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解題「透明:NEMURENU44th」

日本全国のNEMUの皆さん、コンニチハ。
新年、あけましておめでとうございます。
NEMUの祭典、眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー(NEMURENU)は今月で44集となりました。
テーマは透明。深淵あり、シースルーあり、カルト、オカルト、サイキック。多種多様の透明が揃いました。お好きな作品からお読み下さい!

目次

01「美しい夜」くにん
02「綱」しりん
03「知冬のからだ」海亀湾館長
04「OTM」闇夜のカラス
05「Z夫人の日記より104」武川蔓緖
06「ニノベハルトと透明な家族」アイウカオ
07「夢で逢いましょう」りりかる
08「ビニール傘」伊藤緑
09「透明テキーラ」千葉貴史
10「calling」りりかる
11「みずうみ」武川蔓緖
12「猫をなくした男と女」虎馬鹿子
13「I hate chopin」朝見水葉
14「ダイ・ア・リトル、ダンス・ザ・タンゴ」拙

解題

私の敬愛して止まない某氏のメールアカウントはwajoolkoosという謎の単語が当てられていて、後にその言葉は透明で姿の見えない男が自分を見つけた者に対して言った言葉「とうとう私を見つけたな」という意味の言葉であると分かったのですが、考えてみれば我々は皆が透明人間です。我々の存在は見えず、感知しえない。今月のアンソロジーは透明であるところの我々の祭典です。
真夜中の一室は何も無い、ように見える。しかしそこには透明の、姿の見えない者共が集っている。声も、聞こえない。しかし、そこには歌がある。
皆様に見えぬ姿、聞こえぬ声が伝わりますように。

01「美しい夜」くにん

くにんさんの小説です。
冬はどうして星が、空が美しく見えるのでしょうか。煌めく星々や、焼ける早暁を見ながら子供の頃の私は「気の所為」で済ましていました。つくづく脳内が理系で無い。もう少し調べようぜ、子供の頃の私!
くにんさんの小説を子供の私に読ませてやりたい。
何となく、朧気に感じていた「冬の美しさ」「透明度の高さ」は、確かに明確な根拠を以て其処にありました。
一人語りの物語、話をしているのが誰で、聞いているのが誰、と想像しながらお話を読むと面白いですよ。
コメント欄で海亀湾さんが、「会話が透明」と指摘していて、なるほどなあと思いました。



02「綱」しりん

虎馬さんから他薦を頂きましたしりんさんのエッセイです。
人は見えない綱の上で、綱渡りをしている。
そうした見えない綱によって時として諍いが起こります。そんな綱は手放してしまえ、と。家族といえど、お互いに理解し合う事はは難しいものです。
お互いが持っている異なる綱を許容し合う事で、家族は段々と家族になっていくものかもしれません。

綱がある、繋がるという事ですね。
本当に大切な物は目に見えない。大蛇に飲み込まれた象のようなものです。



03「知冬のからだ」海亀湾館長

「No kidding!」と思わず叫ぶショートショート。驚きました。
主人公の男性は意中の相手から驚くべき秘密を打ち明けられます。「からだの一部が透明になる」体質だと。
そして彼女は手袋を外し、透明の手掌を見せるのでした。
そうか、透明か。透明は難儀です。
愛に障碍はつきものですが、果たして主人公の恋は無事に成就するのでしょうか。
透明人間と言えば、全身が透明で全く姿が見えないものと思っておりましたが、海亀湾さんの透明人間はあくまでも部分的なもの。そして、どの部分がどのタイミングで透明になるのかは制御できません。透明人間という伝統的な題材にそんなアプローチが出来るのかと感心しました。そして、その設定が見事に消化されている。話の組み立てが抜群です。
本作について多くを語るのは勿体ないので、後は皆様ご自分の目でご覧下さい。



04「OTM」闇夜のカラス

透明と云えばスッケスケ。何でも卑猥に解釈するのは大人の悪い癖ですが、確かに透明と云えばスッケスケです。
スケスケ、という言葉は卑猥語ですが、果たして本当に卑猥語なのか。俗物根性が曲解して卑猥に感じているだけでは無いのか。
改めて辞典で意味を調べてみると

「透け透け:覆いが透けて、内があらわになっているさま。特に、衣服が薄手のため肌や下に着たものが見える様子。衣服が水に濡れて透け透けになっている様子を「濡れ透け」などと言う。(Weblio)」


「特に」の以後が非常に限定的。
そうか、特に衣服の透ける様をスケスケと呼ぶのか。やっぱり卑猥語ではないか。本来、透け透けで無いものが水に濡れて透け透けになっている様子を「濡れ透け」と呼ぶ?

