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Arctic Monkeys 全アルバム聴いてみた

 今回は、21世紀のロックシーンにおける最大のモンスターバンド、Arctic Monkeys(アークティック・モンキーズ)のデビュー作から最新作『The Car』までの全作品を一周ずつ聴いてみて、その率直な感想を綴っていきたいと思います。


 個人的には、ちょうど私が洋楽にハマり始めたタイミングでリリースされた1stと、その次の2ndまではリアルタイムで聴いていたのですが、その後UKロックから離れ、90年代のEMOにしばらく傾倒したことで、3rd以降は遠ざかってしまっていました。アルバムを通しで聴くことはなく、曲単位で断片的に数回聴いた程度。

 ただ、『AM』が2010年代のロックを代表する名盤という高い評価を得ていることや、『Tranquility〜』で大胆に音楽性をシフトしたことはやはり気にはなっていましたので、新作も出るこの機会に、全部聴いてみようかと思い立った次第です。

 もし同じような境遇の方が居ましたら、是非参考にして頂ければ幸いです。

 それでは早速、1stからリリース順に行きます。


2006年 1st 
"Whatever People Say I Am, That's What I'm Not"

 高校生の頃、洋楽、ロックに夢中になるきっかけをくれたアルバムの一つ。当時、同じUKガレージロックのThe ViewやRazorlightなんかも聴いていたけど、やっぱりこのアルバムが別格でした。ストレートに掻き鳴らされるギターサウンドはまるでスパイ映画のような不穏さを秘めながらも非常にスリリングで、Matt Heldersのドラミングはパワフルでなおかつトリッキー。そして何より唯一無二なのがAlex Turnerによる歌唱。メロディラインに対して、これでもかと言わんばかりにとにかく言葉数を多く詰め込み、それを捲し立てるように歌い上げる様がたまらなくクールに映ったのです。当時洋楽を聴き始めたばかりの私にとって、"When The Sun Goes Down"の楽曲展開はまさに革命でした。『世の中にはこんな凄い音楽があるのか』とさえ思ったものです。今回本作を聴き直してみて、今となっては青臭さを感じる部分も確かにあるし、本人達が『1stの曲をライブで演奏していると、他人の楽曲をカバーしているような気分になる』なんて発言をしているのも知っているけど、やっぱり個々の楽曲が持つ強度には凄いものがあるし、素直にカッコいいと今でも思います。これを当時20歳の若さでやっていたというのには改めて衝撃を受けました。ロック史における意義も大きい。"A Certain Romance"は、若いエネルギーと、まるでベテランのような哀愁が同居した凄い曲。展開・構成も素晴らしいです。

お気に入りトラック:A Certain Romance



2007年 2nd
"Favourite Worst Nightmare"

 当時高校生だった私は、この2ndを聴いて「凄い」と感じると同時に「??」という状態にもなりました。「凄い」と思ったのは、1stでは真っ直ぐ一辺倒気味だったのに対して、緩急のある多彩なアプローチができるようになっていたことと、よりスリリングさを増した楽曲展開。特に"Brianstorm"のイントロはそれだけで場の空気を支配できるような強烈な異彩を放っていましたし、"D Is for Dangerous"のトリッキーさ、"505"のドラマティックな展開には当時から夢中になって聴いていました。ただ、1stのポップさが一切排除されたような、緊張感漂うダークで不穏な空気感に飲み込まれてしまったことで、多彩なアプローチがかえってストレンジなものとして印象づけられてしまい、「??」となってしまっていたのだと今にして思います。いま聴き返してみると、どの曲もダークながらも意外とキャッチーなことに気づかされますし、アイディアに富んだアプローチには、1st以上の興奮を覚える瞬間もあります。特に7曲目以降、後半の展開のスリリングさに当時まだ気づけておらず、地味な印象さえ受けていたのが今となっては嘘のよう。結果として私は本作を最後にArctic Monkeysの作品から離れてしまいましたが、15年後の今、もの凄いロックアルバムであることを体感しています。

お気に入りトラック:505



2009年 3rd
"Humbug"

 "Crying Lightning"だけは、当時Music Videoをたまたま見る機会がありましたが、それ以外の曲は全て今回が初聴です。全体を通じて、曲のテンポはぐっと抑えられ、サウンドはずっしりと重く、低く、グルーヴィ。唯一、疾走感があると言えるのは"Pretty Visitors"くらい。ただ、この曲も一癖も二癖もある楽曲展開で決してキャッチーではありません。"Potion Approaching"もその類。ダークでシリアスな空気感は元々1stや2ndからありましたが、疾走感が削がれた分、余計にシリアスさを感じます。ただ、テンポは遅くなっても、ドラムの力強さとトリッキーさは健在で、本作でもしっかりと存在感が示されています。作品全体から醸し出されている"貫禄"は、このドラミングによる貢献が大きいように思います。アルバムの総評としては、23歳という若さでここまで大きなスケール感のあるサウンドを鳴らせるのは凄いと思うけど、1stや2ndほどの"振り切った凄さ"までは感じられなかったというのが正直なところ。ソングライティング的に目立っているのも"Cornerstone"くらいで、個々の楽曲単位で言っても、今一つこれという決め手に欠けると思ってしまいました。音楽性の成熟スピードがあまりにも急速で、まだアウトプットが完全には追いついていない状態、発展途上のアルバムなのかなと。とはいえ、バンドにとって大きな転機になったアルバムなのは間違いないと思いました。

お気に入りトラック:Cornerstone



2011年 4th
"Suck It and See"

