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多くの人に読んでもらいたい新刊『「わかりあえない」を越える』

『「わかりあえない」を越える』(海士の風、2021年)というNVCの本が今日、12月8日に出版されました。できるだけ多くの人にこの本を読んで欲しいのでこのnoteを書いています。よかったら最後までお読みください。 

NVCとはNonviolent Communication(非暴力コミュニケーション)の略で、私たちが生来持っている思いやりの心を取り戻し、それを育むためのコミュニケーション法です。「思いやりのコミュニケーション」とも呼ばれ、開発したのはこの本の著者マーシャル・ローゼンバーグ博士(1934-2015)です。マーシャルは、現代カウンセリングの礎を築いたあのカール・ロジャーズに師事して研究に携わり、そのときの研究成果がこのNVCの開発に重要な役割を果たしたそうです(p.16、36)。 

NVCの本としてはマーシャルの前著『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法(新版)』(日本経済新聞出版社、2018年)があり、これまで多くの人に読まれてきました。ただ初めてNVCを学ぼうとする人には本書を先に読むことをおすすめします。前著は入門書というよりむしろ概説書です。NVCの世界が格調高く、論理的、体系的に表現されているので、そこが初めてNVCに触れる人にはやや難しい壁になるかも知れません。現に私のまわりには途中で挫折した人が何人もいて、実は私もその中の一人です。喩えるなら前著は大学の講堂で講義を聴いているような感じがする本です。 

これに対して本書は大学のサークル活動をしているような本です。読んでいるとまるで自分がマーシャルのワークショップに参加しているような気になります。例えば本書では、人間は本来、人を思いやる気持ち持っていることにつき、次のように書いてあります。 

どこでワークショップを行っても、わたしは参加者にこんなふうに問いかけます。「過去24時間を振り返って、あなたのとった何らかの行為が、誰かの人生をよりすばらしいものにするうえで役に立った、ということはありませんか?」。相手が1分くらい考えたところで、わたしはさらに尋ねます。「誰かの人生をすばらしくすることに、ご自身の行為が役立ったと気づいた方は、今どんなお気持ちですか?」。その瞬間、誰もが笑顔になります。どこへ行っても同じことが起きます。たいていの人間にとって、他者に与えることは喜びなのです。(p.40) 

また過去の自分の「過ち」で苦しみを抱えている人に自己共感の手助けをする場面では、マーシャルらしい冗談をまじえた表現が出てきます。 

最初のステップは、自尊心を失わずに自己の過ちから学ぶ方法を知ることです。つまり、デトロイト育ちのわたしに言わせるなら、「ヘマすることを楽しむ方法」です。そこで、ワークショップの参加者には、まず、自分の失敗を1つ思い浮かべてもらうことから始めます。そういうわけで、完璧な方にはワークショップへの参加をお断りしています。せっかく参加したのに、何にも題材がないというのでは困りますからね!(p.108) 

このように本書には過去のワークショップでのマーシャルの言葉や参加者とのやり取りがたくさん再現されていて、読んでいる私たちに語りかけてくれるかのようです。また随所に読者への問いかけの言葉やエクササイズが出てきたり、本のデザインも行間、余白がゆったり取られたりして、読者が心の中で声を発する余白が用意されています。おかげでテンポよく呼吸するかのように話したり聴いたりが繰り返され、最後まで楽に読み通すことができます。 

私はこの本のサンプル版を秋頃に手に入れました。夏頃に出版社からサンプル版の希望者募集があり、てっきり有償配布だと思い応募したのですが、届いてみたら無償配布だったので驚きました。同封の手紙には、この本の読書会を企画したり、読書会に参加したり、感想文を書いて欲しいと書いてあります。この本に込められた出版社の思いが伝わり、私もそれに応えたいと思いました。また新しいNVCの本の出版プロセスに関われることにうれしさを感じました。 

サンプル版が届いてからしばらくして読書感想文講座の案内が来ました。プロの編集者の方が文章の書き方を教えてくれるというのです。今度は有償です。決して安くない金額ですが、私は迷わず申し込みました。出版社の思いに応えたい気持ちと、一度ちゃんと文章の書き方を教わりたいとの思いが重なり、私にとって願ったり叶ったりです。 

読書感想文の講座では「なぜ文章を書くのか?」から始まり、読みやすい文章の書き方や読んでもらうために必要な心構えなどを教わりました。とても楽しかったし、勉強になりました。何より為になったのは「Good, Bad, Next」というフィードバック法を覚えたことです。この手法はサッカー元日本代表監督の岡田武史さんも取り入れていて、講座の中では毎回ある参加者の課題文について他の参加者が「Good」「Bad」「Next」の順にコメントを伝えます。普通、この手のフィードバックはダメ出しになりがちです。言う方と言われる方の間に上下のタテ関係ができ、後味の悪さだけが残ります。しかしこの手法では、たったこれだけのシンプルな約束事で、お互いがヨコ関係で感想を伝え合い、創造的な気づき、アイデア出しができるから不思議です。 

