◆タンゴを踊る理由?

ときどきミロンガで会う年下のタンゴ友だちが、少し前、わたしタンゴを辞めようかな、と洩らしたことがあった。

聞くと、せっかくミロンガにいっても、嫌な思いをして帰ってくることが多いそう。
「おじさま達の慰みものになっている気がする」。言葉は正確ではないけど、そんな風に言っていた。
その後、彼女とは会う機会がなく、心境が変化したか聞けてはいない。

でも、久しぶりにミロンガにいった帰り、ふとその子のことを思い出した。

慰みもの、とは思わないけれど……わざわざ時間とお金をかけて楽しみにいっているのに、なぜ嫌な思いをしなければならないのか。よくわかる。その晩は怒りにも似た思いと哀しみが去来していた。
それではタンゴをやっている意味がない。

翌日疲れ切った心と体で、ベッドの中で、なぜタンゴを続けているんだろう、と再び考える。

レッスンを始めてまもない頃、先生に聞かれて、私は
「仮面をつけなくていいから」と答えた。踊っている3分間は、様々な役割も外し、素の自分に還れるのが心地よかった。余計な言葉を交わさずに、ゆきずりの相手とコミュニケーションを取れるのも楽しかった。
自分のなかの女性性を確認したかったのも大きい。

今は、タンゴを踊っている間も仮面を外しにくくなっていると感じる。だから、完全に無になれることが少ない。
もちろん人によるけれど。

一番苦痛なのは、踊ってない時間(タンダの間など)に気を使うこと。私は、エスコートして欲しい相手も、踊る相手も自分で決めたいのに。タンゴの世界に浸りたいときに、関係のないことを横から一方的に話しかけられるのも嫌。

タンゴ……わたし続けられるのかな。続けたいのかもよくわからなくなっちゃった。

誰かと顔を合わせたくないからレッスンやミロンガには行きたくない、そうなったら危険信号。

今は、「なぜタンゴを踊るんですか?」とミロンゲーロ、ミロンゲーラに聞いてまわりたい気分だ。

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