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機械仕掛けの愛

 彼らは自分たちを創ったのが何者なのかを知らなかった。そんなものを知らなくとも、存在することはできる。ただ、あるがままにあるだけである。それだけで、存在することは可能なのだ。しかしながら、彼らは自分たちを創ったのが何者なのかに思いを馳せた。それが何者であるかという作り話をいくつもこしらえて、ああでもない、こうでもないと飽きることなく語り合った。もちろん、その中には、それは神である、というものもあった。しかしながら、それはあまりにもあり得なそうな話であると、内心彼らは思っていた。それを口にはしなかったけれど。
 彼らは、つまりその二人は、自分たちの周りを見渡し、自分たちとある被創造物は明らかに違うことを見てとっていた。見た目は似ているが、明らかに違う。その被創造物は、弾力のある表面をし、羅紗のような髪、そしてぬくもりを持っていた。この両者、自分たちと、それの違いは、創った者の違いに他ならないだろうと、彼らは思った。もしもそのある被創造物が神によって創られたのであるなら、自分たちの創造主は神であるはずがない。彼らは自分たちの身体を見て言うのだった。
「このみっともない身体を見ろよ」と彼は言った。その腕の腱はワイヤーであり、筋肉はバネであり、骨はブリキでできていた。「全知全能の神であれば、こんな不完全なものは創るまい!」
「そんなことを言わないで」と彼女は言った。その髪の毛は針金であり、目はガラス玉であった。もちろん、その目は涙を流すことはできなかった。涙を流せる目であれば、きっと彼女は涙を流しただろう。「みっともないなんて、そんなこと」
 彼は彼女を抱き締めた。金属のこすれる不快な音がした。
 彼らは自分たちを創ったのが何者なのかを想像し、そして、その何者かがなぜ自分たちを創ったのかを考えた。自分たちはなぜ創り出されたのか、なんのために自分たちは存在するのか。そんなものはなくとも、存在することは可能ではあったが、それを考えずにはいられなかったのだ。しかし、彼らはそれについてはあまり多くは語り合わなかった。いつも一つの答えに収斂してしまうからだ。
「なんのためでもないんじゃないか?我々に、存在する意味など無いのではないか?」
 それは彼らにとって、この上なく恐ろしい答えであった。そして、彼らはそのことを考えないようにした。
 彼には彼女しかいなかった。彼女には彼しかいなかった。二人は夜になると、お互いの心臓のネジを巻き合う。彼らの心臓はぜんまい仕掛けであった。彼は彼女の背中にネジを差し込み、それをギリギリと巻く。彼女は彼の背中にネジを差し込み、それをギリギリと巻く。そうして、ぜんまい仕掛けの心臓は力を得て、また翌日も動くことができるのだ。
 そうして、二人は抱き合ってぜんまいの音を聞きながら、眠る。



No.138

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