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ラグビーアナリスト#5|チームの力へ!アナリストの仕事 『スカウティング』

これは
『スポーツアナリティクスAdvent Calender 2020』24日目の記事です!


いつも記事を読んでいただき、ありがとうございます。

そしてスポーツアナリティクスAdvent Calenderにご参加されているみなさん、はじめまして。

福岡で活動しているラグビーチーム『コカ・コーラレッドスパークス』でアナリストをしております、山口と申します。
よろしくお願いいたします。

今回書く内容は、アナリストとしての大きな仕事のひとつである対戦相手のスカウティングについて。

僕たちのチームでは、アナリストが相手の傾向や強み・弱みを映像やデータから探してまとめたもの、『スカウティングレポート』を毎試合ごとに作成しています。

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このスカウティングレポートをコーチ陣に見てもらい、ゲームプラン作成試合へ向けた準備・対策をコーチングスタッフ全員で行っていきます。

スカウティングをしていく上で心がけていること、実際に中身はどのような内容なのかを少し紹介できればと思います!

レポートを出すタイミングやスカウティングの量

ラグビーの試合は、基本的に週1回。
シーズンが始まると毎週試合が行われるため、スカウティングはアナリストチームで前もって計画を立てて準備していきます。

レポートを作成するにあたり、使用する対戦相手の試合は直近3〜4試合。

対戦相手によっては、それより多くの試合を取り入れる時もあります。

レポートをコーチ陣に提出するのはだいたい試合日の10日前。
データ共有は早すぎず、遅すぎずを心がけています。

対戦相手に関するレポートの内容は、主にこんな感じです。
・試合出場メンバー
・得点/失点データ
・セットプレーデータ
・特徴的なアタック/ディフェンスの映像
・相手の脅威(Threat)とチャンス(Opportunity)
・試合のキーとなるデータ  etc...


現在僕たちのチームは、トップリーグの下のカテゴリであるトップチャレンジリーグに属しています。

トップリーグでは、リーグ全チームのデータ(チームスタッツや個人スタッツ)が手に入るのですが、トップチャレンジリーグではまとまったデータが手に入りません。

大きなデータが手に入らない分、欲しいデータは分析ソフト(Sportscode)を使って自分たちで出していきます。

『コーチが使いやすいレポート作り』を心がける

スカウティングレポートを作成するにあたり、僕が一番心がけていることは『コーチ陣が欲しい情報を、いかにわかりやすく伝えるか』ということ。

データを集め、アナリストチームで一生懸命スカウティングしても、コーチが使いにくいものだと、そのレポートはあまり力を発揮しません。
相手の情報を集めた、ただのファイルになってしまいます。

よってレポートを作っていく上では、コーチ陣との頻繁なコミュニケーションが必須だと思います。
こちらから伝えたいデータの意図を説明したり、コーチ陣からの要求を聞いたり・・。

そうやって改善を重ねることで『コーチが使いやすいレポート』に近づいていくと思っています。

僕のレポートもまだまだ発展途上なので(笑)、これからも改善を重ねてパワーアップさせていきたいと思っています。

『使いやすいレポート』への工夫

このレポートに力を発揮してもらうために、いくつかの工夫を重ねています。

例えば、このスライド。

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これは、相手チームがスクラムからどのようなアタックをしてくるかをグラウンド上の『マップ』に記したものです。

ただ単に字で書くだけでなくグラウンドマップ上に記すことで、『この位置ではこのアタックがある』ことを、より具体的に見てもらうことができます。

スクラムを表している▼を押せば、相手チームの実際の映像が見れるようにも設定しているので、相手の動き方なども確認してもらうことが可能です。

またサインコール(▼の下の字)も、自チームのコール名を使用することで、よりイメージをつけてもらいやすくしています。
(今回書いているサインコールは自チームのものではありませんが・・)

このように、文章や数字だけでなく、図や映像を使いながら作成することを心がけています。

数字を色々な角度から見る

基本的な数字は、分析ソフトを使いながら毎回データを取っていきます。

例えば、相手チームが3試合で10TRY取ったというデータが出たとします。

この10TRYという数字とただ睨めっこしても、なかなかコーチ陣にアプローチできるものは見つかりません。

なので、この10TRYを色々な角度から見てみます。

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基本的なのはこの4つ。
TRYの起点となるスタートのプレー、エリア、時間帯、フェーズなどです。

10TRYを色々な角度から見てみると、なんとなくTRYパターンなどの特徴が見えてきます。

【相手の特徴】
・セットピース(特にラインアウト)からのTRYが多い
・敵陣エリアでのTRYが90%
・7割は3フェーズ以内でTRYをしている  etc...


これを検証するために映像とデータを照らし合わせ、相手の傾向と対策をコーチ陣に伝えていきます。

キーとなるデータを深掘りしてみる

基本的なデータに加え、対戦相手と試合をする上でキーとなるデータも取ります。

キーとなるデータを探す上で、役に立っているものがひとつ。

分析中に相手の試合を見ながら書いている『手書きのメモ(ノート)』を使用します。

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俗に言う『SWOT分析』を自分なりにアレンジしています。
自チームの強みや弱み・相手チームの脅威やチャンスとなるところを、気づいたら書き留めておきます。

ここで書くメモは、自分の感覚も大事にします。
例えばOpportunity欄には、『もしかしてこれってチャンスなんじゃないかな?』と感じた内容を、書き出してみます。

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このようなメモ書きが残ったら、次は深掘りする必要がありそうな項目を絞ります。

相手の試合を見ていて、ブレイクダウンというボールの争奪エリアでターンオーバー(ボールを失う)されるシーンが気になったとします。

これについてデータを深掘りするにあたり、調べることは
・ターンオーバー数全体に対するブレイクダウンターンオーバの割合
・ブレイクダウンでのターンオーバーが、どのような位置・状況で起きているか

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データを出してみると、このような感じになりました。

ブレイクダウンでのターンオーバーは全体の約3割と、なかなかインパクトがある結果に。
(ハンドリングエラーが一番多いですが、ここではブレイクダウンにコミットしていきます。)

グラウンドのマップに位置を記してみると、14回中10回外側でのブレイクダウンでターンオーバーが発生していました。(赤点で記した部分)

映像も使って確認すると、『外側でボールキャリアが孤立した時に取り返すチャンスがある』ということが判明。

『相手の弱点をつく』このプレーが試合のキーとなると決めたら、この情報をコーチ陣や選手にアプローチしていきます。

スカウティングは人それぞれ!チームにコミットしでプラスになる情報を!

このような感じで、毎週の試合へ向けてスカウティングを進めていきます。

今回すべてを紹介することができませんでしたが、僕が取り組んでいる基本的なスカウティングの流れは、このような感じです。

スカウティングのやり方は、それぞれのアナリストで違うものです。
使うデータの種類や量、コーチ陣に対するアプローチの仕方も違うと思います。

僕が思う大事なことは、『チームがやりたいことを理解してコミットする』こと。
前にも書きましたが、チームにコミットしてないとスカウティングをしても力を発揮することができないと思います。

しかし裏を返せば、チームにコミットすることでコーチ陣や選手に対しての大きな力へと繋げることができると思っています。

まだまだ僕も日々勉強中。
なので他チームがどのようなスカウティングをしているのか、そして他スポーツではどのように相手を分析しているのか、非常に気になります(笑)。

今後、そのような情報交換をしていければいいな〜なんて勝手に思っています!


以上、今回はスカウティングに関する内容でした!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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