあります。

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 また、開院してから予想以上の依頼を頂いており、在宅医療に対してのニーズの大きさを感じています。しかし、病診連携や医介連携については課題を感じることも多く、私は医師会理事も担当しているのですが、一医療人として、医師会として、地域医療をより良くするために出来ることは何か?と考える毎日です。

‐これから在宅医療や訪問看護に挑戦したいと思っている方にメッセージ

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 医療法人結新会(musubi Group)は何か問題があった時、医師、看護師、事務スタッフが同じ目線で「自分にできることは何か?」と考え、みんなで頭を突き合わせて解決策を考えることができる環境を持っています。仕事を一緒に考え作っていってくれる人。人に興味を持ち、様々な人との連携を楽しめる人。「地域のキーパーソン」になって地域医療を作っていきたい人。患者さんやご家族の人生のドラマに立ち会い、一緒に悩んだり、喜んだりしてみたい人。そういう人を、私たちは待っています。


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