公開片想い宣言ガール。〜わたしの初恋はこうして実った〜

絶賛片想い中の、学生諸君に捧ぐ。

片想いって、告白まで秘密にして、こっそり、ひっそり、バレないように相手を想うことだと思っていませんか?
それも楽しいよね。でもね、そうじゃない片想いも、結構楽しいんだぜ。

「あなたのことが好きです!」と教室の真ん中で愛を叫び、2回フラれたけど、最後には実った初恋の話をしよう。


プリンスへ、ひっそり片想い

わたしの初恋は、中学2年生で突然やってきた。
クラス替えで知らない人ばっかりの、名簿順に並べられた机に座り、プリントを後ろに手渡したその時。
名簿番号11番のわたしは、12番のSくんに、恋をした。

Sくんは、いわゆる王子様だった。
誰が見てもイケメンな顔立ちで、スラッと背が高い。勉強も運動もできて、部活は王道のサッカー部。まだ中2のくせにすでに歴代の彼女が何人かいて、適度なチャラさも兼ね備えた、プリンスだった。

明らかに手が届かなそうな彼を好きになったことがなんとなく恥ずかしいと思ったわたしは、その気持ちを心の中にしまい、誰にも見せなかった。我慢できなくなって、仲の良かった友達だけに、こっそりと打ち明けたけれど。

そりゃもうひっそりと、影から部活してる姿をのぞき、ときめいていた。
そりゃもうむっつりと、おはようの挨拶だけで飛び跳ねたいくらい嬉しくなった。
それは絶対知られてはいけない、片想い活動だった。


事件発生。公開片想いガール、爆誕。

イマドキの中学生高校生のみんなは、友達と手紙を交換したりする?授業中に回したりするアレ、今はLINEとかなのかな?

わたしは中学生時代、友達とかなりの頻度で手紙を書きまくり、交換しまくっていた。
朝もらった手紙に、昼休みまでに返事をかいて渡したり。それもA4ノート2枚くらい。文豪かよ。

片想いを打ち明けた友達への日々の手紙には、Sくんへのオタク的な愛が延々と綴られていた。
目がぱっちりしてて可愛い、喉仏たまんない、鎖骨がヤバイ、など。
サッカーシューズが青からオレンジに変わった、すれ違うと超いい匂いする、などなど。
(友達よ、もしまだ保管していたらシュレッダーでこっぱみじんこにしてくれないか。頼む。)


ある日、その恥ずかしい手紙を、わたしは落としてしまった。
焦った。必死に探した。
そして、クラスの男子に読まれているところを、見つけたのだった。


終わった。ジャジャジャジャーン。『運命』が頭の中で鳴り響く。
一方的な愛が詰まったあの手紙を読まれた。よりによってその男子は、ジャイアンにそっくりなクラスのお調子者で、拡散は確実だった。終わった。今日はもう早退しよう。教室を出ようとしたその時。わたしを指差し、ジャイアンが言った。

「おい、こいつ、Sのことが好きらしいぞ〜!」
無駄にでかい声。昼休みの、うるさい教室が静まり返る。驚き戸惑うSくん。

ええい、もうどうにでもなれ。

Sくんの席まで行き、仁王立ちで、わたしは言った。

「そうなんだ。Sくんのことがずっと前から好きでした!」

「…ごめん。彼女いるから」

静まりかえった教室が、ざわざわと音を取り戻す。

「ははは、そうだよね。突然ごめんね!」

教室を飛び出すわたし。追いかけてきてくれる友達。
スローモーションがかかり、エンディングの曲が流れる…


いやいやいやいや。ちょっと待ってよ。なんだこの結末は。


彼女がいることはリサーチ済みで、まだ告白するつもりなんてなかったのに。
このまま立ち去ったら、友達として話すこともできなくなっちゃう。
おい。ジャイアン。どうしてくれるんだよ。
なんなんだよ、この結末は。

それまでの人生で一度も経験したことがないような公衆の面前での辱めを受けて、よくわからないテンションになったわたしの中に、ふつふつと湧く怒りの感情。

怒りのデスロードと化した廊下を突き進み、教室に戻ると、Sくんの席の周りに、冷やかしの男子たちが輪になっている。

スーパー無双トランス状態のわたしは、そいつらを掻き分け、Sくんの前に本日2度目の仁王立ちをかます。
教室が、本日2度目の静けさを取り戻す。

私「ごめん、わたしのタイミングで、もう1回、告白やり直させて!
それまでは、さっきの告白、忘れて!お願い!」

S「う、うん、わかった」

昼休み終了間際。クラス全員が聞いていた。

公開片想い宣言ガール、ここに爆誕。

クラス全員、そしてSくん本人も、わたしがSくんに片想い中なことを知っている日々が始まった。



公開片想いメリット①:たくさんの情報が集まってくる

わたしの心配をよそに、爆誕後のクラスのみんなはかなり協力的だった。
とにかくたくさんの、Sくん情報が集まってくるようになった。

1組のあの子、告白してフラれたらしいよ。ロングヘアーが好きだって言ってたぞ。ワンオクをよく聴くんだって。
男女問わず、普段恋バナなんてしない人からも、たくさん情報をもらえた。

