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「卒業したら何するの?」と聞かれても、怖がらなくていい。 ミュジキャリ・白鳥さゆりが考える音大生の歩み方

2020年が始まったばかりかと思えば、あっという間に訪れた10月。そして段々と感じ始める年末の気配と、迫ってくる進路問題。

「卒業したら、何するんですか?」

この質問に対してドキッとする音大生は、少なくないのではないでしょうか。
音楽の仕事1本で活動する道を選ぶか、一般就職をするか、はたまた働きながら音楽を続けるか……。自分で考えるだけでは、なかなか答えが出てこないと思います。

そこで今回はRENEW株式会社代表であり、音大生の就活サービス「ミュジキャリ」を運営する白鳥さゆりさんに“音大生が生き方を決める際に心掛けておきたいこと“について伺ってきました。

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白鳥さゆり (しらとりさゆり): 1988年神戸生まれ。ピアニストを目指し兵庫県立西宮高校音楽科、大阪教育大学芸術専攻音楽コース卒業。
2011年新卒でリクルートキャリアに入社。採用コンサルタントとして法人営業に従事。2013年社内最年少でリーダーとなる。
会社員×ピアニストのパラレルでキャリアを積むことに挑戦し、リクルートで働く傍ら出場した第18回ペトロフピアノコンクール(現:東京国際ピアノコンクール)にて第1位受賞。
2018年RENEW株式会社設立。2019年8月に音大生や音楽系学部生に特化した就活サービス「ミュジキャリ」をリリースし、リリース後1年で国内最大の音大生サービスとなる。

白鳥さんの音大入学ストーリー

ーー本日はよろしくお願い致します! 白鳥さんは音楽大学を出られてから一般就職し、さらにはご自身で会社を立ち上げ「ミュジキャリ」という音大生向けの就活支援サービスを運営しているかと思います。
現在に至るまでさまざまなことがあったと思いますが、まずは音大に入った理由を教えてください。

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白鳥さん(以下、白鳥):私は音大に入る前、音高に通っていたんですよね。ただ、音高に行くことを決めたのは中学3年生の夏頃でした。学校ではピアノが弾ける方でしたが、それまではむしろ勉強ばっかりしていたので、塾に1日8時間こもる……なんて日々を送っていました。

――えっ。なんでそこから音高に入ろうと思ったんですか?

白鳥:これまで千葉の学校に通っていたのですが、父が関西に転勤になったことで、関西の高校を受けなければならなくなったんです。私の家は”国公立主義”ということもあって、どこの高校に進学するか悩んだんですよね。

そのとき「公立で音楽科のある学校が兵庫県にあるよ!」ということを教えてもらい、元々音楽が好きだったこともあって、一気に興味が惹かれたことを覚えています。ただ、これまでヤマハでピアノは習ってたけど、ソルフェージュとかは本格的にやったことなかったから、急いでその高校の先生に習いに行き始めました(笑)。

――そうだったんですね!

白鳥:ただ、もちろん音楽は好きだったけど、小学校や中学校では人前で弾く機会も多かったから、音楽は「自分の得意なモノ」といった感覚もあったんです。

学校でピアノを弾く機会が増えてくれば、周囲にも「ピアノといえば私」といった認識ができてきて。そういった中で、気づいたら音楽が「自分の居場所を作るモノ」となっていたことも、音高に入ろうと感じた理由のひとつだったと感じます。そして、そのまま音大へと進学しました。

絶対ピアノで食べていく!と思っていた、音大入学時

――音楽の進路に進むことを決めたのは、高校受験のタイミングだったのですね。ではそこから音大に入った頃、卒業後のご自身はどんなことをしている(したい)と思っていましたか?

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白鳥:それはもう、間違いなく「絶対にピアノで食べていく!」と思っていました。だから大学が決まってアルバイトができるようになったタイミングで、「ピアノで食べていきたいなら、まずはピアノで仕事をすべきだ」と思ったんです。

地元にプロの方も演奏しに来るような有名な高級レストランがあったんですけど、学生の演奏者は当時募集していなかったんです。しかし自分で電話を掛けてお願いしたら、働かせてもらえることになって(笑)。思いを実現するために人一倍行動することは、当時から常に意識していたなぁと感じます。

