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酒のアテはうしろめたさ

所謂クレームというものを受けまして。

それはもう真っ向から受けまして。


詳細はここではあまり記せないのですがあるアルバイト中にある男性のお客様を怒らせてしまいまして。


小癪に責任の内訳を話すとそれは自分にも相手にも責はありましてしかし店員とお客様という有無を言わさぬ肩書きにそのアルバイトのデリケートな性質が相まってこちらの選択肢は鼻から「謝る」それのみでありました。

怒りに身を任せ暴言の拳を繰り出してくる男性。それを真正面から喰らい仰け反ったと思いきや腰を支点にギッチョン跳ね返り頭を下げる私。人間トレーニング器具と化した私と男性の10分1ラウンドハンディキャップマッチ。

ボコボコに殴られた後に残ったのは晴れ晴れとした爽快感でした。男性に対しての負の感情もほとんどなく。
これほどまでに自分の行動と感情に迷いがなかったのはいつぶりでしょうか。
怒るしかないから怒る。謝るしかないから謝る。
猪口才な枝葉なんぞ一本もなくただただ謝るんだという巨大な幹が生えているのみ。
自分にこれだけ強靭でうしろめたくない幹があったとは。
そもそもうしろめたさがあるから謝るんだろうがいやいやうしろめたさのないいうしろめたさだったですよ。うしろめたさに心底準じた謝罪でしたからつまりはうしろめたくなんかないのよ。マトリョーシカ的うしろめたさ。「いやーうしろめたかったあ俺マジうしろめたかったわあ」とカラッと笑顔で酒の肴にできるうしろめたさ。
軟骨の唐揚げ的うしろめたさ。

あの晩の酒は旨かった。



室田渓人
Twitter:@muro_kei


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