太陽雨

正午。突然雨が降り出した。しかし、空は青く、それが雨をきらきらと美しい銀色に光らせた。僕はこの景色が好きだ。世界に隠された神秘の遭遇者として、僕が選ばれたかのように感じられた。それは聖母の涙だろう。そして、それは僕の涙でもあるだろう。
往く道の先に、パーカーをカッパ代わりに羽織って、ちょこちょこと可愛らしく走ってくる女の子がいた。あれは希ちゃんじゃないか。
僕は女の子が雨に濡れて、僕がのうのうと傘を指して雨を避けているのではいけないと思って、これまで話したこともなかったのだけれど、
「傘、貸しますよ。」
と話しかけた。彼女は最初、びっくりして、「いいんですか?でも。」と小声で呟いた。赤味がかった二対の瞳が僕の視界を真っ直ぐに貫き、僕もそれを決して話すまいとしっかりと抱きしめた。
「僕は買い物すんだし、走ればすぐだから大丈夫ですよ。あと、この傘借り物だから、気にしないで。」
僕がそう言うと、彼女は少し戸惑った表情を浮かべたが、すぐに決心したように僕の方を向いて、
「なら、一旦戻って。。」
と言った。戻ると少ない距離とは言え、歩く量も増えちゃうんだけどなあ、と思いつつも、彼女がそう言うし、そっちのほうがいいのかもなあ、などと考えて了解した。
傘の下に彼女を入れて、僕らは歩き出した。
「天気、急に変わりましたね。」
と彼女が言った。僕の鼓膜は水の中にいるみたいに、ぼんやりと揺れた。
「沖縄、こういうこと結構ありますよね。」
彼女は僕の右側を僕と同じ速度で歩いた。いや、僕のものではなくって、二人で二人の速度を作り出していた。そして、空間や時間でさえも。一つの大きなシャボン玉が僕らを包んでいた。道の先に未来はなかった。背中の方に過去はなかった。シャボン玉が包んでいたのは確かな〈今〉であった。それはすぐに壊れ、歪み、破裂し、霧散してしまうだろうけれど、確かに、そのとき、それは存在したのだった。
僕たちは何かを話し、何かを共有した。明らかに普段通りの日常に亀裂が入り、僕たちはそこに図々しくも闖入し、周りを気にせずに過ごしていた。瞳には甘美な恍惚が浮かび、身体は重力を忘れた。正義がその特権を失い、邪悪が崩落した。

「そこに立てておいてください。」
僕は入り口の傘立てを指さして、彼女に言った。
「ありがとうございます。」
と彼女は言って、いじらしく笑った。

彼女との距離が少しだけ縮まったようにも、また離れてしまったようにも思われた。しかし、彼女が僕の中に深く刻み込まれてしまったのは、堅い真実であった。

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