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富士登山地獄備忘録 2012 ⑤


呪われた登山ロボと化す


7合目、、いつ出てくるねん。休憩がてら数分立ち止まって登頂を見上げる。真っ暗で霧の中、点々と続くヘッドライト。

余裕があれば綺麗だとか感想が浮かぶんだけど、
そこに脳のカロリーを使うことを身体が禁止しているので、感想ゼロ。
「あぁ」みたいな。

雨のせいか、視界が悪い。
無敵であるはずのゴアテックスハットもびっしゃびしゃ。
水の重さでツバがたるんで前が見えない。少し歩くだけでたるむ。
傾けると、溜まった水がボトボトとこぼれる。
ただのびしょぬれハットをかぶる人になってる。無理。

呪いのように右、左、と頭の中でつぶやきながら足を動かす。
ひとつのことしかできないロボットのよう。

わたしは高山病を恐れていた。
登頂してすぐに吐いただの、登山中に頭痛で動けなくなって、
泣く泣く下山しただの。絶対になりたくない!
酸素缶も10リットルのを買った。

だから呼吸も必死。
深呼吸をしながらなので「すーーーーはーーーあああ、すーーーうーはああ」って興奮したおっさんみたいな呼吸音。
(興奮したおっさん見たことないけど)

ようやく7合目に。
すぐさま吸い込んだウィダーインゼリーの美味しさったら。
あんな吸引力、よく残ってたな。死が近いとあんなもんなのかしら。

ここで、わたしの疲労具合からマツド隊長が判断を下した。
「綾ちゃんとハジメくん、そして俺たち別々に行こう」

さすがの元気娘たちにも疲労の色が見えている中、
ボロボロに遅い呪われた登山ロボ(わたし)に合わせて
待ったりしていると、寒さや疲れが溜まる。とても的確な判断だと思う。

ここでも脳が考えるカロリーを使えなかったので、
寂しいとか待ってよおおお〜〜、って気持ちはなく
またもや「んあぁ」だった。

それよりも、張り切って買ったレインコートのパンツの裾が
いつの間にかずりあがってコーティングもくそもなくなっていた。

雨よ、靴の中に入ってホイホイ状態。
靴に雨の水が入ってぐっしょぐしょになる感覚、
絶対みんな嫌でしょう感覚ベスト10に入ると思う。
しかも登山用の厚手の靴下なもんだから水分吸う吸う。

さらにザックカバーがない代わりに雨具ポンチョを持ってきていて、
このままザックごとかぶれば一石二鳥だぜと思っていたけど、
強風がそんなことを許しちゃくれなかった。


ついにチームは別々で出発


1軍のみんなが出て、その後を追いかける形になった。
マツド隊長が簡易シーバーを用意してくれていて連絡を取りながら進む。

ポンチョは強風で舞い上がり、邪魔以外の何物でもなかった。
能天気なショッキングピンクなのがまたイラっとする。
手を使いながら岩を登るので裾を踏むこと踏むこと。

またわたしが岩を登るときにう「ぐぅ」とか、変な声が出る始末。
毎回ハジメちゃんにザックを持ち上げてもらっていた。
もはや、神。

登山の通行は右側が追い越しなので、休憩の時は左側で待機する。
効いているのかわからないけど、酸素を吸う。水を飲む。
鼻の奥がツーンとなる。これも気圧のせいなのか。

植物も背の低いものばかり。でも景色はわからず。
(森林限界ってやつですね)

だんだん自分が何をしてるのかわからなくなってくる。
右、左、右、左。足を前に出すのみ。岩だの、砂だの、足がもつれる。

冷たい。寒い。雨も風も収まる気配は微塵もない。
立ち止まった瞬間に歯がガチガチ、足が震える。

体力的には休憩したいのに、寒いからとりあえず動こう、
前に行くしかないという状態。
登山の流れ目印のロープを探して右に左に登る。

途中で座り込んで寝ているような人。
笑いながらしゃべりながらふざけた感じで登っている集団に対しては、
すぐさま「高山病になれ!」迷いもなく念じた。心が狭いなあ、わたし。

寒くて疲れてさらに眠くなってくる。完全に死ぬパターンじゃないの?
そうこうしてるうちに八号目到着。明るい山小屋がある。
休憩したいけどそんなモードでもない。

別の登山客が話していることが気になった。
「頂上やばすぎるよ、ありえない風!無理無理。」
どうやら下山してきた模様。今より風強いの?

あれ、御来光、。そんな雰囲気ではない。
わたしも見たいなんて大それたことは考えなくなっていた。
まず登頂できるかすらわからないのだから。

つづく。


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