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創造的家づくり05 家って何だろう?


家づくりのはじまり。あなたの要望は?

家づくりのはじまり。おそらく、いちばん多いのは、近くにある住宅展示場に足を運びつつ、家族の要望を洗い出すところからはじまるパターンでしょう。ハウスメーカーに行くと、要望書フォーマットをもらったりしますね。その質問に沿って、自分の家へのイメージを固めていくステップは、ワクワクするものです。

ある50代ご夫婦の場合

今日は、以前のお客様(Aさん)のエピソードをご紹介しましょう。
50代のご夫婦の建て替え、ご主人の定年退職を機にセカンドライフを楽しむ住まいを計画中にお会いしました。すでにお子さんたちは独立されていました。
Aさんは、単身赴任をされているため、週末ごとの夫婦の時間をとても大切にしていました。家づくり計画が決まってからは、ご主人の帰宅時には住宅展示場やショールームをめぐることが大きな楽しみになっていた模様。

数年に及ぶ、家づくり活動で、住む町の展示場とショールームはすべて回ってしまった!と笑って話してくれました。

初めてお会いする前に、すでに出来上がっていた「要望リスト」をいただいたのですが、Word文書にびっしり数ページ、そのリスト項目を見ると、どんなハウスメーカーとショールームに足を運んだのかがわかるようでした(笑)

「住む人の暮らし」が見えない

さて、その要望書をみた私たちは、ちょっと困りました。びっしりと書き込まれた要望書には、(おそらく訪問したメーカーの売りとなる)性能や間取りについてのコメントがびっしり。

性能にかかわるキーワードでは、「太陽光パネル」「断熱係数」「省エネ商品」「お手入れのしやすい塗装技術」「○○工法」などなど、などなど、建材についてフォーカスしている言葉が並びます。

また、間取りについては、「対面キッチン」「小上がりの和室」「バリアフリーの水回り」「○畳の広めのリビング」「中庭もあり」といった、プランニングについての言葉が並んでいました。

ここまで、「しあがっている」要望というのは、数年におよぶ家活動のなせる業です(ハウスメーカーさんからの間取り提案も受けている)。家づくりに関する書籍もたくさん読んでおられました。

でも、この要望者からは「住む人が見えない」「暮らしが見えない」。たくさんある要望の中でも優先順位も読み取れない。

私たちは、まずはじめにこの要望書のおおもとになる「暮らしのイメージ」「家のイメージ」を探ることからはじめました。

Aさんご夫婦にとって「家ってなぁに?」「暮らしってなぁに?」という抽象的な質問をさせいただいたのです。すでに「答えること」「書くこと」になれていて、むしろその作業が好きなご夫婦でしたので、マインドマップという手法をまねて、「家」「暮らし」から思い浮かぶキーワードを描いていただき、それをもとに対話を重ねました。

とても面白かったのが「土間」に関わるお話です。

Aさんは、マインドマップの中心に描くお題を「家」というキーワードにしました。「家」からおもいつくキーワードを放射状に書いてもらうのですが、そのなかに「近隣関係」という言葉がでてきたのです。


家って


家づくりのヒアリングのなかで「近隣関係」という固い言葉が出てくることはないので、とても興味深くおもいました。

一方、近隣関係の困りごとなど(騒音・ゴミ屋敷・嫌がらせ)は、時々ワイドショーのネタになっていて、なんとなくネガティブなイメージもはらむ言葉でドキッとしたのです…

この近隣関係からつづくAさんの言葉は、素敵なものでした。子どもたちの年齢も近いご近所さん達とは、単身赴任する前は、ちょくちょく持ち寄りの飲み会やパーティーを開いていたそうです。一緒に料理をつくって、飲んで、話して。それがとても楽しかった。単身赴任になってその機会が減ってしまい寂しく感じていたので、定年後は、その時間を復活させたいというお話を聞きながら、私も楽しくなってきます。Aさんの幸せの形というものをちょっとだけかもしれませんが、垣間見ることができました。

そして、こうつぶやいたのです。

「そんなふうに、気軽に寄ってもらって食べたり飲んだりしたいんだけど、この辺の人はさ、玄関からどうぞって誘うと、遠慮しちゃうんだよね」
「今までの家(建て替え前の家)の縁側みたいに、フラッと入れるように土間があるといいと思って」


「わ~!それは楽しそうですね!」と、それを聞いた私たちでしたが、「ん?確か…」と思ってリストを見直してみると…やはり「土間」という言葉。

最初のリストにも(埋もれるように)あったのですが、そこには、「土間(観葉植物をおく)」と書かれています。

同じ土間でも、観葉植物をおいている土間風景と、ご近所の皆さんが集っている土間風景と、その役割は天と地とも違います。

おのずと、予算にあわせた取捨選択の際にも「ここだけは妥協しない」というポイントになります。

この日以来、私とお施主さんの「Aさんの新しい住まい」のイメージは、集いの家となり、土間と庭が繋がる風景となりました。


福島渡邉邸縁側スケッチ

こちらのスケッチは、プラン提出時の暮らしイメージ。


マインドマップを描かずとも、ヒアリングを重ねる中でその暮らしイメージを共有できたかもしれませんし、対話の上手な設計者は、暮らしの雑談の中で実現したい暮らしについて、思いを引き出してくれます。
思いがしっかり共有できれば、その実現をよりよい「カタチ」で示してくれるのが設計のプロ。

でも、「自分で描く」ことは、住む人の思考の整理につながります。要望を通して家族が話をすること、そのプロセスがあるだけでも、家づくりのビジョンがずれることなく、予算も効果的に使うことにつながると思います。


マインドマップは、中央のテーマを変えるだけで、様々なレベルでの考えの整理が可能です。たとえば「キッチン」という少し具体的な言葉から始めることもよし(その場合、キッチンの具体的なカタチの言葉もでてくれば、キッチンが家族にとってどんな場になるのか抽象的な言葉もでてくるでしょう)。

ただ、順番としては、家づくりの大きなテーマとなるような、「家って」「暮らしって」という言葉からはじめると新しい発見があるように思います。ぜひぜひ、家についてのマインドマップ、かいてみてください。

どんなキーワードが出てくるでしょうか?楽しみです。


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村上有紀(ムラカミユキ) 

楽しい住宅設計を仕事にしています。
もちろん、設計依頼をお受けしていますが(大歓迎!)、お施主さん(住む人)にとっても、家づくりを通した学びは楽しいぞ!ということで、間取り好きで、自分で間取りをつくってみたい方へのサポートもはじめました。

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