「濡れ透け:衣服が濡れ、それによって透けているさま。水に濡れてスケスケになった状態。扇情的な表現として用いられる。(Weblio)」

「扇情的な表現」、やはり淫猥の意味なんですね。
と、読者は闇夜のカラスさんの言葉によって淫靡の世界に誘われるのが本作。
透け、のフェティシズムの追求と言えましょう。
すけすけ、の言葉は日本語の新表現で「透けた様子」を擬態語にして「すけすけ」としたところ、それが畳語化して「透け透け」とも使われるようになり、畳語用法の派生形(音交替畳語)として「濡れ透け」などの新語が生まれたのだと思われます。
時代は常に革新している、ということですね。卑猥語もまた、新時代です。
本小説はそのような現代における卑猥の揺らぎを表しているような気が致します。


05「Z夫人の日記より104」武川蔓緖

「Z夫人」は武川さんが長らく連載している数珠繋ぎの掌編小説。読み切り短編なので、これまでの話を知らずとも楽しめます。私もシリーズを読むのは本作品が初となりますが、予知癖のある姪御や、脈絡なく起こる怪奇現象を楽しく拝読致しました。登場人物が個性的で、支離滅裂。このような肩の力を抜いて読める気楽な作品は良いですね。是非、皆様もご堪能下さい。


06「ニノベハルトと透明な家族」アイウカオ

今回、虎馬鹿子さんからご紹介頂いた二作目。ご自身で文芸サークルを運営しているアイウカオさんです。さすが書き筋が安定しております。ニノベハルト氏は事故で家族を亡くし、それ以来透明な家族と暮らしています。
本来であれば感じるところの悲壮感が本作にはありません。ニノベハルト氏の温かな暮らしが紡がれていきます。読み手は其処に安堵と心地よさを感じることでしょう。透明家族が年を取らないように、ニノベハルト氏の時計も止まっている。止まった時計の生活が安らかに続きます。
しかし子供であった氏もいつか大人になりました。大人になった氏と、透明の家族たちはどのような変転を迎えるのでしょうか。ガラスの繊細さによって成り立った平穏に不穏が見え隠れします。結末は破綻でしょうか、破壊でしょうか。透明な家族たちは二度目の死を迎えるのでしょうか。


07「夢で逢いましょう」りりかる

りりかるさんの掌編小説です。湧池を訪れた恋人たち。「みたらし団子」「メンチカツ」「イカ焼き」「大きな煎餅」と観光地特有の何気ない会話が続きます。このような観光地フードって美味しそうですよね。無性に心くすぐります。日本は食がエンターテイメントになっている。素晴らしいことと思います。ああ、お腹が空きました。
湧池を覗くと透明度の高さに吸い込まれそうになります。少し、そら恐ろしい心持ちが致します。世紀末美術の代表作、ミレーの「オフィーリア」は水と死が象徴的に結合した作品です。湧池の奥底もまた青く翳った死の世界、と思えなくもありません。
物語は急転直下、読後は「夢で逢いましょう」というタイトルが重く響きます。


08「ビニール傘」伊藤緑

伊藤緑さんです。伊藤さんの作品を拝読する毎に私は印象派の絵画を思い出します。光を捕えるために筆は輪郭をなくしていきます。形骸、概念をなくしてあるがままをあるがままに。感覚の世界です。
本作は、ビニール傘を題材にしています。
ビニール傘と言えば、急の雨に仕方なく買うもので、ともすれば晴れ間の傘立てに捨て置かれることもあります。そうしたビニール傘の哀切が描かれながら、傘の挙動たる「開くことと」、「閉じること」その挙動を「をんな」の所作に準えて艶めかしく表現されています。このような妖しさは、輪郭を無くした感覚筆致の伊藤さんならではの持ち味に思います。


09「透明テキーラ」千葉貴史

伊藤さんの詩に引き続き、千葉さんの作品。「透明テキーラ」という語呂の良さにまず興味を惹かれます。テキーラと言えば太陽の香りがする黄金色の蒸留酒。染み出した樽木の色は、オーク樹を育てた太陽の色でもあります。
それが透明とはこれ如何に。太陽に比して透明テキーラは月魄の銀世界。夜の似合う飲み物です。千葉さんの詩は無意識から紡がれる言葉。瓶口から零れる糸水のように、滔々と流れます。


10「calling」りりかる

りりかるさんの二作目。
夢、というものは文学でも特別なジャンルを形成しているものに思います。その「夢」を掌編小説にしたものが本作。
「夢」は現実法則に因らない。即ち逸脱の世界です。
小説もまた現実からの逸脱を試みる世界です。夢と小説は似ております。



