クリームロケットソース

悪いやつらがいた。とにかく盗んだり、手当たり次第ビルを爆破したり、うそをついて人をだましたり、お互い大人なんだから話し合いで決めようねって言っておきながら、危なくなったらすぐ暴力で解決するような、そんな悪いやつらがいた。そんなわけで、そいつらのせいでもう地球は壊滅状態っていうか、けっこうやばい状態になっていた。煙なんかが、そこらじゅうでもくもくとなって、それはもう、けっこうやばい状態であった。
そんな折、このままではいかんということで日本政府の期待を一身に受け、そんな悪いやつらを倒すべく立ち上がった4人の戦士たちがいた。その者たちの名はチーム、クリームロケットソースといった。

若林ケン:リーダー的存在。176センチ67キログラム。くっきりした顔立ち。
高橋ナオユキ:サルみたいな顔。ムードメーカー。竜の血をひくという噂あり。でもサルみたいな顔。158センチ。43キログラム。
前原ウメコ:紅一点。168センチ。ヒミツグラム。B93、W59、H85
加藤・マイケル・五右衛門:農作業が得意。話すのが苦手。デカい。やさしい心を持つ。210センチ。120キログラム。

日本のえらい人「このままでは、日本はおろか、世界中のビルが爆破され、そこらじゅう荒野になって、まぁ、えらいことになってしまう。あいつらを倒せるのは君達しかいない!」
若林ケン「わかりました。ぐいーんと行ってやっつけてきます。それも数秒で」
日本のえらい人「おお、頼もしい!よろしく頼んだぞ!」
ウィーン。バタム!(ドアの閉まる音)

テクテクテク。灰色で、ちょっと見ると金属のようなんだけどよく見るとプラスチックなのかな。よくわからないな。でもまぁ結局のところ金属かな。といったな長い廊下を歩く4人。
サルみたいな顔をしたナオユキが口をひらいた。
「大丈夫かよ兄貴、あんなこと言っちゃって。しかも数秒なんてサ」
ウメコが続く。
「そうよ、そうよ。あんな風に言って、もしダメだったら、もうここ徳島には二度と帰れないわよ」
無表情なマイケルが答える。
「ぐぅーん。ぐぅーん」
なにもかもを安心させるいつものリーダースマイルでほうれいせんをくっきりさせながらケンが答えた。
「なーに。単なる景気づけサ。あいつらだって本気には思っていないよ。それよか今度の相手はなかなか手ごわそうだぞ。気を引き締めていこうぜ」
「ああ、そうだな。兄貴。わかってるさ」

そしてボスのアジトに着いた。
いままでの戦いを振り返るように、遠い目をしてケンが言う。
「ここがボスのアジトか、とうとうここまで来たんだな」
「ち、ちくちょう。あんなことさえなければ、マイケルは、マイケルは死なずに済んだのに……」
「ナオユキ!!俺達の使命はなんだ!すこしは頭を冷やせ!もうここは悪の帝国、ビッシャービシャーのアジトなんだぞ!」
「わ、わかってるさ。だけど……」
「ナオユキ!しっかりなさい!つらいのはみんな一緒なのよ」

そこへ全身銀色でところどころ電球みたいなものがついている、ウェットティッシュキャラバンと、体が緑色で棍棒を振り回すしか能のない、いかにも雑魚キャラのグズラグラというのが数体あらわれて、けっこうマジになって戦った。

雑魚キャラのグズラグラは棍棒攻撃さえ見切ってしまえば比較的サクサク倒すことができたが、ウェットティッシュの方が、向こうのカドに隠れたかと思うと、こっちのカドから出てきたり、ふわふわ浮いたかと思うと、硬い岩のようになったりといった特殊な技を持っていたため、かなり苦戦してしまった。それはもう、かなりの苦戦。その戦いのさなか、ナオユキが覚醒し、ドラゴンになり、敵味方関係なく火を噴いて手がつけられなくなるというような一面もあったが、最終的にウメコのスパイラルキックがうまくキャラバンのアゴに決まったこともあり、なんとか難を逃れることができた。そしてボスが現れた。

