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怒れる母性を宿す人面の女獣「スフィンクス」/幻獣事典

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世界の神話や伝承に登場する幻獣・魔獣をご紹介。今回は、エジプトとギリシアにまたがる「スフィンクス」です。

文=松田アフラ

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ギリシアのデルフィ考古学博物館収蔵のスフィンクス像。紀元前570~前560年ごろナクソスから奉納されたもの。

 一説によれば、このエジプトのスフィンクスはメソポタミアを経てギリシアに採り入れられたとされているが、エジプトとギリシアのスフィンクスは実に2000年もの時を隔てており、性別も逆であることからして、両者は実際にはまったくの別物であると思しい。おそらくギリシア人は自分たちの考え出したこの怪物が、人面獣身という点でエジプトの巨像といくらか似ていたことから、エジプトのそれをも便宜的に「スフィンクス」というギリシア名で呼んだのであろう。

 古代ギリシア語の sphinx は「絞め殺す」というギリシア語の単語に由来する言葉で、この怪物の凶暴性を表している。英語で「括約筋」を意味するsphincter も同語源である。神話によれば、怪物王テュポーンと蛇神エキドナの間に生まれた娘で、頭と胸は人間の女だが胴体は獅子であり、鷲のような翼を持つ。プリニウスはこのスフィンクスをエチオピアに棲む怪物とし、「毛が褐色で胸に一対の乳房がある獣」と記して、その女性性を強調している。

 ゼウスの妃ヘラは、テバイの王ライオスが男色の罪を犯したことに怒り、この怪物をその都に送り込んだ。スフィンクスはこのテバイに通ずる路上で旅人を捕えては「朝は4本足、昼は2本足、晩は3本足であるものは何か」という謎を掛け、正解を答えられない者を貪り食っていた。
 そんなとき、数奇な運命に翻弄されて父親を殺し、母親イオカステの愛人となったライオスの息子オイディプスが通りかかる。そしてスフィンクスの問いに対して、「それは人間だ」と正解を告げた。謎を解かれたスフィンクスは崖から身を投げて死んだという。

 心理学者C・G・ユングはスフィンクスについて、「一個の恐ろしい獣であって、そこに母からの派生物を認めるのは容易である……スフィンクスは『恐るべき』『喰らい尽す』母親を体現する存在である」と述べている。すなわちスフィンクスとはイオカステの、ひいては母親という存在の暗い側面の象徴なのである。

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ギザの大ピラミッド近くに座す大スフィンクス像。人面獣身の姿から、似た姿で伝わる怪物スフィンクスの名で呼ばれるようになった。

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