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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第6回)

15日目

前回の発見を契機(けいき)に、私は根気強く、都市の中を探索した。都市には面白い遺跡がたくさんあったが、任務に直接結びつきそうな発見は、先日の落書き以外には、特に見つからなかった。

都市の北側、噴水広場(先日の広場を私はそう名づけた)から北へ少し進んだ場所にあるのは、おそらく行政の中心だった建物だろう。
前任者の本にあった通り、豪華な王宮やお城の跡などはこの街には見当たらず、どちらかというと商店をかねた個人の家、といった雰囲気の、こじんまりとした建築物ばかりで市街地が構成されていたようだが、この建物だけは、簡素ながらも、それなりに大きな建物だったようだ。
階段の跡が残っているところを見ると、どうやら少なくとも2階建て以上の建物だったようだが、石造りの入り口をくぐると、その向こうには今や天井の残っていない、外壁だけの遺構があるのみになってしまっている。薄茶色の石組みを構成する石は風化が著しく、ちょっとした力で完全に崩壊してしまいそうだ。
私はここに何か残されているものがないかと、数時間かけて丹念に調査したが、特にめぼしいものには出会わなかった。

噴水広場に戻った私は、ベンチ跡の石に背をもたせて座り、圧縮水分を口の中で弄びながら、この町の最後についてぼんやりと考察していた。
完璧と思われたポトロのシステム・・・争いを好まない人類を生み出し、惑星上の一生物種としての調和と繁栄を守るコントロールシステム。
前任者も絶賛していたこのシステムが、一体いつ、どこで破錠したのだろうか。この世界は今や、草1本生えず、虫すらも住まぬ死の世界だ。
しかも、前任者の本によると、元々サバラバは狭い地域にもかかわらず、多様な気候に恵まれた、不思議な土地だったという。だが今は、どこまで行っても乾燥した砂漠の荒野ばかりだ。

これらを踏まえて考えるに、前任者の本と今のこの世界が違う理由として考えられるのは、

1.前任者の本が書かれてから、実は相当な時間が経過している。

2.気候をコントロールする装置が故障したまま放置されている。

2は、あくまでこのサバラバの気候が、人為的にコントロールされていたのではないか、という仮説に基づいている。もしこの仮説が間違っていたとしたら、急激な気候の変化に別の何らかの理由が必要になるが、現在私が持っているだけの観測機器で、それを調べることは実質不可能と言える。

太陽がじりじりと照りつける。熱をおびた石の遺構に囲まれているせいか、この都市に入る前よりも暑く感じる。
私はこの遺跡群(ここはもはや都市ではない)にこれ以上留まる必要はないと判断した。最も人が集まっていたであろうこの場所がこういった現状である以上、この世界で誰か人を探すのは、もはやナンセンスであると言えるのかもしれない。
それよりもむしろ、件の本にある『人工知能ロヌーヌ』を探し出すことが先決のようだ。もし人工知能がまだ稼動しているのであれば、ロヌーヌが現在私のかかえている数々の問題を一度に解決してくれる可能性が高い。

口の中の圧縮水分の残りを一気に飲み下した私は、遺跡を北の方向に抜け、再び歩き出した。まだまだ分からないことだらけで、まだまだ解決すべき問題がたくさんある。

今の私にできることは、ただ歩き探すことだけだ。

【記録終了】

「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)