 冒頭の"She's Thunderstorms"から、サウンド面に開放的な光を感じました。非常にグルーヴィで重低音が効いていながらも、最も印象的なのはクリーントーンなギター。それは続く"Black Treacle"のギターソロにおいても強く感じられます。この2曲はとにかくソングライティングが素晴らしい。かと思えば、"Brick By Brick"や"Don't Sit Down ’Cause I've Moved Your Chair"、"Library Pictures"のような、パワフルでダイナミックな楽曲も揃っています。作品全体で言うと、基本的には前作から引き継いだ重厚なサウンドが基盤となっているように感じました。そこに、1stや2ndに見られたキャッチーさがスパイスとして加わることで、これまでにない深み・奥行きのある作品へと仕上がっています。ただ弱点を挙げるとすると、後半の楽曲が若干弱く、失速気味かなと。いずれの曲も一定のクオリティはクリアしていると思うのですが、その中で一曲でも抜きん出た存在があれば、一段階上の評価になっていたような気がします。ただ前半はかなり好きでした。

お気に入りトラック:She's Thunderstorms



2013年 5th
"AM"

 2010年代を代表するロックの名盤として名高い5thアルバム。1曲目の"Do I Wanna Know?"から既に王者の貫禄が漂っていますね。スローでシンプルで、荘厳な重低音が鳴り響きます。続く2曲目の"R U Mine?"では、ヘビィさと力強さはそのままに、よりラウドでダイナミックなサウンドを展開します。その後もソリッドでミニマルなギターロックナンバーが続く。真新しいアイデアや驚くような展開こそ無いものの、王道のロックンロールを圧倒的な強度で突き詰めています。王道という意味では1stの要素もあるし、ヘビィなサウンドという意味では3rdの要素もあるのかなと。そういう意味では、3rdは本作への布石だったとも受け取れますね。3rdでの音楽性の変化が本作で結実したと。逆に本作の6〜8曲目の流れは、次作以降への布石になっていくのかな。全体的にシンプルでとっつきやすくクオリティも高いので、彼らの入門としてもロックの入門としても最適な作品なのかなと思います。

お気に入りトラック:R U Mine?



2018年 6th
"Tranquility Base Hotel & Casino"

 本作で大胆に音楽性をシフトしていたのは耳にしていたのである程度覚悟はしていたものの、やはり1曲目の"Star Treatment"からその異質さに驚かされました。煌びやかで浮遊感のあるサウンドには、これまでのどの作品からも共通性を見出すことはできません。ただ、Arctic Monkeysに求める音楽像というのは一旦置いておいて、この陶酔感の強いサウンドに思いがけず惹きつけられたことは確かです。
続く"One Point Perspective"へと聴き進めた時点で、既にこの豪華絢爛なホテルのラウンジの片隅で寛いでいる自分に気付かされます。その後も、前作までのサウンドを感じさせるような楽曲は皆無と言っていいでしょう。とはいえ、決してロック色が完全に消えたわけではありません。あくまでアート性の強い、優雅でスペーシーなロック、といったところでしょうか。ロックバンドとしてのグルーヴ感は健在です。印象に残った楽曲を挙げるなら、サウンド面だけでなくソングライティング面でも目立っていた"Four Out Of Five"かな。正直、聴く前は取っ付きづらい難解なアルバムを想像していたけど、意外にも一周目で「イイじゃん」となりました。ただ、『Arctic Monkeysでも聴くか』となった時に、果たして本作をチョイスするかどうかはまだ分かりません。こればっかりは、聴く回数を重ねていった時にどう感じ方が変わってくるか次第ですね。

お気に入りトラック:Four Out Of Five



2022年 7th
"The Car"

 初期ファンが求める原点回帰でもなければ、前作の音楽性をそのまま引き継ぐわけでもなく、またしても新たな領域を切り拓いたという印象です。広く捉えれば、前作寄りなのでしょうが。ただ、前作がサウンド重視なら、本作はソングライティング重視な印象を受けました。ストリングスを多用してはいますが、全体的には音数がぐっと削ぎ落とされていて、"歌"を強調しているなと。ただ、音数は削ぎ落としても、一つ一つのサウンドは前作以上にアイディアに満ち溢れていて、分かりやすいフックはなくとも全く退屈させません。特にそれを感じたのは2曲目の"I Ain't Quite Where I Think I Am"。私はどちらかと言えばキャッチーな音楽を好んで聴く方ですが、本作はそんなリスナーでも比較的受け入れやすいんじゃないかなと。"Body Paint"の楽曲展開、凄みがありますね。圧巻でした。

お気に入りトラック:I Ain't Quite Where I Think I Am"



最後に、個人的に好きだった順番を。
1. Whatever People〜 (1st) 
2. Favourite Worst Nightmare (2nd)
3. AM (5th)
4. The Car (7th)
5. Suck It and See (4th) 
6. Tranquility Base Hotel & Casino (6th) 
7. Humbug (3rd)

 懐古主義、保守的と言われるかもしれませんが、何やかんや1stを一番に据えてしまいましたね、結局。決して彼らの音楽性の変化を否定するつもりはないですし、むしろ"進化"として肯定的に捉えているつもりではあるのですが。まあ、個人の率直な感想なので背伸びしても仕方ない。

 一つ言えるのは、1stや2ndが大好きで、それ以降は聴いていないという方でも、最新作"The Car"をはじめ、最近の作品にハマれる要素はたっぷりあるということ。順位こそ低めにしましたが、4thや6thも私はかなり好きでした。

 というわけで、未聴の方は是非。

 最後まで読んで頂きありがとうございました。

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