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アクター紹介:百武直紀「即応変化でつくる世界観」

 百武直紀には、世界観がよく馴染む。

 百武直紀。マヨ武。フリーで活動する、アクタボンの客演。

 即応性抜群の爽やか好青年。そしてマヨラー。

 清潔感溢れる容姿と、時折顔を覗かせるお調子者な一面のギャップ。その人間性も素敵なのだが、やはり彼の魅力はアクターとしての演技、姿勢だろう。

「僕にできることなら、なんでも」

 マヨ武には、ありがたいことにアクタボン所属ではないフリーの身ながら、昨年8月のイベントから4本続けてアクタボンの舞台に、客演として出てもらっている。

 百武直紀というアクターは、世界観によく馴染む男だ。キャラクターや物語のテイストに合わせ、表現を組み替えてくれる。演出家として創りやすいし、脚本家としてわくわくさせてくれる。

 百武直紀には、アクタボン主催の公演だけでなく外仕事のイベント出演、映像展開など、アクタボンワールド展開の運びを一緒に走ってきてもらっている。

 そのなかでさまざまな役を与えたが、そのどれもこれもが嵌まり役で、創っていてとても楽しい。観せたいものと、観させてくれるものを一致させてくれるから、気持ちが良い。

 どんな無茶振りにも、オーダーにも即座にて対応してくれるその姿は、まさにどんなオカズにも合う調味料・マヨネーズといったところか(?)。

 百武直紀は、演劇界のマヨネーズになれる男なのかもしれない。
(※単体でも美味、なにかと合わさるとなお良い味出す役者だよ!という意。)


「レンズはだいぶ、最初のイメージと変わってきましたよね(笑)」

 今回の奇跡ちゃんピックアップ公演で百武直紀が演じる刻ノ宮蓮珠(ときのみやれんず)というキャラクターが生まれたのは、実は夏のイベントより少し前の6月頃だった。この頃あたりから、僕たちは稽古の一環としていくつかの作品を同時並行的に演じ作ってみていた。そうしてアクター陣にいろんなキャラクターを演じてもらい、アクタボンワールドの世界観を座組みで共有してきた。

 奇跡ちゃんpuで上演する『断片的な真実は、幸運なきみの笑顔のなかに』も、そのなかでできた演目のひとつだ。

 未知標奇跡の同級生・公立域還高校二年一組に在籍する生徒の一人として、好青年ならイメージで作られたキャラクター、トキノミヤレンズ──しかし。

「あれ、レンズなんかちょっとこわくない?」

 いつもの稽古場、新しい台本。初登場のキャラクター。すこし、異様な空気感。

 百武直紀の身体を通して現れた刻ノ宮蓮珠は、なんだか妙に禍々しい存在感を放っていた。

 そしてそれが、この演目と、このキャラクターが持つ『世界観』の芯であることに気付かされた。脚本にして、演出をつけてみて、役者が演じて、新しい発見を得る。そうしてそれが次の物語へと繋がっていく。

 そんな演劇の面白さを、百武直紀は改めて教えてくれた。

「退屈カードゲームとか作りましょうよ」


『七つの退屈』で百武直紀が演じた伝導寺真実は、優れた第六感を持つ占い師だ。対象の人物が持つ情報を直観で言い当て、さらに少し先の未来までを見通してしまう超能力者。

 登場人物が全員、所属も活動拠点もバラバラな群像劇を纏めるガイドライン。物語の案内役。複雑過多な情報量と固有名詞が台詞の随所に詰め込まれた重要な役割を、マヨ武は見事演じ切ってみせた。

『七つの退屈』のカラーは、伝導寺真実の表現如何によって赤にも黄色にもなる。あの世界観、物語は、百武直紀が伝導寺真実を演じてくれたからこそ生まれたものであることは間違いがない。本来ならば独立していた物語を運び、文脈を繋げ、人物を邂逅させてくれたのは、あの占い師だ。

 そうして始まった、『キャラクターピックアップ公演』。こちらは、その"本来"の、独立した個々の物語を紡いでいく。その運びにまた、マヨ武と一緒に創作に取り組めることをうれしく思う。思わしてくれるアクターだ。

 伝導寺真実と刻ノ宮蓮珠はどこか似ている。合わせ鏡のような、地続きのような、同系色のような。

 それはきっと、このふたりが『百武直紀』というアクターの世界観に、深く馴染んでいるからだろう。

 芯を捉えた表現は、己の身体に文脈を取り込む──そういうことかもしれない。

 百武直紀が演じることでそのキャラクター性、文脈の方向性が一変した刻ノ宮蓮珠。舞台上に現れる"真実"を、どうかその眼に収めてほしい。

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