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銃器類始めました

「ちょっと、コンビニ寄っていかねえ?」友人の桑田が言った。
「うん、いいね。小腹が空いてたんだ」とわたし。
 店の入り口には新しいのぼりが立てかけられていた。

〈銃器類始めました〉

「ねえ、桑田。銃器類を始めたってさ」
「おうっ、見ていくか。よさげなのがあれば、1丁、買ってもいいなっ」
 昨日まで弁当を並べてあった棚に、様々な銃が陳列されていた。どれもパックに入っていて、値札とともに使用期限の印刷されたラベルが貼られている。

「これなんかどう?」わたしは、「ワサビーP38」という拳銃を手に取ってみた。「人に向けて撃たないでください」と小さく注意書きがある。
「どれ……」桑田は「ワサビーP38」に顔を近づけ、ふむふむと吟味しだした。「安曇野に大王わさび農園っつうのがあってな、そこのわさび丼がうまいんだ」
「え?」それとこれと、いったいどんな関係があるというのだろう。

「おれとしちゃあ、こっちの方がお勧めだがな」桑田が指差したのは「デザートベーグル」だった。見るからにずっしりとした作りである。
「カリカリに乾いたパンみたいだね」わたしがそう言うと、ちょっと小ばかにするように鼻を鳴らした。
「こいつの威力はたいしたもんなんだぞ。ガス圧作動で、100メートル先までクリーム・チーズを飛ばすことができるんだ」
「す、すごいんだ……」驚くべき性能だった。

 ほかにも「激辛マヨネーズ22口径」という、たいそうコンパクトな銃があった。あんまり小さいので、まるでオモチャにしか見えない。
「これは護身用にもならないよね」わたしは「激辛マヨネーズ22口径」を、パックに入ったまま桑田に向けて撃つ真似をしてみせた。
「ば、ばかっ、やめろっ!」顔をかばうように両手をこちらに向け、大げに怯えてみせる。「それは、最強の拳銃なんだぞっ!」 
 まじまじと「激辛マヨネーズ22口径」を見つめた。こんなちゃちな物が? 税込みで498円。
「モンハナシャコっているだろ? あいつのシャコパンチに匹敵する破壊力なんだぜ」
「えっ、そうなの?」わたしは怖くなって、「激辛マヨネーズ22口径」を棚に戻した。「でもさ、この銃には弾を込めるところが見当たらないんだけど」
「弾? なんのことだ。これはそんなもん必要ないぞ」妙なことを言う奴だ、桑田の顔は明らかにそう語っていた。

「だって、シャコパンチ並の弾が飛び出るんでしょ? だから危ないんじゃないの」
「いやいやいや。使うのはマヨネーズだ。アクション映画とか、ほんとに見ないのな、お前って。ほれ、あっちの棚で売られてるだろ、キューピーの。あれをマガジンに装填して撃つんだ」
 わたしは口をぽかんと開けた。マヨネーズがそんなに危険な物だったとは。

 わたしが信じていないとでも思ったのか、桑田は「じゃあ、見せてやるよ」と言って、「激辛マヨネーズ22口径」をレジに持っていった。もちろん、キューピー・マヨネーズも忘れず。

 さっそく、近所の空き地で試し撃ちをしてみることに。
 桑田は真空パックから銃を取り出し、マヨネーズの容器をマガジンに取り付けた。わたしにはそれが、エアースプレーガンとタンクのように思えてならなかった。
「いいか、見てろよ」桑田は土管の上に置かれたコーラの空き缶に向かって、狙いを定める。
 タンッ! と乾いた音がして、銃口からマヨネーズがビュッと飛び出した。空き缶はたちまちマヨネーズだらけになる。
 
「あれだけ? ねえ、あれでおしまいなの? マヨネーズが勢いよく発射されただけじゃん」わたしは拍子抜けしてしまった。
 けれど桑田は落ち着いたものである。
「缶をよく見ろ」
 わたしは缶のところまで行って、べっとりと付いたマヨネーズをティッシュで拭う。元はコーラだったのが、「マヨネーズ飲料」に変わっていた。
 
「なんて怖ろしい。もしもこの銃が悪意のあるマヨラーの手に渡りでもしたら……」
 思わず、ぶるっと身震いが走る。
 

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