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#2リアム・ギャラガー『カモン・ユー・ノウ』

服部さんへ

 オススメ聴きました。何が素晴らしいって、レオナ・ルイスの歌いっぷりです。………と、いきなり本末転倒っていうやつですね。失礼しました。
 いや、ロックロック言っている僕ではありますが、実はピアノのインストが大好きなんです。理由は、自分でもよくわかりません。特に、ジャンルで言われるところのアンビエントのようなものが好みなので、『トゥルース』もそういう文脈で心地よく聴くことができました。個人的には、ここまでストリングスが前に出なくてもいいかなと感じましたが、とにかく音が、メロディが優しくて、心に沁みます。
 で、レオナ・ルイスです。なんせ助走のようなオープナーに続く2曲目に入っていて、劇的でありながら決して大仰ではない、押し引き自在のエモーショナルな歌唱を聴かせてくれるので、一気に耳を持っていかれてしまった次第です。ヴォーカルを立てるアレクシスの抑えた演奏も絶妙で、ライヴで聴きたくなりました。
 アンビエントのように心地よく、と述べましたが、それはアルバム前半の話でした。後半からは、雲行きが変わっていきます。なんというか、哀しいのです。「哀しいと美しいは私の中でイコール」と言ったのはユーミンですが、そんなことはさて置き、後半の哀しい音たちの美しさは、涙を誘うほどです。
 ここで、的外れで恥をかくのを承知で言います。聴いていて思い出したのが、マイケル・ナイマンでした。『ピアノ・レッスン』という映画がありますね。僕は、ストーリーには全然共感できないのに、映像と音楽にはやたら惹かれるという、ちょっと歪なファンでして、サントラだったかマイケル・ナイマンのベストだったかを、ある時期に夜な夜な聴いていました。暗っ。どこまでも哀しくて、どこまでも美しい、あの映画の世界観に通じるものが後半にはあると思います。
 やっぱり、アルバムっていいですね。ヴォーカル曲に圧倒され、インスト曲では、歌がないのに、いや、歌がないからこそ雄弁で奥深い表現を堪能させてもらいました。あくまで個人的な、たわいもない感想で恐縮です。記念すべき第1回目、これで大丈夫でしょうか? 不安を残しつつ、このへんで失礼します。  


リアム・ギャラガー『カモン・ユー・ノウ』

 女性……しかも、もしや子供によるゴスペル・コーラス!?  あらゆる可能性があることは、わきまえているつもりだった。でも、リアム・ギャラガーのアルバムが、まさかこんなふうに始まるなんて。ちょっと、いや、とても面食らってしまった。
 兄ノエルとの確執の果てのオアシス解散から、早13年。ソロとなって3枚目の新作は、身も蓋もない言い方をするならば、ものすごいアルバムだ。本人からは「当たりめえだろうがよ〜、おめえ」などと言われそうだが、ここにはもはや、オアシスのリアム・ギャラガーはいない。僕の感覚としては、3作目にしてついに、完全に、いなくなってしまった。いや、ビートルズを彷彿させる曲や、オアシスのレパートリーに入れても違和感がないような曲もあるのだから、いると言えば、いる。いないことはない……のだろう。だけど、僕には元オアシスのリアムではなく、ビートルズが好きなリアム・ギャラガーというソロ・シンガーが歌っている曲としてしか、聴こえてこないというか。
 もう自分でも何を言っているのか、わからなくなっている。要するに、僕自身がオアシスをいまだ引きずっているということだろう。だから、このアルバムで起きていることを簡単には消化できないのだ。
 それにしても、なんなんだ、この収録楽曲の振れ幅の大きさは。冒頭で述べたビックリの1曲目にとどまらず、女性コーラスをフィーチャーしたソウルフルなナンバーや、ノエル兄貴がやっていてもおかしくないようなスペイシーなロック、ピアノ&ストリングスを取り入れたメランコリックなポップなどもあり、レゲエ/ダブの要素まで取り入れられている。
 同時に驚かされるのが、リアムの歌唱だ。成熟して味わい深さを増しているし、高音の伸びなどは若き日のそれを凌ぐほどだし、そして時にこっちが照れるほどに、スウィートでジェントル。どうしちゃったんですか? リアムさん。今まで、そんな顔は見せなかったじゃないですか。
 何はともあれ『カモン・ユー・ノウ』が、ロック・シンガーとしてはもとより、何を歌わせても無敵なシンガーとして、リアム・ギャラガーの存在感をこれでもかというほど見せつけるアルバムであることは、間違いない。シンガーと書いたのは、ソロだから当然ながら、バンドっぽさを感じないからだ。そこがまた、自分が消化し切れないところなわけで。って、リアムにバンドやってほしいのか? 俺は。で、誰と!?
 最後に、今作にはデイヴ・グロール、エズラ・クーニグ(ヴァンパイア・ウィークエンド)、ニック・ジナー(ヤー・ヤー・ヤーズ)といった面々が参加していることをお伝えして、アルバム紹介とさせていただきたい。いや〜、たまげた〜。                                                    

                              鈴木宏和





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