【小説】10月20日 小さな出会い【明石京子は今日も妖に会う。】
10月20日。
私の名前は明石京子。都内の大学に通う大学生だ。
今日は木曜日。
大学の講義もアルバイトも休みのため、から傘妖怪の雫と二人で買い物がてら商店街をぶらぶらと散歩していた。
「おかいものぉ♪ おかいものぉ♪」
「ご機嫌だね」
「二人でお出かけは久しぶりだもん♪」
座敷童のもこちゃんも誘ったのだが「今日は河童と話があるから無理」と断られてしまった。
まぁ、なにかあれば草加部さんを呼び出すこともできるし大丈夫だろう。
「あ」
突然、雫が足を止めて立ち止まった。
その視線の先には――
「女の子?」
雫より少し大きい女の子が一人、商店街の真ん中で座り込んでいた。
商店街を行きかう人々は特に気にする様子でもなく、女の子を避けていく。
体調が悪いのだろうか。
私は少し考えたあと、女の子に近づいて声をかけた。
「大丈夫?」
「……う」
女の子はわずかにうめくと顔をあげた。
くせっ毛で八重歯が特徴的な可愛らしい顔をしている。
「お、お腹が……」
「お腹? 痛いの?」
女の子はまた「う」とうなって口を横一文字に結んでしばらく耐えていたが、やがて、
「……お腹、空いた」
か細い声でそう言った。
「どう? 落ち着いた」
「……うん。美味しかった」
名前を天乃と名乗った女の子に私はたこ焼きを買ってやった。
もうちょっと気の利いたものを食べさせてあげられたら良かったが買ってすぐに食べられる様なものはこれくらいだった。
いきなり声をかけて飲食店に連れてはいるのも気が引けたので今は近くの公園のベンチに三人で腰かけている。
「はふはふ」
右隣では雫がまだたこ焼きを一生懸命頬張っている。
天乃と違って猫舌の様だ。
「一人で何してたの? お父さんとかお母さんは?」
「…………」
私が尋ねても天乃はだんまりだ。
寡黙、というわけではないが、こちらの質問にはあまり答えてくれない。
それどころか、
「お前、この街に住んでるの?」
こんな風に私のことは「お前」呼ばわりである。
はぁ、と私はため息を吐くと、「そうだよ」と答えた。
「そうか」
天乃はまた小さくつぶやくと黙ってしまった。
しかし、見たところまだ10歳くらいだろう。
周りの人々もあんな風に見てみぬふりしなくてもいいものを。
「家は近いの? 一人で帰れる?」
このまま放っておくのも気が引けるので私は尚も尋ねる。
すると天野はベンチから立ち上がりこちらを振り向いた。
「ふん。たまたま立ち寄ったけど、お前みたいなのがいるなら良い街みたいね」
おいおい。
結局、質問には答えてくれないのか。
がっくりと肩を落とす私。
だが、天乃ははじめてニカッと笑顔を見せて言った。
「たこ焼き、美味かったわ。その『縁』がまたあれば会いましょう」
「は?」
天乃の言っている意味がとっさにわからずに呆然としていた私だったが天乃はまたさっきまでの無表情に戻ると、後ろを振り返りすたすたと歩いて行ってしまった。
……なんだったのだろう。
まぁ、元気になったのならいいか。
私が納得しようとしていると、
「ごちそうさまでしたぁ」
隣で雫が手を合わせていた。
「美味しかった?」
「うん!」
子どもはこれくらい可愛げがある方が良い、と私は心の中でうなずく。
口の周りについた青のりをハンカチで拭ってやると、雫は思い出したかの様に言った。
「さっきの子、京子ちゃんの知り合い?」
「え、違うけど? どうして?」
すると雫はきょとんとした顔で、
「さっきの子、妖怪だよ」
と言った。
ハッとして前を見たが天乃の姿はもうなかった。
その『縁』がまたあれば――きっと、妖怪との『縁』があればということを言っていたのだ。
口ぶりから街の外から来た妖怪の様だったが、一体なんだったんだろう。
この不思議な出会いは後に事件に発展することになるが、このときの私はそんなこと知る由もなかった。
✒あとがき
読んで下さってありがとうございました!
天乃がなんの妖怪なのかは名前や素振りから分かる人も多いのではないでしょうか。
無論、再登場します。
しかし、雫かわいいよ。雫。
次回は「河童と鴉天狗 編」の一話です。
次も読んでいただけると嬉しいです!
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