マスメディアの曲がり角

・プロローグ 3

翌朝、東洋テレビの制作現場。
「ところで、ウチの『おはよう!朝だよ、ニュースとバラエティー!』は、どうなるんでしょう。」
制作プロダクションからADとして派遣されている亀山は、明らかに不安を隠しきれない表情で、同番組のプロデューサーである村田に恐る恐る聞いた。
村田は東洋テレビでも実力派として知られている敏腕プロデューサーである。
亀山からすれば、たとえ他人からコバンザメと詰られようと、村田にさえ使い勝手が良いと思われていれば、この業界では十分に生きて行けることを知っていた。
民放キー局の合併など、誰しも予想すらしなかった事態である。
しかし、肝心の村田は素っ気なかった。
「別に何も変わらないだろ。もともと天上人(てんじょうびと)たちは、ウチの商売道具である番組の作り方なんか知りもしないんだから。テレビ局 なんて、番組があってナンボのものだろう。数字(視聴率)を取れる番組を作っている限りは、何も怖いものはないさ。」
東洋テレビに限らず、民放キー局各社は続々と高層の本社ビルを建てたが、制作現場になるスタジオは、ビルの下の方に作られている。
そのため、現場の人間たちは、高層階にいる経営系の仕事をしている人間を「天上人」と呼んでいる。
村田の関心は常に「視聴率」という数字一点に絞られている。
「これが他局の話だったら、美味しかったけどな。」
それには亀山も同感であった。
「もう、他局はこのニュース一本で、評論家なんかも呼んで、ああでもない、こうでもないと、視聴率を稼ぎまくっていますよ。何か悔しいですね。だけど、太平洋さんも『モーニング・スペシャル』をやっているじゃないですか。偉い人たちは、同じような番組は二つも要らないって言っていますし、大丈夫なんでしょうか。」
「それは、亀ちゃんらしくないことを言うね。別に、会社が一つになろうが、なるまいが、アチラの番組に負けていたら、ウチの番組が切られることに変わりはないじゃないか。チャンネルは二つとも残るそうだから、削られるのは制作の頭数じゃなくて、優雅な天上人の方々の方だろ。結構な話じゃないか。どうせ、カネにならない会議がお仕事なんだから。絶好のリストラだよ。」
そう言いながら、村田は頭の中で、別のことを考えていた。
確かに、太平洋テレビジョンの方が強いジャンルはある。特に、娯楽系の番組では、随分前から、視聴率の格差は広まる一方だった。
制作現場にも、影響がないとは言えない。数字を取るためには、予算の確保が不可欠だ。
「それじゃ、亀ちゃん、後はよろしく。」
そう言って、社を出た村田は、報道系にいて養った人脈を当たってみようと、知り合いの青空新聞の記者から情報を取るべく、タクシーをひろった。
今回の話には、何か隠されている。愛社精神など微塵も感じてはいない。たとえ、自分の会社のことであろうと、もしも何か裏があるなら、それを暴いてみたい。その衝動を抑えることは出来ない。

(つづく)

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