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コンテスト受賞とピックアップ記事

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コンテストの受賞記事と公式のピックアップ記事をまとめました。初めて読んでいただく方は是非こちらから。
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失恋ですか、と美容師さんは聞いた

「20cm、切ってください」 鏡に映る自分をまっすぐに見つめて、考えてきた言葉を一息に言い切りました。 「顎くらいかな、それより下?でいいですか?」 3回目になる担当の美容師さんは、初対面とも気を許してるとも言えない距離の敬語でわたしの毛先をいじりました。 顎下のボブなんて、何年ぶりでしょうか。 大学2年生くらいまで、高校生の延長のようなボブをしていたのが私の中では最後の記憶です。それからは鎖骨あたりで揺れるくらい、伸びてもそこに戻って、当たり障りのない女子を楽しん

はじめての鳥取観光(鳥取砂丘・コナン空港)

そうだ、鳥取に行かねば。日本全国をゆるゆるとまわりながら、なかなか到達できていなかったのがここ鳥取県だった。 島根に行く予定があったので、軽い気持ちで鳥取の旅程を付け加えたら、なかなかハードな移動になってしまった。1泊2日とはいえ、観光らしい観光は半日だ。 島根の七類港にフェリーで18時に着き、そこから米子駅へバスで1時間。もう、鳥取に入っている!と思いながら路線バスに揺られている。残念ながら冬に足を突っ込んでいる季節は、夕方は闇に包まれていて景色を楽しむ余裕はなかったけ

「認知症世界」を私はおばあちゃんと歩けるかな

見えないものが見えてしまう。いない人がいるように感じる。体が思うように動かせない。ネガティブになり、落ち込みが激しい。 最近の祖母と過ごしていると、そういうことを言われます。見ていてもわかるし、叔母や母の言葉を聞いていても、そういう症状なんだともう目をそらすことはできません。 おばちゃんの家に行くと、いつももうひとり誰かいるような気がするらしい。そう聞いていて実際に遊びに行ったら、たしかに「妹はどこにいったの、一緒に食べなきゃ」などと言うのです。おばあちゃんは日常生活で、

お寺の門には萌えが詰まっている

本命に出会った。初めて南禅寺の三門に対面した時、私はそれを確信しました。 京都には5度目の訪問だったあのときから、私は京都を訪れるたびにそこで時間を過ごしています。最初に私を連れて行ってくれた友人は、隣で私がそんな衝撃を受けていたとは露ほども知らなかったでしょう。ただ無邪気に水路で写真を撮っている23歳の女の子だと思ったに違いありません。ところがみんなが写真映えにはしゃいでいる間にも、私はひとりその門の力強さに圧倒されていたのです。 これです。これが南禅寺の三門です。トッ

短歌)いつも初めて見る景色

*** *** 短歌が楽しくて、気づいたら何首もポケットのメモの中に残っていました。週末にはTOEICがあるんだけれど、大丈夫かな、ともうひとりの私が焦っています。 さて今回は、「いつも初めて見る景色」というタイトルで恋の歌を25首。 短歌を残すかたちとして、写真と組み合わせてみることにしました。今持っているスマホだけで3万5千枚の写真を保有する私、いままで消してこなかったいろんな写真が役に立ってくれそうです。 Twitterでも数日前から少しずつアップしているので

「お電話ありがとうございます」がわたしを変えた話

電話が嫌だから美容室にいけない。ぼさぼさの髪を気にしていられないくらい、電話で話すのはわたしにとってハードルの高いことだった。 数年後、そんなわたしが電話カウンセリングの受付インターンをすることになるなんて想像もつかなかっただろう。それも、電話応対を褒められるほどになるなんて。 中学生のとき、美容室に行くには電話で予約をしないといけなかった。ゼロから市外局番を三けた押すころには手が汗でべったりとなり、なんども唾を飲みこんだ。 あの「最初に何を言えばいいんだろう」と頭が真

