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むすめとほしくんと、「しあわせのねっくれす」 【2/9(日)浦添キャンプ日記②】

写真はほしくんではなく、むすめにとっても優しかったきんにくん。

穏やかな、今年の浦添である。罵声(失礼)が全く聞こえない。

が、寒い。今日は特に寒い。薄手のコートがあっても困らない。そういえば宮古島のいつも行くバーアルケミストには、石油ストーブがあったことを思い出す。真夏にそれを見ては、「いるの、これ?」と、聞いていたけれど、そうなのだ、沖縄の冬は寒い。そして寒がりの沖縄の人たちは、ここぞとばかりにダウンを着ていたりする。

日が照ると暑くて半袖でもいけるけれど、日が陰ると肌寒いというこの季節の沖縄の気候、カシミヤの大判ストールが大活躍だ。

若手たちが投げるブルペンを、ずっとずっと見ていた。

大西くんが投げるたび、帽子が落ちる。気合いが入っている。いやそもそも帽子、サイズが合っていないのだろうか。小顔なんだろうか。と、どうでもいいことが気になってくる。

ルーキーに囲まれ、清水くんが投げる。新しい戦力がどんどんチームに加わる。それはまた、新しいプレッシャーかもしれない。

と、そんな風に、想像してはみるけれど、でもな、と、思う。

先日の入江選手の取材を思い出す。私が想像するその苦悩と、アスリート本人の苦悩は、まったく別のところにあったりする。そうか、本当にしんどいのは「そっち」なのか、と、取材しながら何度も思った。本当のところは、はたからみているだけじゃ、わからない。その苦悩は、本人にしかわからないものなのだ。

考えても、想像しつくしても、どうしても考えきれない部分はある。

だから、ここで私は、マウンドに立つために、そこで勝つために、戦い続けるその姿を、ただそのまま、目に焼き付けるだけだ。そこで、投手たちが必死に腕をふっていた、その「事実」をそのままに。

愛する「キンタコ」でタコライスとタコスを買ってから戻ると、なんと、なんと、ホテルからほしくんが出てきた。

私はいつも選手たちを目の前にした瞬間硬直し、一切話しかけることもそこから一歩たりとも近づくこともできないのだけれど、となりのむすめが緊張し動揺しまくっているのがひしひしと伝わってきて、周りに誰もいなかったこともあり、意を決して声をかけさせてもらった。

「(むすめが)ほしくん大好きなんです」と、震えながら言うと、ほしくんは、「ほんとうですか、ありがとうございます!」と、笑ってくれた。そして、「写真、撮りましょうか?」と、きいてくれた。

私は混乱をきわめ、しかしかろうじて、たまには母親としての仕事(こういうのが私にとっての「母親の仕事」である。)をまっとうすべく、震える手で、ほしくんと子どもたちとのスリーショットを撮らせてもらった。

むすめはいつも、ほしくんを見ていた。

打たれても、打たれても、そこでほしくんを見ていた。その小さな胸に、ほんの少しの痛みのようなものも、たぶん抱きながら。

隣でそれをみていると、私も少しだけ、胸が痛む。かわいい我が子が傷つくことからは、できるだけ避けさせてあげたいと、つい思う。

でももちろん、私にそんなことはできない。これからむすめはどんどん、私の知らないところで傷つき、そして喜びを知り、人生を歩んでいく。

誰かを好きになるたび、痛みもきっと、たくさん知る。こんなことなら好きにならなければよかったと、そう思う日だってきっとくる。きっと何度もそう思う。

でも誰かを好きになるということは、それは、こんな、奇跡みたいな瞬間も、作り出してくれる。

誰かを好きになることは、痛みと喜びで、あふれている。

今日むすめは、小さなネックレスをつけていた。私の実家のドレッサーの引き出しから見つけ出し、これもらっていいー?と、持ち帰った、安物のネックレスだ。きっと私たち三姉妹の誰かが、中学生とか高校生の頃に買ったものだと思う。

そのネックレスを、むすめは「しあわせのねっくれすだ!」と言った。「これつけてたら、きっといいことがあるんだよ!だからほしくんにあえたんだよ!」と。

それからむすめはずっと、その「しあわせのねっくれす」を、うれしそうに胸につけている。好きなタピオカジュース買っていいよ、と言うと、「しあわせのねっくれすのおかげだ!!」と言って喜んだ。いや、タピオカのお金はママの原稿料から出てるんだけど。

でも「しあわせのねっくれす」は、きっとむすめの心の中にあるんだよ、と、私はそっと思う。誰かを好きになって、いいときも、悪いときもあって、でもずっと思い続けて、だからこそ、今日がこんなにうれしかったんだよ、と。

むすめの中で、今日の記憶がどれくらい残るかはわからない。でもその、「しあわせのねっくれす」が作ってくれたこの瞬間を、誰かを好きになることの、その喜びの小さな記憶を、そっと大切にしながら、これから先の人生を歩んでいってくれるといいなと思う。

今年は、ほしくんの勝利を見ることができますように。むすめの「しあわせのねっくれす」が、またたくさんのすてきな瞬間を照らしてくれますように。

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