――大学入学するくらいのタイミングでそこまでの行動力を発揮できるところに驚きです。すごすぎます……。

新卒で就職した理由

ーー入学当初は「ピアニストとして食べていく!」と考えられていたとのことですが、新卒で一般就職をするまでにどのような気持ちの変化があったのでしょうか。

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白鳥:それには理由が3つありました。学生時代、プロの方に混ざって演奏活動をしていましたが、本番当日だけじゃなくて仕込みの時間も考えると、いただける金額が見合っていないように感じてしまったんです。もちろん学生にとってはありがたい金額ではありましたが、そのままそれを生業にしていくことを考えると、中々大変だな……と感じたのが1つ目の理由でした。

――仕事内容・規模感にもよるところではありますが、基本的にはどんな仕事も本番当日だけ活動する訳ではないですしね。

白鳥:そうそう。それと、自分よりもピアノが上手な先輩でも他のアルバイトをしながら続けている人もいて。その進路自体はひとつの選択肢だと思うんですが、私にとってはワクワクする選択肢として捉えられなかったんです。

また、私は音高に入るまでは音楽以外の勉強や活動も頑張っていたからこそ、音楽の進路に進んでからは”あまりに音楽以外のことを体験できない環境”ということにも、違和感を感じる部分が少なからずありました。音楽だけを学ぶことで、人として成長できるのだろうか?という疑問といいますか……。

ただもちろん、そういう環境だからこそ”音大生ならではの強み”が生まれてくるとも言えるので、どちらが良いとか悪いとかということでは決してありませんが、そんなさまざまな気持ちが繋がったときに「試しに就活をしてみようかな?」と思ったんです。

就活をする後ろめたさ

――就活をしていたとき、卒業後に音楽以外の道を選ぶことを周りの先生・友達に言いづらかったことや、後ろめたさなどはありましたか?

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白鳥:それはかなり感じていました。音楽に対しても、周りの人に対しても。就活用のスーツで学校に行ったら目立つから、どこかで着替えてから登校する……なんて日もありましたね。

一方で就活の場でも「私なんて音楽しかできない」と思って、どこにも自分のいいところがないようにも感じてしまうことがあったんですよ。

でも実際周りの就活生の”これまで頑張ったこと”の話とかを聞くと、サークルがどうとかバイトがどうとか、「案外こんなもんか!」と思ったこともあって。音大では周りと切磋琢磨して技術を磨く日々を送っていたから、周りの就活生のそういった話を聞いたときに、自分がこれまで音楽を頑張ってきた価値の大きさに気づいたんです。

――バイトを○年以上続けましたとか、そういった話もよくありますよね。こっちはピアノを20年近く続けてる上に、毎日数時間練習してるよ!と思ったこと、僕も確かにありました(笑)。

白鳥:音楽を頑張ってきたことを音楽の場だけで活かさなきゃいけないと決まってるわけじゃないし、試しにこの頑張りを上手に伝えてみよう!と思ったところから、就活がどんどん楽しくなっていったんです。

起業に至るまで

――その後、RENEW株式会社を設立されたことや、「ミュジキャリ」のリリースなど、どのようなきっかけがあってご自身で事業を興そうと考えられたのでしょうか。

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白鳥:就活自体は大学3年生の6月くらいからやってたんですけど、自分がどんな会社に行ったらいいのかはすごく考えていました。

でもやっぱりピアノへの思いが拭いきれなかったこともあったから、このままの形ではなくて、就職して「ピアニストに戻れる自分になる」ということをコンセプトに就活してたんです(笑)。だから最初の3年でビジネス経験を音楽業界の誰よりも積んで、ピアニストとして独立しよう!と思って入社したんですよね。

――最初から会社を辞める前提で就活してたってことですか。その発想もこれまた!

白鳥:でも、仕事をやっていく中でビジネスの面白さに気づいた自分もいました。ビジネスの力なら、こんなに人のことを救えるんだとか。誰かのためになるものをこんなに作れるんだ、とか。そう思ったときに「ビジネスってめちゃくちゃ面白いな!」と感じたんです。

それからはピアニストとして自分自身で何かをやろうとしていた気持ちが、だんだんと起業という形にもシフトしていき、音楽の土台の上にビジネスという要素が加わった、今の自分の形に繋がりました。

音楽がなかったら…

――今に至るまで、音大で培ったどのようなことが生きているのでしょうか。もし音大に入ってなかったら、今のご自身はあったのでしょうか?

