見出し画像

仮面ライダーの新シリーズが始まる

 日曜日の朝、何気なくテレビをつけると、新番組が始まっていた。「仮面ライダーヴァーチャ」というタイトルだった。
「えーと、この間まではたしか『セイバー』とかいうんじゃなかったっけ?」首を傾げながらも、つい観てしまう。

 今回のライダーはインターネットの世界が舞台だった。
 生身の姿の時には、おでこにコネクタが付いていて、USB端子をざくっと差し込み、「転送っ!」と叫ぶ。
 すると、彼の分身「ヴァーチャ」がサーバーへとアップロードされるのだ。
「ふーん、こんどはアバターか。よくまあ、次から次へと思いつくもんだ」半ば呆れながらも感心する。

 ヴァーチャの敵は、どこかの大手IT企業らしい。コンピューター・ウィルスを送り込んで、世界を征服しようとしている。
 ウィルスはせっせと個人情報を盗んでは、本社に送る。盗むだけでは足りず、入り込んだコンピューターの中身をしっちゃかめっちゃかにしてから去るので、なお悪質だ。
 撮り溜めていた旅先の写真をエッチなものと取り替えてみたり、メールアドレスを勝手に使って、「いつも思っていたけど、お前はほんと、嫌な奴。ドケチだし、大きな音を立ててラーメンをすするし、もう、最悪!」などと、あることないこと書いては送信する。

 そこへ、我らがヴァーチャがさっそうと登場するのだ。
「それ以上の勝手は許さんぞっ!」
「現れたな、ヴァーチャ。いつもいつも邪魔ばかりしおって」ウィルス怪人がのたまう。
「加速モードっ!」ヴァーチャがコマンド宣言をすると、メイン・フレームのクロック周波数を超えて、オーバー・ドライブ・モードとなる。
 目にも止まらないスピードで移動し、攻撃を繰り出すヴァーチャ。
「おのれっ、ヴァーチャ!」怪人も持てる限りの力を振り絞って反撃を試みるが、相手は同期信号を無視して飛び回っている。そんな反則的な能力に敵うはずがない。
 とどめとばかり、必殺技を披露する。「ウィルス・バスターっ!」
 ウィルス怪人の体からリソースが奪われ、メモリ空間に存在することができなくなり、あえなく散ってゆく。
 こうして、今日もインターネットの平和は守られた。

「こうなると、なんでもありだなぁ。そもそも、仮面でもなければライダーですらないじゃん。そのうち、仮想現実でさえない、幽霊ライダーなんて登場したりして」
 未練を残したまま死んでいった主人公が、地獄から蘇る。幽霊や妖怪を相手に、霊界の平和のため、果てしない戦いが始まる……。
 そんな展開を想像して、力の抜けた笑いが込み上げてきた。
「それにしても、額にUSBって」普通は、ドラマならではのオリジナルにするものだろうに。せめて、もっと格好いい端子にして欲しかった。
 自分のおでこに手をやって、あれっ? と声が出る。まさかっ。
 鏡を覗くと、仮面ライダーヴァーチャのように、四角い穴が開いている。これって、USB?!

 しばらく悩んだ末、パソコンからケーブルを取って接続してみた。
「て……転送っ」ぼそっとつぶやく。
 あっという間にパソコンの中へと取り込まれてしまった。
「へー、ここが自分のパソコンかぁ」
 「今日の予定」だとか「あとで整理する画像」など、どこもかしこも散らかり放題、まったくだらしのない空間だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?