11「みずうみ」武川蔓緖

武川さんの2作目。皆さん、多作で凄いですね。先程のコミカルタッチのZ婦人シリーズとは異なって、本作「みずうみ」は夢幻と追憶の幻想小説です。
かつての「恩師」との間の分断された過去。その邂逅。時間の隔たりはお互いに肉体の変化を生じせしめています。老いた恩師を背負う湖畔。水面に反射する煌めきが幻想の粒子のように「私」を包みます。


12「猫をなくした男と女」虎馬鹿子

男にとって猫を飼う事は調度品を調える如し、女と暮らす事は猫を飼う如し。誰にも善悪の悪が備わっていて、虎馬さんは時として登場人物を露悪的に描きます。が、悪徳を悪と断じる事をしない。人は罪を贖いながら生きているから。そのような乾いた視点に息を呑みます。
猫と犬は相反する対義で、共通項がない。男と女も共通項はない。贖罪の中で相反が融和している。視点の厳しさと慈しみが融和している。まるで人肌の刃のようですね。



13「I hate chopin」朝見水葉

ともすれば難解な、毎回独特の筆致で精彩に物語を描く朝見さんです。朝見さんの作風を絵画に例えるとローランサンのようですね。愁いと秘密があります。本作もまた秘密の物語です。胸像に光を当てて、影に落ちた半面は、暗闇に溶けて消えて無くなる。
この物語の半面も、我々読者には不可視です。HGウェルズが透明人間を描いた時に、彼は不可視の存在でした。透明であるからこそ、不可視であり、彼の周囲を霧が包めば不透明故に不可視となります。透明である。不透明である。我々は全てを見透かす目を持ちません。
本作の男と女。彼らの間を繋ぐ糸も絡まり合う透明です。洗面器いっぱいの血液に透明の糸が縺れて沈んでいます。

冒頭の話に戻りますが、透明の男と結婚出来るのは彼の姿を見つけた女のみ。誰も彼の姿を見つける事はできません。
そうして或るみすぼらしい少女が男を見つけた時、男は言います。

Wajoolkoos
(とうとう見つけたな)
誰にも見つけられない孤独を我々は知っていて、また同時に彼の人を見つけられない孤独も我々は知っています。我々は相互に透明です。

本当に大切なものは目に見えない。
目に見えないお互いを探し続けるのが人生であると、一時は手に掴んだ服裾を再び掴もうと不可視の中を手探るのが人生であるように思います。

透明である我々が誰かの服裾を掴む事が出来る幸運があったとしたら、ひとえにその幸運に感謝したいものです。
ええ、皆さん、コンニチハ。
Wajoolkoos、お互いに。

親愛を込めて。

今月もありがとうございました。



14「ダイ・ア・リトル、ダンス・ザ・タンゴ」拙

解題が良い感じにまとまった所で、蛇足的にわたしです。コンニチハ、ボクだよ!


コメント師がやって来る、ヤーヤーヤー


(定型文です。)
アンソロジーがまとまると何処からともなく現れる「眠れぬ夜の奇妙なコメント師」。今宵も奇妙なコメントが集まります。

眠れぬ夜の奇妙なコメント師とは・・・

「偏れ!」
大衆に迎合して日和った意見になんの価値がございましょうか。そのような生温い意見に甘んじたいのならば無料SNSにでも行け・・・!(あっ!ココのことだ!)
結局大勢を相手に発信するSNSって受信する側に選択がないので、発信する側が気を遣って意見を中立に保たなくてはいけない。悪くはございませんが、そんな無思想の量産型意見など「あなた」が吐く価値がない。「あなた」しか言えない意見だからこそ価値ってあるんじゃないかしら。「あなた」しか言えない意見だからこそ真の共感が得られるんじゃないかしら。
反論のない意見に真の賛成もない。
偏らなければ面白くない!
日和った意見を書き連ねるほど、文筆家は堕落して自分の価値を貶めるんだ。ネットで日和見小説を書くほど真の文筆の道からは遠ざかるんだぜ。

ということで、大いに偏って穿ったご意見を募集しております。
(批判はダメです。)

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編集後記

今回のアンソロジーは文芸特化。そして実は私が集めた作品はありません。全て皆様から寄せられた参加作品と他薦作品で完成致しました。人が人を呼んで多くの方がご参加下さる。参加者層の厚さに感謝致します。
私事。元旦に歯茎の違和感を感じ、見る間に状況は悪化。炎症から来る顔面痛に夜も寝られません。そうしてまた今晩も眠れぬ夜がやってきます。途中、全く心が折れましたが、皆様からの温かなお言葉やお見守りに支えられて、当月も無事にアンソロジーがまとまった事に厚く御礼申し上げます。
皆様に愛を。
私に免疫を。
世界には平和を。

コメント師様募集しております。是非、ご参加下さい。

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