新入社員。異例の措置で配属先の決定権が自分に回ってきた話
「配属の希望をお伺いした後ですが、A部の説明を再度聞いていただきたいと思います。」
6月までの新入社員研修を終えて、やっと所属の本部が決まりました。
本部内でのより細かい配属が決まるまでの2週間、それぞれの部の説明を聞いてどこがいいとか何がしたいとか考える目まぐるしい日々を過ごしました。
やっと希望を提出してあとは待つだけの私に、思わぬ連絡が来たのです。
配属希望を出してから1週間の、次の月曜日には発表されるという金曜日。突然マネージャーから電話を受けた私は、ほぼ寝転びかけていたのを見破られたかと焦って姿勢を直しました。
A部の説明を聞いてほしい。なんだか嫌な予感がしました。
だってすでに1度は聞いた説明です。
その上で、A部には希望を出していません。私が希望を出したのはB部とC部だけでした。
「希望をいただきましたが、第1希望のB部は中途とキャリアしか取らない部署ですので、今回残念ながら新人での配属とはなりません。」
納得。そうかなと思いながらも出した部署でした。
「そこで、A部から是非法学部で学習された経験のあるkさんに来ていただきたいという話があります。本部会でも話し合った結果、A部か第二希望の部かをkさんに決めていただきたいのです。」
突然こっちに飛んできたボール。こんな制度あったっけ。
聞いていなかった配属のプロセスに戸惑い、私はボールを落としかけました。けれど一方で、私に連絡が来た理由をどこか冷静に理解している自分もいました。
確かに私のような法学経験者(といっても学部で勉強しただけですが)が少なそうな本部ではあります。法律関係に抵抗が少ない若者がとにかく少ないんだろうな。
オファーの熱量からしてなんとなく断れなさそうな雰囲気は感じていました。そもそも、こういう会社からの打診って断れないんじゃないのと思っているステレオタイプな自分もいます。
でも海外系の仕事をしたかった私は、はなから駐在機会がない本部直下の部署は眼中になかったんです。
A部では直接の海外駐在や出張はないことは事前に調査済みでした。そして、見るからにお堅そうな人たちの集まりに見えて、何なら少し嫌煙すらしていました。
だからわざわざ希望の部以外は深堀りしなかったんです。
そんなA部からの直々の打診。
そうきたか。見つからないように隠れていたのに、いつの間にか横にいてがっちり腕を掴まれていたような感覚です。
このタイミングで聞かれることがあるのか。だってあと配属通知まで1営業日しかないよ。
「あの、それは希望を出し直すということでしょうか。その上で本部の方に再度ご判断いただいてから配属の通知が来るとのことなのでしょうか。」
そもそも伝えられていた配属のシステムとは違いすぎたので、思わず聞いてしまいます。
「いいえ。ご自身で考えていただき、出していただいた場所への配属が決定します。」
そんなことってあるの?!自分で指名制?!
「自分で決められるということですか?」と思わず食い気味に聞いていました。
「はい、そのようです。このような措置は普通はありません。」
<<<<そのようです?!>>>>
頭の中には、ずっと「?!」が浮かんでいます。
ていうか、私に伝えてくれるマネージャーすら、そのようですとか言ってる。え〜〜〜〜〜〜!?
