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奄美大島へ

久しぶりに投稿する用の日記を書くことにする。


おれはここ2年ほど、朝になると、紙の大学ノートを広げ、昨日の出来事や、考えたこと、なんとなくのモヤモヤ、部屋に虫がいること、今日こそは洗濯をやらなきゃならないこと、等の有象無象を思いつくままに、これに飽きて身体を動かしたくなるまで書き連ねる、ということを断続的にやっている。

それは日記というよりも一種の健康法みたいなもので、デトックスのように、気持ちや思考を吐き出しきった後で、今日やりたいことをやる、という点でよい感触があり、これが継続できている時期はすっきりとした気持ちで過ごせるのだ。

おれの場合の特にわかりやすいメリットは、喧嘩をしなくなること。だいたいの喧嘩は自分が不安定な時に発生するくだらないもので、ちゃんと自分の気持ちを理解し、乗りこなそうとしてみれば、喧嘩なんてほとんど起こらない、ということをこのノートをやって初めて知ることとなった。

ちなみにここ数ヶ月は、友達が死んだショックでノート以前にほとんど生産的な活動をしなくなっていたため、無意味な喧嘩することが多かったような気がする。

最近になって引っ越しをしたり(同じアパート内で)、天神のビルの屋上で蛸みこしをつくったり、ご近所でやる読書会が楽しかったり、ちょうどよい感じの刺激がつづき、徐々に前向きになれるようになってきて、ノートも再開、そんな感じの時期に奄美大島へいくことを決めたのだった。





この島で初めての朝を迎えたおれは、ファミマでコーヒーを購入し、イートインコーナーで昨日の出来事を大学ノートに書き留める。

昨日は一睡もしないまま早朝のバスに乗ったため、移動中はずっと眠っていた。一番安い方法で、福岡天神、鹿児島空港を経由、奄美空港についた時には夕方になっていた。

滑走路にでると、少し湿ったぬるい空気が身体をつつみ、濃緑の蘇鉄や熱帯樹でびっしりと埋まった島山が目に入る。おなじみの激烈な感覚が沸き起こる。南国にきたのである。

徹夜で装備を吟味したこともあって、ザックがとても軽い。今までの旅で一番よくできたパッキングになったと思う。荷物は多いと重くなり、必要なものがすぐに出てこなくなる。そうなるとすべてが足をひっぱりあうように、身体の動作も、現象の感度も、行動の選択も、ひたすら鈍くなっていってしまう。荷物はすくない方がいいのである。

異国の風と荷物の軽さにご機嫌になったおれは意気揚々と空港をでる。まずは右にいくか、左にいくのかを決めなくてはならない。今回はこの島について本当になんの下調べもせずにやってきたのだ。少し考えて、とりあえず友人が紹介してくれた空港の近くで農園をやる人に電話にかけてみることにしたが、留守だった。

少しほっとした。
これでどこにいくのも完全に自由だ。

こんなにも無縁の状態は久しぶりだ。不安なほどの自由さが、骨身に染み込んでくる。ここからはすべてが遭遇の毎日になる。おれは芸術探検家。環境、生物、文化、制度、自分以外のすべてと遭遇し、その遭遇にゆらぐ自らの心身と遭遇し、またそれら遭遇の意義を考え、遭遇の方法をつくる人なのだ。遭遇はどこでもつくれる。だけどその根源にして原体験はどこまでいったって、偶然の出会いとタイミングによって次の行き場所が照らされいくような「旅」なのである。この状態に触れている時ほど、強い充足を感じることはなかなかないなと思う。





ファミマでこのあたりまでノートに書いて、わりと旅行記っぽい雰囲気に気づき、これをワープロでちょいと編集すれば、人が読める日記にすることもできるのではと思った。ワープロは5年ほど使っていなかったのだが、電池をいれるとちゃんと起動してくれたので、文体を整えながら書き写すことにした。



自由になったおれは、なんとなく左にあるくことにした。坂道をのぼる途中に海がみえる、薄曇りの天気だけど水色の海がきれい。

たまに後ろから車がくるので、音が近づいてきたら振り返って手をあげることにすると、すぐに乗せてくれる車があり、母と年頃の娘2人と一緒に名瀬という町にいくことになった。娘たちは興味深そうにおれのことを観察し、その気持ちを代弁するかのようにお母さんが質問、その応答にふたりがきゃっきゃするという楽しい時間がつづく。

「海の底に沈むタイヤを見つけだし、陸に引き上げ、ロープをくくりつける。それをひっぱりながら島を一周する。」

とはなした後の、独特の沈黙と、序々に気まずい感じになる車内の空気がおもしろかった。

名瀬につく。
ここは奄美大島で一番大きい町らしく、母と長女は繁華街で島料理の店をやっているとのこと。数日後の島唄のイベントのタイミングで食べにいく約束をして、3人と別れることにした。

小雨が降っていたが、ふらふらあるいていると、鉄板焼屋の路上に面したカウンターでビール片手にたこ焼きを食すおばちゃん2人に声をかけられたのでそこに混ざることにした。ひさしはあるものの、その面積が狭く、3人とも雨にあたりながらたこ焼き食べるという妙な感じなった。たこ焼きにビール2杯と黒糖焼酎で完全に気持ちよくなったところで雨が上がり、お会計を頼むと、なんと1000円。やすい。

繁華街の色彩がやっぱり南国って感じ。カラフルで、いろんな時代の建物が入り乱れ、ネオンがきらきらで、生き生きとした植物たちも負けじと存在を主張する。

雨は降ったりやんだりだから、テント泊は微妙かなと考えていたところ、ちょうどさっきのおばちゃんが言っていた安いゲストハウスに通りかかったので、今夜はそこに入ることにした。

昨日の徹夜もあって、泥のように眠るのであった。


という昨日の出来事を書き終える。ファミマは混んできたので図書館に移った。

郷土資料のコーナーが興味深い。とくに太平洋諸島としての日本列島、琉球弧という思想(ヤポネシア)についてここならじっくり調べられそうな感じ。
窓の外は晴れてるのに小雨がパラパラきたりしている、そういう島なのだろうか。

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