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◆◆カレーの香りは時として大きな壁になる◆◆

火事の当日、1月14日の午前11時過ぎ。消火活動の終了を見届けた後、火事現場からそのまま直行した為に全員が強烈な煙の臭いを漂わせながら、たどり着いた場所。

そこは、火事の現場を目にして「オレが動くかぁ!」と言ってくださった竹沢徳剛さんがオーナーを務めていらっしゃるお洒落なラウンジ「RYOZAN PARK ラウンジ

普段はコワーキングスペースとして利用している方々もいれば、ジャンルを超えて集まった音楽家さん達が即興演奏のパーティーを開いたり語らったりと、とにかく多様な人生が交わる素敵な場所。

しかもバーカウンターまであり飲食店としての営業許可も完璧だという。加えて、巣鴨駅から歩いて2分くらいの場所にある。

完璧だ。もしもここでしばらく営業が出来て、その間に次の展開に向けての準備が出来たら、むしろ最高だ。呑気なようだけど、ほんの少しホッとした。

ムガルカフェからママチャリを漕いで一緒について来たシェフさん達やカーンくんも、ラウンジに着くやいなや、竹沢さんが鍵を開けてくださる前に窓に張り付いてキッチンを眺める。

インドのおじさん達がギュッと並んで、同じ方向を見ながらひな鳥みたいにひしめき合う様子は普段あまり見られるものではない。

中に入って設備を確認しながらいざミーティングを開始したのだけど、ここで大きな壁にぶつかってしまった。

「カレーとスパイスの香り」は、とても強いのだ。カレーという料理においては、それが最大の魅力なのだから。ゼロから調理をするとなるとその過程で空間はスパイスの香りでいっぱいになる。特にムガルカフェのスパイスは、わざわざカーンくんがインドへ行って自分の嗅覚をフルに使って買い付けてさくる最強のスパイス達。放つ香りも活きが良い。

一方でこのラウンジは、バーカウンタースペースからも全ての広い空間を見渡すことの出来る開放的な作りになっている。むしろそれがこの空間の大きな魅力なのだ。

つまり、使えない。どこもかしこもいつでもカレーのイメージが頭の片隅に浮かぶ空間になってしまう。それは.....できない。

アレレ、ダメだ。

ならばこっちの場所はどうかと連れて行っていただいた別の建物にもモダンなキッチンスペース付きの場所があって、本格インド料理を作るという目的でなければ、最高の場所だった。だけどそこのキッチンスペースはIHコンロになっていて、ムガルカフェのビリヤニを作るに当たって、火力の点や、そもそもビリヤニを作る大きな鍋はIH対応のものが無い。

思わぬ壁にぶつかってしまい、再建の場所との出会いはそう簡単にはいかないんだなという所まで頭が理解した所で、ふわっと優しい声をいただいた。

「皆さん、何か食べますか?りんごがありますけど、食べませんか?」

その場に居合わせた女性の声にハッとして時計を見ると、もう13時。そうだ。朝ごはんもそのまま放り出して来ちゃってた。

いただいたりんごをもぐもぐ、美味しい紅茶をズズ...とすすりながら、新しい場所探しも含めてこれから起きるのであろうあらゆる出来事を想像してみたり、火事の現場で見た風景や煙の臭いを思い出して身震いがしたり、火事の後からずっと届き続けるLINEやメッセージ、着信に対応が追いつかず、ぐるぐると心許なく歩き回ってみたりした。

まだまだ始まったばかりだ。

でも、目の前には一緒にいて、温かい言葉をかけてくれる仲間達がいる。こんな時でも笑う力をくれたり、そっと肩を並べてくれる存在に、どれだけ力をいただいているか。

(自転車で駆けつけてくださった中島明さんの言葉にも、沢山の愛情と具体的な道筋を描くサポートの心が溢れていて、何度も救われた)

リンゴが美味しい。温かい紅茶が美味しい。ありがたい。

日本語での会話について来れないけど、座ってりんごをかじりながら成り行きを見守っているシェフさん達に目をやると「優雅なブランチ」みたいな雰囲気を醸し出していた。ナシームさんは、日本語で書かれた新聞に目をやってみたり。

この、大変なシーンでも心が緩まる瞬間を生み出してくれるインドのおじさん達の笑顔もまた、改めて大切だと思った。
 
その後も、火事当日から今日に至るまで、ありがたいことにあらゆる方面から物件情報を頂いて、動ける限りどんどん実際の物件を見て回ってはいるけれど、コレだ!という場所にはまだ出会うことが出来ていない。

とにかく動いてみている事でムガルカフェの新たな場所として使えるようになるには、いくつかクリアしなくてはいけないポイントが見えてきた。

【短期的:今すぐ動き出すための場所として絶対に必要なこと】

●飲食店としての営業許可がある場所であること
●換気がしっかり出来ること(カレーの香り問題)
●例えばビリヤニを作る業務用の鍋だと、IHは使えず、火力のあるガスが必要(火力が足りないと味が変わってしまう) 

【長期的:お店としてその場所に絶対に必要なこと】

上のポイントももちろん押さえた上で、

●タンドール窯を置く場所は防火性の高い作りにしなくてはいけない

●シェフさん達が自宅から通える距離

もろもろ。

目の前にある壁の方が大きく見えてしまって、考え始めると思考速度が遅くなる、これは恐らくキャパオーバーなんだな。もともと、そんなに容量の大きいタイプじゃないんだよな、私の単純な脳みそは....なんて事も頭をよぎりはじめた1月14日の午後、想像していなかった角度から強力な仲間達(仲間と呼ばせて頂くのには恐縮すぎるのですが)がそれぞれ連絡をくれて、「ムガルカフェ援護チーム」として集結し、その日の夜に緊急ミーティングが開かれる事になった。

火事の当日の夜。

遠くは茨城県、近くは巣鴨から駆けつけてくれた最強の援護チームの仲間たちが集結した場所は、真っ黒ツヤツヤでキラキラしたシャンデリアがぶら下がった、普段からやたらと巨大な葉巻を吸うオジサンがいそうな想像をしてしまうような空間だった。

なんて、場所から想像する勝手なストーリーはさておき、最強の援護チームによってすぐに動き出したプロジェクトとは。

続きます。

ちなみに、火事の直後に向かったラウンジで、みんなが日本語で真剣にミーティングしている最中に、背後に座っていたナシームさんもここに残しておこうと思う。特に意味は無いけれど....「マハラジャかっ」と心の中で2,3回突っ込んでおいた。

....余談が多い。続きます。

(ムガルカフェの奥さん、カーン江夏未花


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ムガルカフェのカーンファミリー

最高に美味しいビリヤニと温かい笑顔が集まるムガルカフェをもう一度作ります。応援よろしくお願いいたします!

ありがとうございます!「スキ」パワーいただきました!
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東京都豊島区駒込の地域密着型のインド料理屋「ムガルカフェ」のオーナーです。2020年1月14日に発生した火災によりお店の営業ができなくなりました。名物のビリヤニをまた提供していけるまでの復興の過程をここに記録していきたいと思います。