就活、いったん疲れた

新着メールの送り主が見えて、一瞬ためらってからフォルダを開く。 株式会社まるまる。 誠に、まで見えたら、残念ではございますが。 きゅうっと胸のあたりが縮んで、どーんと何かを突きつけられた気持ちになる。 こうして、その後の長文は企業の誠意か精一杯の好感度なのか、社会の中できめられた型でいわゆるお祈りをされる。 もちろん、もう今年度の選考は受けないでね、って書いてある。 こんなやり取りを想定して、予め予防線を張っておくことはできるけれど、それでも何かしら自分に残った重

鏡の中には、嬉しそうな私の知らない女の子がいた

初めて母とブラジャーというものを買いに行った時、中学生だった私はひどく気後れしたのを覚えています。 「ママ、こんなところは嫌だ。早く出よう。」 お店に一歩足を踏み入れるやいなや、そう言って私は母の手をとり、後ずさりしました。 当時の私には、これでもか!と主張された大きな柄やレース、そもそも「女性の空間」というものが未知の恐ろしい場所に感じられたんです。 それはいかにも若者向けの下着屋さんではなく、いきなり百貨店に連れて行った母のせいだったと思います。高級下着をつける想

貧しい大家族のおもてなしを受けたトンガで現地を味わう旅を知った

旅行先に行くと、せっかくだから何かをしなくてはいけない気がしてしまうのは私だけではないと思います。 まさにトンガについた私達も最初はそう思っていて、クジラと泳ぐツアーに参加したり、少しでも多くごはん屋さんを探し出そうとしていました。 トンガなんて、そもそもニュージーランドに留学するまで知りませんでした。今でこそラグビーワールドカップで少しだけ有名になったものの、サモアの近くにある小さな島国なのです。日本では知らない人のほうがまだまだ多いと思います。 どこでもいいから色ん

祖母のやりたかったことは唐突に叶った

この春やりたいこと。 それを祖母に聞いたらなんて答えるかはわかっていて、実際やりたいとも言われていたのに、忙しいからと私は断ってしまいました。 「10年ぶりに一緒にお風呂屋さんに行きたい。」 これが祖母がやりたかったことです。 この春だけじゃなくて、本当はいつも。 家のお風呂がとても寒いと祖母の通うスーパー銭湯は、子供の頃に私と妹もよく連れて行ってもらった場所です。 社会人になったら私が遠くへ行ってしまうと信じてやまない祖母は、その前に一緒にお風呂へ行きましょう、

今宵、お月見を口実にわたしと散歩しよう

「なんとなく歩きたいから散歩に行こうよ」 そう言ってもきっと彼は一緒に川沿いのコンビニまで歩いてくれたんだと思う。なんで、とも聞かれなかったと思う。分かってはいたけれど、「今夜は十五夜らしいから、おつきさま見えるよ」と誘った。 十五夜? 訝しげに聞き返した彼は、きっと十五夜を九月十五日のことだと思っていたんじゃないかと想像している。そのあと私が「満月だよ」ともう一度言うと、少しホッとしたように、「そっか」と言った。 私も満月ですら気にしないし、お団子だって用意していた

見慣れた渋谷が、知らない私を連れてきた

イルミネーションより、ずっと夜景のほうが好き。 あなたを楽しませますよと意気込むエンターテイメントより、生きている人の無数のストーリーが後ろにある光の粒が好き。 そんな私がずっと行きたいと思っていた場所があります。 それは、渋谷スカイ。 渋谷駅直結の地上230メートルの展望台。そこから見える夕焼けと夜景に焦がれていました。 平日に美しい景色を1人で眺めてたそがれることは、私にとっては至極の贅沢です。何も考えずに感覚だけで過ごす時間のその孤独に、夜景ほど馴染むものはな

昨年の今日、私は今の会社の内定をもらった。

12月28日最終営業日。池尻大橋の駅まで向かう道端で、白い息を吐きながら電話を取りました。 この1年で私の人生は大きく変わりました。もしかしたら今頃海外の大学に行っていたかもしれない私は、今年の4月から新入社員として日本の企業で働き始めました。自分が働くなんて思ってもいなかったのに、去年の10月から就活を始め、もう年の瀬が迫った12月の最終営業日に内定の通知の電話を受け取りました。 電話で私に結果を伝えてくれた若いお姉さんの声。これで良い年を迎えてくださいね。そう言ってく