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誰かの彼女は誰かのセフレ

「セフレたるもの」との別れを決意して
一週間が経った。

振り返ると彼と私には袖擦り合う「だけ」の縁しかなかったのだろう。意味がなかったとは思わない。今日で最後にするが本当に好きだった。自分のプライドを捨てるくらい好きだった。

さて、不思議なことに私を好きになり、
恋人となった経営者にはかつてセフレがいた。
諸事情から私と彼は一度すれ違い、再会しており、私の気が乗らず会わなかった一回目に彼は「セフレたるもの」と高級焼肉店にいた。

「私たちの関係」を問われ
「……普通にセフレかな?」と答えたらしい。
正直に三文字にするあたり、
私の彼は良い男である。期待など匂わせない。

話によればスタイルの良くて
大変可愛らしいラウンジ嬢だったそうだ。

私は問うた
「その子は君が本気で好きだったと思う?」

「そうだね。合鍵も渡されたけど、断ったよ」
彼は答えた。

「どうして可愛いその子はセフレなの?可愛くて楽しいんでしょ?嫌味じゃなくてね。知りたいんだよ」さらに問うた。

「なんだか違うなって思ったんだ。僕は統一性のないブランドものを身につけて、部屋が汚くて、精神薬を飲んでいる女性は、違うと思う」

「でも、」私は指差した。

「私のバッグはエルメスのガーデンパーティーで、お財布はロエベ。統一性なんてないじゃない。スカートだってブランド印字はないけれど五万はするわ。それに部屋は綺麗だけどもう長いこと眠れなくて睡眠薬を飲んでいるの。少なくとも、六年は。私も彼女も同じじゃない」

「ううん」彼は黙って、考え込んだ。

「私の推察だけれど、君は、おそらくブランドらしいブランドの子が苦手なのじゃないかな。例えば、レディ・ディオールのキルティングバッグだとか…… 私の見た目は至って地味だから」

「それは、一つのポイントだね」

いいや、本当は違う。

微笑みながら私は「セフレたるもの」に思いを馳せた。セフレか彼女かなんて、なんとなく本能的に決まるものなのだ。

セオリーはあってないようなものではないか?

「セフレたるもの」により人間程度の扱いしか受けなかった私は、恋人に可愛がられ、彼を好きだったセフレの女の子は好かれなかった。

港区において繰り広げられる
複雑な構造にやりきれない気持ちになった。

就職活動で「ご縁があった」や「なかった」というのと似ている気がする。面接試験は相手が誰かによる運の要素も強いのだ。

そうして、私は痛く願った。
私を好きだと言う恋人のかつてのセフレの幸せを。スタイルが良くて、可愛らしい女の子を心から愛する人がきっといる。幸せになるべきだ。泣きたいくらい気持ちがわかるから。

どのくらい好きだったかわかりようがないが
抱きしめて「ごめんね」と言いたい。
悲しかったはずだ、苦しかったはずだ。ごめんなさい。あなたの痛みを決して無駄にはしない。

私だって一時期は「セフレたるもの」に愛されたかった。恋人から見て、話が楽しく、品があり、友達に自慢できて可愛らしいと評価される見た目は「セフレたるもの」にとっては、完全無価値だったのであろう。

セフレだって違う人からしたら立派な彼女だ。
そして、「好き」だと言われることは
シンプルにして究極的に難しい。

橙色に照らされた寝顔を眺めながらいつも考えていた。この人を幸せにできれば良いと。それは私ではなかったらしい。そしてその事実は寂しい。だけど、どうしようもなかったのだ。

私の短い人生の中で
これほど努力が砕けたのは初めてで最後だ。

世界中の悩める
「セフレたるもの」の幸せを願う。

相手が違っただけで
私も君たちも愛される価値のある人間だ。

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