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就職活動

「次の方どうぞ」

単調な声で呼ばれた私は、大きく息を吸い込んだ。

「はい!小川良子、大学4年生22歳です!」
「元気でよろしい。では座って」

慣れた手つきで履歴書を見ている。なにせこの職業は稼げるから、倍率が高いと就職支援課が言っていた。

「あなたが大学生活で1番頑張ったことはなんですか」
「はい!私が1番頑張ったことは、大学を変えることです!みんながより良い生活をできる様にイノベーションしました!」

支援課の人は、あんまり具体的なことを言うよりも、ふわっとカッコイイことを言っておいた方が入ったあとに楽をできると言っていた。カタカナで意味のわかる言葉は積極的に使うべきで、そっちの方がいい印象も受けやすいとも聞いた。

「ありがとうございます」

平坦な声で返事をされる。良いとも悪いとも言わないところに人間の平等を感じる。でも他の人にもこうやって返事をしているのはわかっていた。問題はこの後の質問だ。

「それでは、あなたの長所を教えてください」

来た!この質問はランダム仕様になっていても必ず出される質問だ。たくさん練習したから、ベネッセかなにかのように脊髄で反射できる。

「はい!私の長所は、元気で明るいところです!私は周りの気持ちを暖かくすることが得意です!常にリーダーシップを持ち、みんなを引っ張ることもできます!」

よし、完璧だ。たくさん内容を連ねて一つ一つの内容を薄くすることもポイントだと言っていたので、かなりいい線行ったんじゃないかと思う。

「ありがとうございます。では最後に、隣の部屋に騒音測定器がありますので、そちらでご自分の声を測定いただきまして、今回の試験を終わらせていただきます」
「はい!ありがとうございました!」

そして立ち上がって、礼。決まった。でもまだ気を抜いてはいけない。
去り際に面接官の話を聞いて、自分に不利なことを言っていたらそれを指摘するのもアピールになるので大事なんだと教わった。聞き耳を立てながら去ろうとする。

「今回の子は、声はいいけど答えが薄い。これじゃ面接の意味が無いよ」

おっ、来た!

「無意味とはなんですか?」

よし、つっこめた。この問いかけは理論的に、情熱を持って、自分の立場をちゃんと擁護する。そうだ、こうやって責めよう。

「私の答えがこれだけ薄いのは、あなたの質問が薄いからではありませんか?もっと質問を細かく設定して、就職活動をしている大学生に易しいものにしなければならないんじゃないですか?」
「しかし、この質問は100年以上前からずっと使われているものでして....」

そしてここで高等テクニック。話の腰を折って自分の意見を述べる。


「だから、そのやり方は古いのです。AI時代を生き抜く現代人の私たちには通用しない。もっと新しいやり方を考えるべきだと言っているのです!」

「静粛に!」

ここで今まで黙っていた、社長からの待ったが入る。これはもう合格だ。

「今回の件を厳しく受けとめて、面接を終了とします。ありがとうございました」

ニヤニヤを押さえながら扉に向かい、わざと大きな音を立てて出ていく。ここで表情が見えなどしたら、すぐ察知されてしまう。我ながら完璧な面接だった。

隣の部屋で私の声を測った後、記入欄を見たら私が1番大きな音を出せていたみたいだった。思わず両手をあげそうになるが、ここで喜んではいけない。面接は建物から出るまで続く。カメラが追いかけてくるのだ。このカメラに対しての反応も、試験のうちの1つである。

「試験場から大きな声が聞こえましたが、何をされていたんですか?」
「今回の面接で不手際があったため、それを指摘したまでです」
「不手際とはなんですか!?」

フラッシュが眩しいが、これを耐えて建物を出る。最後まで質問に答えないことが、最大のポイントだ。謎を残して去る。これで試験は完璧だ。私は絶対に受かった!これで憧れの公務員、いや、憧れの国会議員になれる!

レッツ!クマ囲みライフ!