情報は大事だ。恋は情報戦だ。
片っ端からワンオクを聞いたし、ボブだった髪を伸ばし始めた。

ねえねえ、3組のあの子と、別れたらしいよ。

破局情報を得たわたしは、ここぞとばかりに2度目の告白をした。
わたしが望んだ、わたしのタイミングで。
今度は教室のど真ん中じゃなくて、ちゃんと人のいない裏庭に呼び出して。


フラれた。そりゃもうあっさりと。

S「ごめん、そういう風に見れない」
私「ははは、そうだよね。聞いてくれてありがとう」
S「おう、友達としてよろしくな」

中学2年生、冬。2回の告白も虚しく、わたしの初恋は散った。



公開片想いメリット②:なにかと同じ班になって仲良くなれる

わたしが2回目もフラれたことは、みんなが知っていた。
それでもわたしが、フラれたからと言って、はいそうですかありがとうございました〜と諦められるわけもなく、Sくんを好きな気持ちを引きずっているということも、みんなわかっていたと思う。

今思えばなかなか恥ずかしい状況だ。でもみんなが知っているからこそ、わたしとSくんは気まずい感じにはならなかった。
クラスのみんながお節介を焼いてくれたからだ。

わたしとジャイアンとSくんは、何かと同じ班にしてもらうことが多かった。
給食当番、掃除の場所、何かの発表。修学旅行や社会見学などのイベント。
なぜジャイアンもセットだったかは分からない。
おいジャイアン責任とれよという気持ちがみんなにあったのだろうか。

おかげで修学旅行とか運動会とか、一緒に写っている写真がたくさんある。
そして時間を多く一緒に過ごせば、仲良くなる。
ワンオクを聴きまくっていたことも功を奏して、皮肉なことに、中学3年生になる頃、わたしはSくんとかなり仲良しになっていた。


メリット③:相手もちょっとこっちを意識してくれるかも

やっぱり人間、好きですと言われて嫌な気持ちにはならないのかもしれない。
公開片想い宣言をすることによって、まったく眼中になかったところから、ちょっと気になる存在にはなれる。と思う。
よく少女漫画で、イケメンモテモテ主人公がドジなヒロインに出会ったときにつぶやく、「ふっ、おもしれー女」みたいな。そこから恋始まっちゃうやん、みたいな。

多分Sくんのなかで、わたしは「もう1回告白します宣言してきた、変なやつ」ということで、他の女の子とはなんとなく、一線を画した存在になった。

そして教室の真ん中で愛を叫んだあの日から、約1年。
彼の中で一体どういう心境の変化があったかは分からない。けれど。

ボブだった髪が胸まで伸び、卒業を意識し始めた、中学3年生の秋。Sくんに告白された。

本気でびっくりした。
けどもちろん喜んでその申し出を受けたわたしは、憧れのSくんとのお付き合いをスタートしたのだった。

おめでとう、わたし。やったよ、クラスのみんな。もはやありがとう、ジャイアン。

一緒に帰ったり、道端でファーストキスを経験したり、映画を見に行ったり、冬のお祭りに行ったりした。

いろいろ割愛するが、最後は別々の高校に入り、なんとなく別れよっか…みたいになって別れた。

これがわたしの初恋の一部始終である。



公開片想い宣言の注意点と、その後

今思えば、Sくんはかなり大人な中学生男子だったと思う。普通なら、わざと意地悪してしまったりしてもいいような年代だと思う。
そしてクラスのみんなも、面白がって、愛のあるいじりをしながらもかなり大人で、協力してくれた。

Sくんが大人だったこと、クラスのみんなが大人だったこと、元々わたしが結構いじられキャラだったこと。
これが重なってこの結果になったんだなあと書きながら思った。
わたしは偶発的に公開片想いガールになったけど、もし万が一、公開片想い宣言してみようかな、なんて考えた子がいたら、周りの状況はよく見極めて欲しい。

そして今思えば、モテモテのSくんを好きな子は他にもいたかも知れない。
その子は言い出しにくくなっただろう。もしクラスの中にいたなら申し訳ないことをしたなあと思う。
そういう子との関係を悪化させる可能性もあるから、気をつけて欲しい。


ちなみにSくんは、すでにめでたく結婚している。
お相手は、大学で出会った女性だそうだ。
結婚式の写真は相変わらず爽やかイケメンで、高校生のわたしよ、惜しいことしたな…と思った。

出会いもない、職場にときめくイケメンもいない毎日を送る、25歳のわたしから学生諸君に言わせてもらう。
学生時代の片想いほど楽しく、胸おどるものはない。
今の恋を大事にして、目一杯楽しむべし。

そして、影から見ているのもいいけどさ、
どうせだったら、学生の間くらい、強烈に思い出に残る楽しい恋をするのはどう?

公開片想い宣言で、それが手に入るかもよ。


最後に。
筆者は、全ての恋の行方に責任を持ちません。
公開片想いの良し悪し、実行するかどうかは、各自のご判断で、ね。




いただいたサポート代は、他の誰かをサポートするために使います!幸せの循環!