#119 エリック・クラプトン『ミーンホワイル』
エリック・クラプトン『ミーンホワイル』
まだ早いと笑われたりもしますが、僕には子供もいないし、音楽が好きとか小説が好きとか、特段趣味が合う甥っ子や姪っ子もいないので、いわゆる終活の一環として、趣味の物から少しずつ整理をし始めました。あくまでも、先にあっち側に行くことを前提にして、こっち側に置いていくパートナー様にも面倒をかけたくないので。理想は、大好きな音楽と、大好きな本、大好きな酒だけに囲まれて、気に入った洋服だけを残して着回して暮らし、シンプルに人生の最期に向かうことです。
来春には80歳になるクラプトンが、終活モードに入っているのかどうかは、わかりません。でも、敬愛するブルースマンのカヴァーや、趣味的なコラボ、あるいは大好きな日本に来たい時に来ている(たぶん)ことなど、その晩年の生き方を見ていると、なんかいいなあと思います。
『〜しているうちに』を意味する、今作『ミーンホワイル』もしかり。2020年ごろからリリースしてきたシングル群に、新曲6タイトルを加えたこのアルバムも、コンセプト云々は抜きにして、ミュージシャンとしての近年の自身の姿を、自ら記録しておきたくて形にしたものなのでしょう。ジャケット写真の脱力加減も、実にいい。それでいて、オープニング曲のイントロから、一瞬にしてクラプトンとわかるギター・プレイを聴かせてくれるあたりがまた、渋くもあり、職人的でもあり、なんとも深い味わい。
まさに、いぶし銀。いぶしだけに、派手さはないが、決して錆びついちゃいない。華美さはないが、美麗さはある。眩くはないが、優しく静かに輝きを放っている。まさに、“人生下り坂サイコー!”(昨日、訃報が報じられた火野正平さんの名言)なのであります。個人的に大好きなのが、盟友ジェフ・ベックにギター演奏を任せて、滋味豊かなヴォーカルで歌う「Moon River」。聴くたびに、スタンダード曲がこんなにも情感に満ちたブルースになってしまうことに驚きつつ、落涙モノの感動を味わっております。
この最新アルバムを携える形で、来年4月に来日公演を行うクラプトン。ヴァン・モリソンとの「The Rebels」などにしてもそうですが、もはやリアル共演はかなわないので、生前の音源を使って、ぜひ時空を超えたデュエットを聴かせてほしいものです。
鈴木宏和