
むき出しの東北、という感じ
熱い!
鳴子温泉の共同浴場「滝の湯」。
小ぶりの浴室に、浴槽がふたつ。
奥の浴槽は小さめでぬるめ。
まずはここで身体をお湯に慣らして、
なにしろ寒い中を旅館から歩いて行くので、
身体が冷えている。
その冷えた身体をぬるめのお湯で温めて、
くっそ熱い手前の大きめのお湯に入る。
熱い!!熱い!!
ゆっくり「い〜ち、に〜〜い」と数える。
120まで。60を2回、心のなかで数えて、
お湯から上がって床に腰を下ろす。
外からの冷たい風がかすかに入ってきて、
火照った身体を冷ましてくれる。
なんと、トトノウではないか。
サウナのサウナ→水風呂→外気浴、
みたいに、熱い湯→洗い場→心落ち着ける→トトノウ。
は〜いかった〜、と「ゆさや旅館」に帰ってきて、
LPレコードから流れてくるジャズを聞きながら、
ロビーのソファーに腰を下ろして、本棚に目をやる。
と、なつかしや、『山に暮らす 海に生きる』がある。
民俗研究家の結城登美雄さん。
東北の漁村山村を歩いて回り、
おばあちゃんおじいちゃんの話を聞き、
田んぼのこと、畑のこと、山のこと、
海のこと、漁のこと、養殖のこと、
マグロ、鮭、かき、こんぶ、わかめ。
朝市からつながる人のネットワーク。

過疎であり限界集落であり、
「うちにはなにもない」
「コンビニもない、スーパーもない」
「高速道路ない、橋もかかってない」
結城登美雄さんは、試しにその集落で普段食べている飯のおかずを、
それぞれつくってもらって、集会場に集めた。
あらこの味、あんたんところはこんな味、
わたしのところはこんな味つけ。
いろんな味わいがその地域にはあった。
捨てるよりみんなで集めて売ってみようかと、
小さな直売所を立ち上げて、朝採りたての野菜を並べてみた。
3日たち4日たって、道行くクルマが止まってくれるようになった。
箱買いして帰っていく県外からの釣り人たちも。
自分たちのくらしは、こんなに豊かだったのかと、
おばちゃんおじちゃんたちは気がついた。
結城登美雄さんは、地域おこしは
「ないものねだり、から、あるもの探し」
だと教えてくれた。
早稲田大学の大隈塾で。
ひさしぶりに『山に暮らす 海に生きる』を開くと、
釜石の記事、大槌の記事、山田、宮古、久慈。
五城目もある、米沢もある。
大隈塾のときはまったく知らない土地が、
いまでは友人知人が暮らしている街になっている。
震災前の東北の街。
カキ養殖の漁師さんの記事があった。
まだ夜明け前だというのに、海辺のカキむき工場にあかりがともっていた。宮城県唐桑町鮪立。真っ暗な冬の海から水揚げされたカキ殻が作業場へ運ばれる。寒風の中で黙々とそれをむく十数人の人々。鮮度維持のため暖房もない。聞けばすでに午前一時から立ちずくめ。これから昼過ぎまで食事時間を惜しんでの作業が続くという。
「うちの父ちゃん、寝不足と重労働で疲れもピーク。でも頑張り屋なんだ」
船を見送る妻の一代さん(33)、
と書いてある。
「つなかん」の一代さんだ。
『山に暮らす 海に生きる』は1998年の出版。
まだ「つなかん」はない。そして……。
『山に暮らす 海に生きる』 結城登美雄 無名舎出版 1989年