すごかった。それはもうすごかった。シャレになってなかった。デカかった。もうそれは。シロナガスクジラのレベルでデカかった。しかも半分溶けていた。右腕の関節から先の部分と顔の左側と足首から先がドロドロだった。ヌルヌルだったと言っても過言ではない。しかも左腕からは無数の触手が生えていた。触手はぴくぴく動いて、一定のリズムで伸びたり縮んだりしていた。最高に気持ち悪かった。呼吸するたび、「どぅわー、どぅわー」と地響きのような音を発した。怖い。これは怖い。さっきドラゴンになった反動でリス的な生き物になってしまったナオユキが言った。
「兄貴、こりゃいくらなんでも相手が悪すぎる。帰ろう、もう。帰ってプレステ2しよう。桃太郎電鉄しよう」
「ば、ばか。そ、それじゃあここまで来た意味がないじゃないか。それにこの後、どうするんだ。もう俺達は徳島には帰れないんだぞ。大好きなすだちうどんだって食べられないんだぞ」
「そうよ。2度と徳島に帰れないんだったら、二度とすだちうどんが食べられないんだったら、もう、死んだほうがましよ!」
「そうは言ってもさ、ちくしょう。なんとかしてあいつの弱点さえわかれば……あ、そうだ、もう一度ピンチになれば、俺またドラゴンになれるかもしれない。そうすれば、あいつと同じぐらいのデカさになって、やっつけることができるかもしれない」
「ピンチになればったってな……」
そのとき、あの気色わるい触手がすごい勢いで伸びて、リス的なものを串刺しにした!
「あぁー、ナオユキ!!」
「兄貴、お、おれ、ドラゴンにまた、なれるか……な」
がくっっ。
「ああああぁぁー、ナオユキ!!許さん、絶対に許さんぞー!」
しかし、別の方向から伸びできたムチのようにしなる触手に吹き飛ばされ、ケンも岩場に頭をぶつけてぐったりとなった。というか、ぐんにゃりとなった。
「ケン!ケン!今まで言えなかったけど、私、ケンのこと、ケンのこと……」
そして次の瞬間、また触手が伸びてきて、ウメコの体を縛りつけた。
「グエッヘッヘ、よく見るといい女じゃねえか、グエッヘッヘ」
「あぁ。あぁぁ」
「たっぷり楽しませてもらうぜ。グエッヘッヘ」
「ぐぅーん。ぐぅーん」
「あ、あの声は……マイケル!!」
「ねずみが一匹まぎれこんだようだな。5秒以内に消してくれるわ!」
触手が伸びる!間一髪左にかわして、必殺のマイケルパンチを繰り出した。説明しよう。マイケルパンチとは、そのままパンチだ。若干フックぎみの、まぁ要するに喧嘩パンチだ。それを繰り出した。ボスの右目にヒット!
「いたいー、いたいー、なんでおれだけー、4年3組でなんでおれだけー」
そう言うとボスは見る見るうちに溶け出し、最終的に猫ぐらいの大きさになった。
「ご勘弁をー。ご勘弁をー」
そう言いながら、岩場の陰に隠れようととした小さな生き物をマイケルは見逃さなかった。
「ぐぅーん。ぐぅーん」
一切の迷いなく、マイケルはボスを思い切り蹴飛ばした。ボスは動かなくなった。
「ありがとう、マイケル」
ウメコはマイケルを抱きしめてキスをした。するとどうだろう、マイケルの体も溶け出して、最終的にひまわりの種ぐらいの大きさになった。
「どこ?どこに行ったの?マイケル??まぁ、いいか。助かったし」
そして無事助かったウメコは自宅に帰り、すだちうどんをたらふく食べ、お気に入りの湯のみに入れたお茶をゆっくりと飲み干した。庭に咲いた紫陽花が夏の訪れをしらせていた。

それからいくつかの季節が巡り、ウメコは庭に咲いた紫陽花をみて、もうこんな季節ね。あんな風に戦っていたのが嘘のようだわ。などと言いながら、いつまでも平和に暮らしましたとさ。

ちゅんちゅん。ちゅ、ちゅん。
時は早朝。


ありがとうございます。