レビュー TENDRE "PRISMATICS"
今回は、マルチプレイヤー河原太朗のソロプロジェクト、TENDRE(テンダー)の通算4枚目となるフルアルバム『PRISMATICS』のレビューを書いていきたいと思います。
ちょうど1年前の2021年9月、前作『IMAGINE』でメジャーデビューを果たしたTENDREこと河原太朗。シンガーソングライターでありながら、自らベース・ギター・キーボード・サックス等、数々の楽器を演奏するマルチプレイヤーでもある。
2017年にソロデビューし、これまでにフルアルバムを3枚、EPを2枚と、コンスタントなリリースを続けてきたが、今回もわずか1年というスパンで新作を届けてくれた。
ネオソウルからファンク、R&B、ヒップホップまで、多種多様なジャンルの音楽の要素を幅広く吸収しつつ、最終的にはポップスとして落とし込む独自のスタイルで着実にその地位を築いてきたが、前作『IMAGINE』(2021)では、それまでの『NOT IN ALMIGHTY』(2018)や、『LIFE LESS LONELY』(2020)のような、都会の夜の闇を照らすネオンライトの情景が浮かぶようなエレクトロニックで煌びやかな音像からは一転し、昼下がりの穏やかな光、多幸感を連想するような優しい音像へと変貌を遂げた。
メジャーデビューだからと言って変に気負うことなく、リラックスした雰囲気でよりシンプルな楽曲を作る彼の姿勢には好感が持てたし、素晴らしい作品であることには間違いないのだが、その一方で、彼の従来の持ち味であった、ファンキーでグルーヴィーなリズム、洗練された煌びやかなサウンドを前面に出した楽曲がもっと欲しい、という気持ちがあったのも事実。
そんな中で今年発表された、先行シングルの"Light House"と、"Have A Nice Day"。この2曲の色彩豊かな音像を聴いて期待は膨らみ、アルバムのアートワークを見てその期待は更に高まった。
そしてようやく今、アルバムの全貌が見えてきたところでこのレビューを書いているのだが、本作はそのタイトルの通り、全体を通じて先行シングル2曲のような音像で統一されており、まるで万華鏡のように色鮮やかで、眩いばかりの煌びやかさを放っている。そういう意味では非常にコンセプチュアルな作品とも言える。
前作で言えば"PARADISE"、前々作で言えば"LIFE"のような、絶対的キラーチューンを本作の中で挙げるとするならば、先行シングルの"Have A Nice Day"ということになるだろう。彼のキャリアの中でも最もアップテンポで、間違いなく本作を牽引する存在。
他に、本作を牽引する楽曲をいくつか挙げるとするならば、2曲目の"FANTASY"と、7曲目の"SUNNY"を推したい。この2曲に関しては、hiphopやR&B等、多種多様なジャンルの音楽からの影響が最も巧みにブレンドされた楽曲だと感じる。特にグルーヴィで、フックが効いている楽曲だ。
またTENDREと言えば、遊び心に溢れた楽曲を盛り込むことで作品にアクセントをつけるのが上手いイメージだが、本作でも様々なゲストを迎えることでよりその持ち味が発揮されている。3曲目の"MISTY"ではドラマー・松浦大樹を迎え、非常に印象的なビートアプローチを展開している。5曲目の"OXY"ではゲストボーカルAAAMYYYの歌声を前面に押し出し、河原がバックコーラス的に立ち回るアプローチが新しい。9曲目の"Moon"では、実父であるジャズベーシスト河原秀夫との共演を果たしている。ウッドベースの荘厳な響きが、より穏やかで温かみのある楽曲へと仕上げている。
アルバムの最後を飾るのは、穏やかさと温かさで作品全体を包み込むかのようなバラード曲、"PRISM"。本作の神秘的な雰囲気を象徴するような、荘厳さを秘めた美しいアウトロが印象的。
一曲一曲の単体でのインパクトと言うよりも、どちらかと言えば作品全体でのサウンドの統一感にこだわりを見せた一枚。統一感を出しつつも、巧みにアクセントをつけることで、非常にバランス感覚に優れた全10曲37分と言えるだろう。
短いスパンながら、過去作とはまた違った新しいサウンドを探求する姿勢も素晴らしいし、なおかつTENDREらしさが全く損なわれていないのがいい。
今後も、是非とも追いかけ続けていきたい存在の一人である。
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