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水野良樹#2 「今、気になるアーティスト/すごい歌詞の曲」

今、気になるアーティスト

今、アーティストごとに追っていくことの方が増えたかもしれません。自分にはないものを持っている人に惹かれます。たとえば【中村佳穂】さんや【Ryu Matsuyama】。


■中村佳穂の魅力とは?

昨年リリースされたアルバム『AINOU』にすごく衝撃を受けました。

彼女の場合は、もちろん音源として聴くのも素晴らしいのですが、その音源はある種の完成形ではなく、常に動いていて、ライブでもどんどん変わっていく。リアルタイムで作品が変化していくということが、彼女の作品には内包されているような気がして、それは自分にはあまりない感覚でした。

元々は絵をやられていた方らしいのですが、なぜ音楽を選んだのかというと、「音楽の方が早いから」と。「音楽の方が自分の感情や表現したいことがそのままダイレクトにすぐ出せるから。」そういった主旨のことをおっしゃっていて、自分がコミュニケーションツールとして使うときの音楽のあり方が、すごく近いところにあるなと感じました。

僕は古い人間なので、自分という人間と作品をしっかり分断して、つくったものはつくったものとして手放す感覚があるのですが、彼女の場合は自身と作品が地続きですごく近くにあるので、明日になったら変わっているわけですよね。人間が変わっているのと同じで。明後日にはもっと変わっていって、出会う人によっても変わっていく。その変化そのものも、作品の中に入っているのが、ある意味"今っぽい"のかもしれません。

また彼女のすごいところは、『AINOU』もそうなのですが、2年くらいかけてアルバムをつくっているんです。しかもそれが、単純に制作作業をしていましたと言える2年間というわけではなくて、一緒にアルバムをつくったミュージシャンたちと共同生活のような形で合宿をしている。スタジオに集まって一緒に演奏をしているというだけのコミュニケーションではなく、自分の肉体が同期するかのようなところまで行っている気がします。

スタジオライブで何に感動したと言えば、彼女にも感動したのですが、そのテンションにとてつもない波長で合っていくミュージシャンでした。「こういうバンドがありえるのか。」と。違う人間が数名いるのに、それが全く同じ人格を持っているかのように見えるということにすごくびっくりしました。僕らが当たり前だと思っている概念が軽々と覆されているように僕には見えました。


■注目のバンド・Ryu Matsuyama

単純に好きなんですよね(笑)。名前があるのでソロシンガーのように思ってしまいますが、Ryuさんというキーボーディスト兼ボーカリストととベーシスト、ドラマーが集まったスリーピースバンドです。

Ryuさんはほぼイタリアで生活をして、日本に帰国してきたという異色の経歴を持っていて、僕と世代は近いのですが、J-POPの影響をほとんど受けないで日本の音楽シーンにやってきた方です。本人もおっしゃってましたが、J-POPや日本の音楽にリスペクトや興味を持っていて、僕らが当たり前に聴いている日本の音楽をすごく聴いていているそうなんです。そのリスペクトが本来日本のものとは違う彼らのサウンドにうまく混ざり合っていて、サウンドで表されている情緒はすごく日本人的に感じます。その絶妙なバランスが魅力的だなと思いました。

演奏も素晴らしいですし、とにかくかっこいいですね。誤解を恐れずに言うと、メンバー3人が仲良しこよしではないんですよね。非常に良い意味で音楽として緊張感があり、それが変な甘さに繋がらないから、音楽だけで繋がっているということのすばらしさがあるのかなと思います。

ちょっと余談になりますが、解散前のバンドが実は一番良いものを世の中に出すような気がしているんです。解散前のバンドは、人間関係としては破綻していることが結構あるじゃないですか(笑)。全然生産的ではない理由で揉めていたりして。唯一音楽だけで繋がっている状態というのが生まれるんですよ。そういうとき、ステージ上ではミラクルが起きることが多いんです。変な情や変なストーリーとは隔絶されたところで、音楽が唯一の繋がりになり、唯一の輝きとなる瞬間はあるような気がしています。それをどう安定してバンドの中で生むかというのは、バンドが続く上では実はすごく大事だと思うのですが、【Ryu Matsuyama】は喧嘩しているわけではなく、すごくいい状態であるように外から見えているのに、それを実現している。素晴らしいバンドだと思います。


すごい歌詞の曲

すごく難しかったのですが、2曲考えました。
1曲は【椎名林檎】さんの『ありあまる富』。
もう1曲は【槇原敬之】さんの『cicada』。


■あまりある富/椎名林檎(2009)

とある番組で歌詞についてお話ししなければならない企画があり、いろいろな曲を聴いたんです。
その中で、『ありあまる富』を聴いて、本当に優しい歌詞だと思いました。
君はもう誰からも奪われることはない、君の命に君の価値は紐付いているんだという内容でした。

非常にざっくり言うと、今みんな不安じゃないですか。自分の価値を定義付けてくれるものは何なんだろうとすごく不安な状態のときに、たとえばすごく極端なことを言う正義や過激なことをいう正義に、あっという間に心を持っていかれてしまう。自分の価値を定義付けてくれるものがないからこそ、正しく見えそうなものや大きな声のところに逃げてしまっている。それがより激しい不安を生んでいる時代のような気がします。

そこに対して、「生きているだけでその生命にはすでに価値があるんだよ」という存在の肯定をしていて、今の時代に求められている言葉だと思うんですよね。それがすごくさらりと歌われていて、下手なメッセージソングより遥かに強い肯定、遥かに強いメッセージがそこには含まれている。かといって、【椎名林檎】さんがその曲について長ったらしい説明をするかというとそうじゃないと思うんです。【椎名林檎】さんが歌うからこそ成立する世界がありますよね。
ごつっとした言葉を歌っても、エンターテインメントとしても成立するし、もちろんアートとしても成立する。それはどの人でもできるかといったらそうではない。ごつっとした言葉を歌うことで軽くなってしまう人もいると思う。それは【椎名林檎】さんにしかできないことなのかなと思います。


■cicada/槇原敬之(1999)

【いきものがかり】でもお世話になっている、僕がすごく尊敬する、音楽プロデューサーの【本間昭光】さんから、この『cicada』というアルバムがすごく素晴らしいとあるとき教えていただき、出会いました。
よく僕らはJ-POPだと言いますが、じゃあ「J-POPって何ですか?」と聞かれたときに、「『cicada』みたいな曲です。」と答えたくなるよな、サウンドのレベルやポップスとしての素晴らしさがあるんです。

「cicada」=「蝉」の命の儚さを抽象的に表現しながら、いろいろな人の人生に繋がることを表現されています。
歌詞は、リアルであればより良い、写実的であれば良いというようなことも言われます。すごく大事な要素ですし、【槇原敬之】さんもそういう歌詞をたくさん書かれていて、すぐその風景が浮かぶような歌詞をいくらでも書ける方ですが、一方で『cicada』のように、ちょっと抽象的で想像を広げる余地がある歌詞は間口が広くて、どんな人でも何か自分なりの想像をすることができる、聴き手にすごく優しい曲なんですよね。それがJ-POPとして大事な在り方なんじゃないかと思っています。

僕は、人に聴いてもらうポップソングは、いろいろな物語を持っている聴き手たちが、自分の物語をそこに想像できる余地があって欲しいなとすごく思うんです。それが、【槇原敬之】さんの曲たち、特に『cicada』にはすごくある。別に聴き手に媚びを売っているわけでもなく、サウンドも素晴らしく高いクオリティを持っていて、素晴らしいバランスのとれた名曲だと思います。切ない曲ですね。


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