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白鳥:間違いなく、音楽を頑張っていなかったら今のアウトプットはできていないと感じますし、今の自分はいないと感じます。

具体的に音楽がどう活きているか。さまざまな側面があると思いますが、私は音楽を通して”チャレンジできる自分”になったなと思うんです。

私は幼少期から自己主張が強くて、自分がコレ!と思ったらやりきらないと気が済まなかったんですよね。でもそれって、集団生活においては時として邪魔になってしまう部分でもあって。

――出る杭は打たれる……的なことでしょうか。

白鳥:そうそう、みんなと足並み揃えなきゃとか。ひとりだけ目立っちゃいけないとか。それで苦しい思いをしたこともありましたが、ピアノだけはそうじゃなかったんですよね。

努力して結果を出せば出すほど演奏の機会をいただくことができたり、コンクールで賞を獲ることができたり、練習すればするほどうまくなったり……。ピアノのそういった側面が自分には合っていて、自分の目標達成意欲の強さを抑えずに、自分自身を認めてあげられるようになった気がします。

「今までこれだけピアノを頑張ってきたから、どんなこともやればできる!」という自信が身についたとでも言うのでしょうか。ピアノのおかげで自己肯定感が生まれ、他のことにも積極的にチャレンジしていけるようになったと思います。

――白鳥さんの根っこには「ピアノを頑張ってきた自分」がいて、そんな自分がいるからこそ、他のことにも積極的にチャレンジしようと思えるようになったということなんですね。

白鳥さんのこれから

――白鳥さん自身、今後はどんな風に歩みを進めていきたいのか、教えてください。

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白鳥:まだ「ミュジキャリ」は発展途上なので、就活する全音大生のインフラとなる存在を目指し、引き続き「音大生が安心して就活できる場」を提供できるよう改善を加えながら運営していきたいと考えています。

そして今後も音楽経験×ビジネス経験という特徴的なポジションを生かして、"音楽を使った世の中への新しい価値提供"にどんどんチャレンジしていきたいです!

歩み方に悩む音大生へ

――最後に、これからの歩み方に悩む音大生に向けて、メッセージをお願いします。

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白鳥:やりたいことがあるなら本気でコミットした方がいいと思うんですね。例えば「演奏で食べていきたい」って思ったとして、それは簡単ではないことかもしれないけど、できている人も中にはいるわけで。だからもしそうしたいと少しでも思うのであれば、「卒業したら何するの?」と聞かれても、「演奏家としてやってくよ!」ってまずは答えたらいいんです。

しかしそれと同時に、自信を持ってそう答えられるように普段からひたすら行動に移すことも、もちろん大切で。それはただ何も考えずに練習だけを無限に頑張るということとはちょっと違くて、「自分が演奏家として生きていくために必要なモノ・コト」を選び取って、早いうちから行動に移していくことが大事だと感じます。

――レッスンを受けて、ただ練習を頑張ればいい!ということではなく、自分に足りないものをしっかり見つめること。ある意味、自己分析力が試されるような気がします。

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白鳥:卒業したらどうしたいのか。心の奥底ではみんなきっと分かっているはずなんです。自信がなかったり、周りの人や環境に左右されてその思いが曇ってしまったりこともあるかもしれないけど、やりたいことがあるなら、まずはやってみたほうがいい。やってみて違和感を感じたら、そこからやり直せばいい。

最後に決めるのは周りじゃなくて自分なんだから、そうやって少しずつでも進んでいけばいいと思うんです。

仮に音楽とは全く関係ないような道に進んだとしても、音楽と共に一生懸命生きてきた自分は絶対に消えることはありません。だから「音楽を捨てるか・続けるか」という2択ではなくて、ドレミを弾いてみるくらいの感覚でチャレンジする中で、音楽との関わり方・活かし方を考えていけばいいのではないでしょうか。

インタビューを終えて

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音大卒業後にどうやって生きていくか。

音楽が好きで、本気で取り組んでいるからこそ、気軽に他の道を選ぶのは簡単なことではありません。

しかし、どんな道を選択しようとも、音楽と共に生きてきた自分は絶対に消えない。そう思うか思わないか。たったそれだけでも、昨日までより少しだけ強い気持ちで、自分自身や音楽に向き合うことができるような気がします。

音高(音大)に進み、一般就職。そして起業……と、「音楽を頑張ってきた自分」を中心に、多彩な活動を展開する白鳥さん。そんな彼女の生き方には、音楽や自分に対して決してブレることのない真っ直ぐさがありました。

Text by 門岡 明弥・Photographed by 中代寛泰



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