山北和徳くん

バクダッドの日本大使館に勤務する友人が一時帰国して、
早稲田大学で1コマ講義するというので、
聴講にいった。

山北和徳くんは、早稲田大学のラグビーに所属していたが、
一浪のブランクとケガもあり、
5軍からなかなか上に上がれずにいた。
そして悩んだ末、2年生になるときにラグビー部を辞めた。

退部届を出して数日したら、
当時の監督だった清宮克幸さんから電話がかかってきた。
山北くんによると、ラグビー部は140人を超える大所帯で、
最下層の5軍の選手からすると、監督は雲の上の存在、
1ヶ月に1回話すチャンスがあるかどうか。

そんな監督から、自分のケータイに電話がかかり、
緊張して何を話したか覚えてないが、
「どうして辞めるんだ?」
という、5軍の選手にはありがたすぎるお言葉。
いろいろと話したはずだが、たぶん、
「ちょっと来い」
といわれたのだろう。なぜなら、気がつけばグラウンドにいて、
清宮監督と話をしていた。

そこで、
「おまえ、外務省にいけ」
といわれた。
ラグビー部のメンバーにとって、監督の指示は絶対である。
「はいっ!!!!!!!!」
イチも二もない。
山北くんの人生はここで確定した。

「でも、理由聞いていいですか?」
せめてなぜ自分が外務省に入る必要があるのか、
5軍から4軍に上がるよりも
高く険しいであろう壁にチャレンジする前に、
その理由を確認したい。

そこで、
早稲田大学ラグビー部→中途退部→勉強→外務省
→オックスフォード大学留学→ラグビー部でレギュラー→外務省
→プライベートで日本へのワールドカップラグビーの招致活動
→イラク戦争が終わったばかりのイラクへ臨時の転勤
→テロリストに襲われ死亡

奥克彦さんの生きざまに触れ、
自分も国家公務員になって世の中の役に立ちたいと心に決め、
奥・井ノ上イラク子ども基金を手伝いながら、
大隈塾で学びながら、
国家公務員試験の準備をし、
見事に合格したから、外務省に行くんだとばっかり思っていたら、
経済産業省に入省した。

東日本大震災での原発事故、
福島の復興に携わり、
大隈塾の社会人コースである「大隈塾リーダーシップ・チャレンジ」に
チャレンジすることになった瞬間に、南アフリカ勤務が決まる。

南アフリカで3年。
ずっと希望していたイラク大使館に欠員が出る。
山北くんは情熱をもって高々と手を挙げ、募集に応じ、
晴れてバクダッド勤務の機会を得た、。

バクダッドは危険レベル5である。
地上でもっとも危険な場所である。
ケープタウンには帯同した家族は、
今回は日本にいてもらって一人、バクダッドへ向かった。

その山北くんが一時帰国するというから、
奥・井ノ上イラク子ども基金のメンバーが集まり、
山北くんの講義を聴いた。

いろんな話題が散りばめられた講義だったが、
わたしがひっかかったのは、
「日本で自殺する人の数は、
イラクの自爆テロで亡くなる人の10倍以上」
だった。

地上で一番危険とされている場所よりも
10倍以上の人が、自ら生命を断っている日本。

調べてみると、
2003年の約34,000人をピークに、
2018年は20,598人と減っては来ているが、
それでも一ヶ月1,700人も自殺している。
厚労省警察庁

子どもたちの自殺は増えている。
(ニューズウィーク)
10〜14歳の自殺の原因が、すごくイヤだ。

親子の不和      53人 11.3%
親からのしつけ、叱責 61人 13.1%
成績不振       55人 11.8%
いじめ        11人 2.4%
(2013-17 467人)

「きれい、かわいい、気持ちいい」
これは、上海万博で日本を紹介するスローガン。
まさにそのとおりだ。
そのうえで、
安全で、快適で、コンビニエントな日本。

でも、親が子の生命を奪っている社会でもある。
山北くんのイラクからの便りで、それを思い知った。