本部直下のA部は人の流動性も低く、先輩社員さんからは“重鎮が本部内で最も多い”と言われているのです。
その上、新人が欲しい理由が「世代交代に備えてこれからの部を担う新人が欲しいから」なのです。さらにさらに、自分で決めるということは、その覚悟の表明でもあるではないですか。
一度入ったら出られなくなること間違いなし。そんなプレッシャーを感じてくらくらとしました。
私、そもそも転職するだろうな〜と思って入ったんだけどな。3年くらいで留学行くつもりなんだけど。
ていうか、そもそもボール渡さないで勝手にそこに配属してくれればいいのに。私の希望を尊重しようとしてくれる善意が、責任に変わって私にめり込んできます。
そうこうしているうちにOutlookの予定表には、ぽんっと会議の招待が来ました。
統括部長、部長、マネージャー、マネージャー、そして私。
設定された会議名は【ご相談】だと。胃の痛む思いです。
不意に入った一報までほとんど眠りかけていた頭は一気に揺り起こされて、今まで特に目にも入れていなかったA部の情報を掘り起こします。
「ご相談」が開始するまで後1時間半。
そんな状況から自分が何が譲れないのかをノートに一気に書き出します。同時にA部の事業説明の動画を流しながら、自分の中で気になることを羅列。
何が怖いって、私は人に期待されることが大好きな優等生だったのです。
今だって、何かを成し遂げるより、成し遂げたいと努力する人を支えることのほうがよっぽど好きなのです。
だから、期待されたら応えたくなってしまいます。いつの間にか自分がやりたかったことより他人の足りないことの埋め合わせをしていることが今までにも何度もありました。
必要とされたら断れない。
それが自分だとわかっていたから、この決断が自分の手にあることが怖かったんです。
「ご相談」の出席者からは、私を怖がらせないようにしようという雰囲気が伺われます。それもそのはず、1人でこんなに幹部社員に囲まれる経験はありません。
中学1年生が入学早々に高校3年生の集団に呼び出されたみたいな感じです。
「海外と関わることは、ありますか。」
その中で私は、この1点だけをしっかり聞こうと思っていました。
やりたいことには手を挙げ続けたほうがいい。それが入社からの短い時間で先輩たちに最も言われたことの1つです。
私は、グローバルに仕事ができること、英語を使えること、仕事で海外に行けることを軸にしてこの本部自体を希望しました。そういう仕事がしたいというのは、譲れなかったんです。
たとえ想像していた関わり方のできない部署でも、そういう仕事内容がゼロかイチかじゃ話は大きく違います。
海外部門との連携をしたり、海外契約を締結したりと関わりはある。それが偉い人たちからの回答でした。
どうしようか。
重鎮が多いと聞きましたが、、と恐る恐る聞ける程には和やかな人たちで、それに笑って答えてくれた女性の部長は話しやすい人でした。
半日以内にお返事をすることになり、その会議から退出しました。
オンラインの通話が切れた部屋で1人、天井を見上げます。
さすがに、同じようにどきどき配属を待っている同期にはこの状況は話せません。
どうしたらいいのだろう。
自分の手に、自分の社会人人生の第一歩がある。
そのプレッシャーが押し寄せてきて、配属後にお世話係をしてくれていた先輩に電話をかけていました。
その人が答えをくれたわけではありません。
でも、A部の人たちは信頼できる人たちだよと、その人は優しく教えてくれました。
結局私は、A部に配属されることを希望しました。
もう、かかってこいという感じです。考えても実際どうなるかなんてわからないから、当たって砕けろ精神で門をたたきました。
そして今、配属から半年以上が経って、法律関係の仕事が思った以上に楽しい自分がいます。
なんであのとき、こちらを選んだのだろう。
きっと、期待してもらっているところで役立つことがしたかったからです。単純だけど、それだけ。
海外との仕事や英語を使った仕事も想像以上にたくさんありました。私の英語力、実体を知られないまま過大評価されてないか?と焦る日々でもあります。
英文契約とにらめっこしたり、英語の会議の議事録を取ろうとして散々なメモをつくったりしています。
うわあ、できない!と出来の悪さに隠れたくなることもありますが、それでもそういう仕事に関われるのが楽しいんです。
あの一瞬は、たくさんの!と?に見舞われていました。正解はないと分かっていたけれど、なるべく後悔はしたくありませんでした。
でもあの時の私が、海外海外と口うるさく言い続けてくれたから、私は実力以上の環境をもらって現場でたくさん学ばせてもらっています。
会社の決定で決められた身ではあるけれど、きちんとそこまでにできることは自分もやったと思えました。大きい企業だからと流されるだけじゃなくって、ちゃんとやりたいことをやりたいと言ってよかった。
そして、その希望を叶えてくれた上司と環境にもとても感謝しています。
配属が決まって家族に連絡したとき、
「まゆ、どこでも謙虚にやりなさい。」
そう父からの連絡が来ました。
今の私、謙虚にがんばれているでしょうか。もうすぐ次の代が入ってくる時期になってしまって、焦燥感が募ります。
今年の新入社員からは配属の制度が変わるとかいう噂も流れてきました。新入社員と部署がそれぞれ指名しあって、両思いになったらそこで配属決定みたいなことらしいです。
よくわかってないけれど、多分主体性が求められる分やりたい仕事はできるけど重い決断になるんでしょう。
私がこの仕事を選んだ理由は、これからの私が作っていくものなのかもしれません。配属されたからゴールなんじゃなくって、これからも選び続けていくような気がします。
どんな私になりたいのかを考えて、選択はこれからも続いていくんでしょう。
振り返った時にあの決断をしてよかったと思えるような今を生きたい。そう思うから、今日も新人なりに走っています。
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