_記憶にございません__

『記憶にございません!』

目が覚めたら病院のベッドにいて、
なぜそうなのかわからない。
自分が誰、すらもわからない。

病院を抜け出して、食堂でふとテレビを見ると、
自分は総理大臣だと知る。
しかも、史上最低の支持率、
国民からもっとも嫌われている総理大臣、だった。

嫌われているから、演説中にヤジを飛ばされ、
それに子どもっぽく反応して
「あんな人たちには」的な暴言を吐き、
キレた聴衆から石をぶつけられ、
それで記憶がなくなる。

というところから映画はスタートする。

総理は、
「記憶にございません!」
と国会で答弁するが、
それは石をぶつけられる前。
よからぬことをして、
都合が悪くなったら、このセリフをいう。
「記憶にございません!」

「総理のモデルは、田中角栄?」
と学生から聞かれたとこがあるが、
国会で「記憶にございません!」と答弁したのは、
児玉誉士夫。
ロッキード事件でのことだから、
田中角栄が総理大臣のころのことだが、
田中角栄本人のセリフではない。

が、最近でも何人かの官僚が、
明らかに証拠が揃っているにもかかわらず
「記憶にございません」
と答弁を繰り返して難を逃れている。

映画では、
公用車を使ってプライベートな活動をする、
自分の支援者たちのために口利きをする、
無駄な公共事業に多額の支出をする、
しかもそれはリベートとなって、
政治家のフトコロにカネが戻ってくる、
女性へのハラスメントをして平気、
身内の警察事をもみ消す、
不倫や風俗通い、
の総理大臣を描く。

誰か一人がモデルなのではなく、
安倍内閣になってからの政治全体のうんざりした、
最低の出来事の連続を、
一人の総理大臣で描いている。

政治的には、野党との議論には一切応じず、
国会での強行採決を繰り返す。
国民の声を聞かず、実態を見ず、
官僚の出す数字だけで社会保障が切られていく。
一方で、アメリカに媚を売り、
大企業に有利な税制をとって、
こんなムチャクチャを国民の大半はうんざりしているのに、
こんなムチャクチャに対する抗議の声が小さいまま、
大きく広がらない世の中を、
「この国の国民は変化を好まない。
くさってても平穏ならそれでいい」
と見下しきった態度で、
政治も行政も司法も取り仕切っている。

こうした今の世相を、
笑いに包んでどぎつく風刺をしているところが、
三谷幸喜らしい。
あ〜、ここにつながってきたか、という伏線の張り方も
三谷幸喜らしい。

ただ、アマゾン・プライムでなら、
まあいいか、
という映画かな。