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音楽理論「重箱の隅」第8話「マイナーキーの正体その参」

こんにちは。ベーシストの村井俊夫です。

音楽理論の端っこのほうにある、ふとした事柄、でも割と大事なこと…重箱の隅を楊枝でつつくような記事を書き連ねています。

よろしくお願いいたします。

引き続き「マイナーキーの正体」。その参です。

前回までのあらすじ
「王様である平行長調の支配」という宿命を背負ったマイナーキー…その脱出劇が、いま、始まる。


Aマイナーキーで見ていきましょう。

まずは基本音階であるナチュラルマイナースケールとダイアトニックコードです。

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完璧な王様であるCメジャースケールを展開した音階なので、破綻がなく聴きやすい、自然なサウンドを持つマイナースケールです。日本名「自然的短音階」にふさわしいキャラクターです。

ところがこの範囲では、どうにも「『ラ』が一番エラい!」とは言いがたく…つまり、曲の最後にメロディーが「ラ」、コードが「Am」で終わったとしても、いまひとつ「エラそうな感じ」は伝わりません。
「やっぱり『ド』のほうがエラいんだ…。」と言われる始末。

何とか「ラ」と「Am」を格上げするために派遣されたのがハーモニックマイナースケールです。

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第7音を半音上げることにより、5度上のダイアトニックコードがⅤ7になりました。このⅤ7の登場により「Ⅴ7→Ⅰm」(E7→Am)というドミナント進行、つまり「不安定→安定」というカタルシスが生まれました。

このⅤ7という和声が欲しいがための音階、日本名「和声的短音階」の名のとおりです。

加えて、この「半音高められた第7音」は主音に向けての導音なので、メロディーにおいても「ソ♯→ラ」という解決感が得られます。

このハーモニックマイナースケールの功績により、「ラ」「Am」の地位が格段に向上し、平行長調であるCメジャーキーの勢力に対抗できるようになりました。

ところが…この音階を歌ってみたら、第6音(ファ)と第7音(ソ♯)の間(増2度音程)がどうにも歌いづらく、かつ、響きが独特すぎる…。

せっかく登場してくれたⅤ7は手放したくないが、この増2度音程は何とかしてほしい…そのリクエストに応えて登場するのがメロディックマイナースケールです。

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第6音も半音上げて、増2度音程を解消し、かつ、Ⅴ7もキープしています。
第6音を調整して旋律を歌いやすくしたこの音階、日本名では「旋律的短音階」です。

音階が降りる時には第7音を導音化する必要がないので、第7音・第6音ともに元の音階(ナチュラルマイナースケール)に戻します。

やっと真打ち登場、となりました…が、またもや困ったことが…。

そもそもメジャーキーとは違う色合いのサウンドを求めてマイナーキーを設定したのですが、ここで同主長調(Aメジャーキー)と並べてみましょう。

A 平行調

同主長調との違いが第3音しかありません。
平行長調から逃れようとしていたのに、同主長調に近づいてしまいました…。

キーの「感じ」が混沌としてきました…。
もっと素直なマイナー感があればいいのに…という不満の声がちらほらと。

では、この不満にお応えして次の音階を…という展開にはなりません。何故なら「素直なマイナー感を持つ音階」は、既にあるからです。

ナチュラルマイナースケールです。

ぐるっと一回りして、再びナチュラルマイナースケールが現場復帰しました。

このようにマイナーキーの3つのスケールは、どれも完璧ではない、ということです。
それゆえに、この三者が「協力してマイナーキーを作り上げよう!」ということになりました。

これが「マイナーキーには3種類の音階がある」に至る物語です。

次号では、この3種類のマイナースケールがどのように協力体制を作るのか、を見てみましょう。

続きます。

みんなでマイナーキー

おあとがよろしいようで。

お読み頂き、ありがとうございます。


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