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◆ウィーンでタンゴ③魔法のカード

①②からの続きです。


しばらくすると、別の男性が近くにきて、直接誘ってくれた。

黒いジャケットにベルベットの赤いバラの飾りをつけ、おしゃれでちょっと中性的な雰囲気。柔和な笑顔が印象的(推定51)。

踊り方もソフトタッチ。パワーリード気味だった先ほどのヒゲおじさんとは真逆で、若干リードが分かりづらい部分も……。

せっかく誘ってくれたのに申し訳ないけれど、あまりコネクションが感じられず、1タンダが長く感じてしまう。でもさすがにジェントル度は高く、椅子を立ってから元の場所に座るまで完璧にエスコートしてくれた。

ふう、ちょっと休憩。
21:45くらいについて、ここまでで1時間弱。

赤ワインを飲みながらフロアをぼーっと眺めていると、流れてきたのが、なんと、大好きなビアジのワルツ!!!

しかも "Lágrimas Y Sonrisas" !!!!!

ビアジの中で一番好きな曲ではないか!

ポロロポロロン……のピアノ音だけで身体がうずうずしてくる……。


誰かにカべセオして、何としてでもこのタンダは踊りたい!と猛烈に思った瞬間……

右手から、ヒゲおじさんNo.2(1人目とは違う方)が近づいてきた!!

彼は、実は先ほどから密かに目をつけていた人だった。パートナーの女性もぴっちりしたセクシーなドレスをきた美人で、ひときわ目立っていたカップルだった。ぼーっと座っている時、ずっとその二人を目で追っていたから、私の視線に気づいたのかもしれない。

でも、まさかまさかビアジのワルツで誘ってくれるとは!!!感涙。

近くでよく観察すると、背はタンゴシューズを履いた私と同じ位(170ちょっと)で、白人というよりはちょっとオリエンタルな……浅黒くてヒゲがワイルドで身体もがっしりしていて男らしい感じ。
ふわりと香るエキゾチックなムスク系の香水が、雰囲気によく似合っていた。

彼とのタンダは……一言でいってしまえば、最高だった。

タンゴをはじめて8ヶ月強の経験しかないけれど、ここまでうっとり心地よくお姫様気分にさせてくれる人は、滅多にいない。

「うまく動けない」「この動きはなんのリードだろう」など、普段たったらどうしても浮かんでくる雑念が消えて、ただただ心地よい。その刹那にいつまでも身を委ねていたい感覚。しっかり包まれて、リードも明確なのに、優しい。

その優しさはふにゃっとした曖昧なものではなくて、一本芯の通った優しさだから、安心して身を任せられる。
ガチガチだった肩や関節がほぐれて、油をさされているような感じ。

私がリラックスしているからか二人の動きもぴたりと合うし、コネクションが感じられて、2人で1つの踊りを踊っているという感覚があった。

彼もそう思ってくれたのかもしれない、
「You're a good dancer」と、踊っている間に、耳元で囁いてくれた。

「No, YOU ARE a good leader. That's why...(I can dance)」

リードがいいから踊れるんだよ、と拙い英語で返す。

キャリアを聞かれたので、8ヶ月ちょっと、と返すと心底驚いている様子。

そっか、私ちゃんと踊れてるんだ……。

涙が出そうになるくらい嬉しかった。

「いくらステップをたくさん覚えても、同じスタジオの人としか踊れなかったら意味がない」というのはたけし先生が常々言っていることだ。

先生が教えてくれるのは、世界どこでも通用する踊り。
信頼してついてきてよかった、とあらためて思った。


3人目のヒゲNo.2さんと踊り終わったらもうすっかり満ち足りた気分。
今日はこれ以上の体験はないだろうから……と23時すぎにお暇することにした。

ちょうど1人目のヒゲおじさんも帰るところで、シュテファン大聖堂の辺りまで送ってもらうことに。色々話すと、彼はタンゴグループを主催していて、大々的なミロンガも自分でオーガナイズしているみたい。

「君はタンゴには若すぎるね!」とひげおじさん。ウィーンのタンゴ年齢層は高いらしい。日本もそうだし、やっぱりそれは全世界共通なのかな‥‥なんてことを考えながら、その日は倒れ込むように眠りに落ちた。

**

今回、ウィーンのミロンガでも踊れたことで、自分の中で何かが変わった。

ミロンガに行くのを躊躇っていた2時間前は、「ヨーロッパのミロンガなんて、ハイソな感じだし(←死語?)、私なんて相手にされないだろう……」と卑下する気持ちが強かったしナーバスになっていたけれど、

実際に踊ってみて思ったのは、

タンゴは言葉を介さないコミュニケーションであり、世界共通のものだということ。

言葉にすると当たり前のように聞こえるが、自分の経験として感じられたことは大きい。

そのツールを手に入れたことが何よりも嬉しく、誇らしかった。
(もちろん、まだ「片言」ではあるけれども‥‥)

昔から、絵や音楽などアートができる人は、どこへ行っても身一つでコミュニケーションが取れていいなあ、自分にはそういうものが何もない……と残念に思っていたけれど、

これからは、タンゴを通じて世界中の人と会話できるんだと思うと、魔法のカードを手にした気分だ。

せっかく手にしたツールを、もっともっと磨いていきたいと思う。

来週はいよいよ上海タンゴマラソン。「初心者なのに大丈夫なのかなあ」と不安で仕方なかったけれど、今回の思いがけない海外ミロンガデビューで少しだけ自信がついた。

それにしても我ながらハードスケジュール(涙)。体力が持つかどうかが心配‥‥。



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