真夜中のアーケード
真夜中のアーケード街は、降りたシャッターがどこまでも続く。人ひとり見当たらず、ひっそりと静まりかえっていた。
ラーメン屋の前には貼り紙がしてある。
〔過激派が立てこもり、今日に至る〕
すると、まだ事件は解決していないのだろうか。店の2階は暗く、今頃は犯人達が寝息を立てているのかもしれない。
八百屋の軒下に、カボチャがぽつんと置かれていた。店を閉めるときにしまい忘れたらしい。
ぽーんと蹴ったらさぞかし愉快だろう、そう思った。けれど、閉め出され、忘れられてしまったカボチャにはなんの罪もない。
わたしはカボチャを拾いあげ、八百屋のポストに無理やりねじ込んでおいた。
オモチャ屋は、シャッターいっぱいに絵が描かれている。店が終わったあとでも演出を忘れないあたり、さすがは夢を売る商売だなあと感心した。
青や赤を基調に、どこかで見たようなキャラクターや、あからさまに模倣された登場人物たちが縦横無尽に跳ね回っている。
なかでも目に付くのが、中央で取っ組み合いをする2体のロボットだった。片方は首がもげかかっていて、どう見ても形勢が不利である。
閉まったシャッターが並ぶなか、一箇所だけ、岩をくり抜いた竪穴式住居があった。奥からはこんもりと明かりが漏れている。
なんの店だろうとのぞいてみると、階段が地下へと続いていた。中華料理のいい匂いが漂ってくる。
「そういえばお腹が空いたな……」わたしはお腹をさすりながら、降りていった。
「あ~ら、いらっしゃい」鼻の下やあごに青いひげ剃り跡を残したママが、人懐こく声を掛けてくる。
オカマ・バーだった。
「何か食べるものあります?」わたしは尋ねた。
「もっちろんよ~。はい、メニュー。ここから好きなものを頼んでちょうだい」
メニューを受け取り、どれにしようかとページをめくっていく。
「下水で獲れたミミズ炒め」という料理の写真は、チンジャオロースーそっくりで、見るからにおいしそうだった。ただ、「下水で獲れた」という語句が気になって躊躇する。
ほかに「ドブネズミのごま和え」、「ワニガメのスープ」、「謎のほ乳類の蒸し焼き」など、写真はともかく、名前からどうしても先入観を持ってしまう。
最後のほうのページに、店のお勧めが載っていた。魚介をふんだんに使ったペスカトーレだ。
「あ、このパスタがおいしそう。これにしよう」わたしは注文する。
「わかったわ、ちょっとだけ時間がかかるけど、待っていてちょうだいね~」ママは厨房へ入った。
なんていう料理だったかな。もう1度よく見てみる。
「ヘドロ底ムール貝と腐海のディスカスを使ったゴルゴンゾーラのパスタ」
それが料理の名前だった。
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