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「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか を読んで

これを読んでくれている皆さんは、「ゆる言語学ラジオ」というYoutube、ポッドキャスト上の番組をご存じだろうか。
先日何かと話題になった堀本見氏と、個人的名著『きょう、ゴリラをうえたたよ』の作者、水野太貴氏による言語学トーク番組である。
長距離のドライブ中やワークアウト中のお供として、楽しく拝聴している。

さて、その番組によく出演され、『きょう、ゴリラをうえたよ』の監修にも携わった認知心理学者、今井むつみ先生の著書、『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか』が今年度出版された。普段ビジネス書を読まない身であるが、せっかくなので読み、簡単ではあるが感想を書き記しておこうと思う。
(なお、図書館で予約をしようと思ったら46件の予約が入っていた。今井先生、恐るべしである。)
以下、本のネタバレを含みますので、読む予定がある方はご注意を。


まず、全体の感想として、それはそう、の連続であった、というものがある。
論の主軸を担う考え方は、人はそれぞれ自分のスキーマ(枠組み)を通して物事を認知しているから、コミュニケーション上の齟齬や伝わらない、ということが起きる、というものだ。
各章で、その主張を補完する話として、各種バイアス、メタ認知、具体と抽象、などの概念を紹介する。この際、それぞれの具体例にかなりページを割いており、イメージがしやすかった。
そして、ビジネス書によくありそうな(偏見だが)短絡的な黄金律のようなものに安易に帰結していないことも、個人的には好感が持てた。
この本を読んだからすぐにコミュニケーションがうまくいく、という立場ではなく、人の記憶や認知の不完全さやゆがみを知ることで、少しずつコミュニケーションが改善されていく、遅効性の薬のような本であると感じた。

ただ、大学で専門ではないにせようっすらと心理学に触れた身としては既知のことが多く、それが冒頭の感想であるそれはそう、につながっている。
もちろん内容の妥当性は感じるし、それがわかりやすく説明されていて面白く読めるのだが、私にとっては自分の常識の枠内の話が多かったように思う。

だから、認知心理学というものに初めて触れる、という立場をとる人にはお勧めできる本ではあるのかな、という本であった。良くも悪くも、初学者向けの良著という印象である。

正直、ここまで書いていてあまり本著の魅力を表現できていないと自分でも感じているのだが、間違いなく面白い本ではある(現に、読むのが遅い私が一気に読み進められた)。もし興味があれば、手に取ってみてほしい。

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