参加者の中にnoteに詳しい方もいました。その方の課題文の中には「note に書くことで、それまで会ったこともない人にも読んでもらえ、それが励みにもなり、自信になる」と書いてありました。その言葉に刺激され、私もnoteデビューできました。これも読書感想文講座に参加したおかげです。 

読書感想文講座は終わり、いよいよ本書の感想文を書く段になりました。しかし筆がまったく進みません。提出日(11月14日)が来ても1行も書けませんでした。無償でサンプル版をもらい、せっかく読書感想文講座を受けたのに、感想文が書けない。もっと言うと書きたくない自分がいました。本書の発売日(12月8日)が近づき、私には書かないという選択肢もあるのですが、やはり気持ちはあせり、心穏やかではありません。そんな中、発売日の2日前にふと本書を開いたら、こんなことが書いてあるではないですか! 

ワークショップ参加者には、やらなければよかったと思っている自分の行動を思い浮かべてもらいます。つぎに、心の中でどんな言葉を自分にかけているか、ほんの少し教えてもらえませんか、とお願いします。人というのは、かなり乱暴な言葉を自分にかけているものですね。乱暴な言葉を使うのは、どうやらゴルフのプレー中だけじゃないらしい。こういう場合、皆さんからいちばんよく返ってくる答え、つまりナンバーワンのコメントは、「この大ばか者め!」です。なんとまあ、この世は大ばか者であふれていることか。そうかと思えば、暴力的な言葉を使う人もいます。人間が発明した最も暴力的な言葉のひとつ「べき(should)」です。(p.108) 

私の場合、「提出日までに提出すべきだった」「今からでもいいから本の発売日までに書くべきだ」です。こうなると私の心の中ではマーシャルとの対話が始まっています。マーシャルはこう問いかけます。 

「あなたは何のニーズが満たされなかったのでしょうか?」 

「提出日までに書いて信用を大切にしたかった。遅れてでもいいから読書感想文を書いて、読書感想文講座で一緒になった人たちの仲間の輪に加わりたかった」 

自分の行動によって満たされないニーズに気づくことをNVCでは「嘆き」と言います。ニーズとつながり、嘆くことで、それまであった気分の落ち込みや罪悪感、恥の意識は、いつの間にか「甘い痛み」(p.102)に変わります。マーシャルとのやり取りは続きます。 

「では次に、考えてみてください。書かないという行動で、あなたは、どんなニーズを満たそうとしていたのでしょうか?」 

「書かないという自由、選択があると信じたかった。そして書きたくない自分に正直でいたかった。書きたくもないのに書いて、読んだ人にうそをつきたくなかった」 

こうなるともう涙がこみ上げてきます。本書の表現を借りれば、「自分自身に共感し、いのちを豊かにするようなあり方」(p.112)で自分自身とつながれたのです。それと同時に私の中で文章がこんこんと湧き上がってきました。この体験を伝え、この本の魅力をたくさんの人に知って欲しくなったのです。「書くべき」ではなく「書きたい」と心の底から思えた瞬間です。 

本書でマーシャルとのこの対話が取り上げられている第4章第2節(自分の「過ち」への自己共感)の冒頭には、1900年代初頭に活躍したアメリカの作家ウィリアム・ジョージ・ジョーダンの言葉が紹介されています。

うれしいことに、わたしたちには過ちを犯すという、すばらしい特権がある。そして、過ちに気づく知恵と、その過ちを、未来へと続く道を照らす明かりに変える力もある。過ちは知恵の成長痛なのだ。それなくしては、個々の成長も、進歩も、克服もない。(p.107)

なんて希望に満ちた言葉でしょう。とかく私たちは「正しい、正しくない」の物差しで自分や他者を評価して裁き、攻撃してしまいます。でもそうではない世界があるのです。それが NVCの世界で、自分や他者の内面で生き生きしているニーズに意識を向けるのです。そしてそこに向かうための方法と実践がこの本の中で示されています。 

このnoteで本書の良さが伝わればうれしいです。コロナ禍で人とのつながりが希薄になり、私も苦しい時期を過ごしました。そんなとき私はNVCと出会い、自分自身や素敵な仲間とのつながりを取り戻したことで救われました。そんな私のこの文章を読んで、いま苦しんでいる誰かがこの本を手にし、自分自身とのつながりを取り戻すきっかけとなれば幸いです。 

最後までお読みくださり、ありがとうございました。 


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