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浜辺でお宝探し

「早朝の浜辺に行かね?」いきなりやって来て、そんなことを言う。まあ、桑田孝夫らしいけれど。
「そんなに早く行っても、水が冷たいだけだよ。人は少なくていいだろうけど」わたしは言った。
「そうじゃねえよ、泳ぎに行くんじゃねえんだって」と桑田。「砂浜ってのはな、昼間の客が落としていった硬貨やら貴金属なんかが、けっこう落ちてるんだ。そういうのを拾いに行こうっていってんの」
「落ちてる物は届けなくっちゃね」
「ばかっ、ボランティアじゃねえ。小遣い稼ぎだ」口を尖らせてムキになる。
「そういうの、良くないんじゃないかなぁ……」わたしは渋った。
「いつだったか、金の延べ棒が見つかったことがあってな。落とし主が現れなかったんで、時価4千万円がそっくり、自分のものになった、てなニュースを見たな」 
「へー。あのう、ちょっと行ってみようか、浜辺。ほら、ガラスの破片とか、そういうの落ちてたら危ないから、片づけついでに」どうせ、暇をもてあましていたところである。それに、海岸のゴミ拾いがてら、もしかしたら4千万円が手に入るかもしれない。

 浜辺に来てみると、すでに桑田は何やら棒のようなもので砂の上を探っていた。
「掃き掃除でもしてるの?」わたしが聞くと、
「ばかっ、これは金属探知機だ」と答える。
「今日で2回目だよ、『ばか』っていうの」ばかといわれていい気分はしない。
「いいから、お前もこれで砂浜を探せ」桑田は、もう1本の金属探知機をわたしに渡す。
「どうやって使うの、これ?」
「ほら、そこのスイッチを入れて、棒の先の円盤で地面の少し上を浮かせながら――」
「こう?」辺りを、掃除機でもかけるように滑らせてみる。とたんに、ビーッと音が鳴り響いた。
「おっ、さっそく見つけたな。いま鳴ったところを掘って見ろよ」
 言われた通り砂を掘り返すと、10円玉が出てきた。「すごーいっ。こんな小さな物まで見つけちゃうんだ」
「なっ、面白えだろ」桑田はニカッと笑った。

 小一時間ばかり探し回り、桑田とわたしとで、合わせて1,800円ほど集まった。10円がほとんどで、50円玉、100円玉の順に枚数が多い。
「時給900円といったところか」桑田は額の汗を拭った。
「悪くはないと思うけどね」とわたし。とはいうものの、反応のほとんどは空き缶かビールの王冠だったりする。期待をした分、精神的な疲労は大きい。
「ここいらでドカーンと一発、すげえもんが出ねえかなあ」桑田はぼやくが、それを虫のいい話と笑う気にはなれなかった。4千万円の金塊とはいわないまでも、せめて金貨の1枚でも見つからないかなぁ、と思っている。

 桑田の金属探知機が、ビビーッと鋭く音を立てた。
「むっ、こりゃでかいぞっ!」桑田は探知機を放り捨て、両手で浜をざくざくと掘り始める。「うわっ、なんだこりゃ。金歯付きの入れ歯じゃねえかっ」
 どこかのおじいさんかおばあさんが、砂浜に忘れていってそのままになったのだろう。
 ビビッ! ビービーッ!
 わたしの金属探知機も激しく反応した。手許のメーターは、すでに振り切れてしまっている。
「桑田、ちょっと来てっ。なんだかすごいんだ」
「おうっ」入れ歯片手に、桑田が走ってきた。
 いったい、何が埋まっているというのだろう。

「この辺り。もしかしたら、金の延べ棒だったりして」あんまりドキドキしすぎて、目眩がしそうだった。 
「よし、一緒に掘るぞっ」
 桑田とわたしは向かい合ってしゃがみ、慎重に掘り進める。
 30センチほど掘ったところで、「宝物」が現れた。
「金……だね」わたしは言う。
「ああ、間違いない。確かに金……だ」桑田がうなずく。
 銀なら5枚、金なら1枚の、あのくちばしだった。

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