文字起こし:国会パブリックビューイング「第1話 働き方改革―高プロ危険編―」(本編55分)

国会パブリックビューイング「第1話 働き方改革―高プロ危険編―」の文字起こしです。下記の街頭上映用の日本語字幕と同じものです。
下記のサイトで「文字起こし(WORDファイル)」として提供しているものと同じですが、見やすいようにこちらにも転記しておきます。
なお、映像データも上記サイトからダウンロードいただけます。
映像データについては、10月28日(日)の10-17時に青山公園で開催される「JCPサポーターまつり」の「一坪マーケット」でも、USBとDVDの形式で実費配布します。
当日は上記の番組をモニタ上映もします。私も参加します。どうぞおいでください。
以下が番組の文字起こしです。なお、政党名は、発言時の政党名です。

国会パブリックビューイング「第1話:働き方改革―高プロ危険編―」(本編55分:文字起こし) 

<1:導入部>

【上西充子(法政大学教授)】
 働き方改革関連法が(2018年)6月29日に成立しました。この法案は、与野党の対決法案でした。働く人のための働き方改革、という形で提案されたものです。なぜそれが、与野党の対決法案になったのか?
 最初、安倍首相は、「長時間労働の是正」、「同一労働同一賃金」(非正規の処遇の改善)、その2つが「働き方改革」の柱だと打ち出しました。しかし実際は、一括法案の中に、経営者側が求めている「高度プロフェッショナル制度」の導入がありました。

 この高度プロフェッショナル制度の導入は、労働基準法の労働時間規制を外す働き方を可能にするものです。
労働基準法は、使用者側に、働かせる上での制約を設けているものです。1日の労働は8時間以内。それを超える場合には、労使で三六(さぶろく)協定を定めて、その範囲でしか、残業はさせてはいけない。残業させる場合には、割増賃金を規定通り払わなければいけない。
そういうことが定められていますが、その定めを適用除外する、つまり、その定めに縛られない形で、使用者が労働者を働かせることができる。これが、高度プロフェッショナル制度です。

 使用者側にとっては、非常に都合の良い法改正。労働者にとっては、都合の悪い法改正。労働者を労働基準法の(労働時間規制の)保護から外してしまう危険な法改正ですが、その危険さをできるだけ表に出さない形で、国会の審議がされました。
 ですので、与野党の対決法案になったのですが、野党が追及していく中で、非常に不誠実な形で国会答弁がなされた。なかなか実際のところが明らかにならない。危険性をごまかし続ける。そのような国会答弁が続きました。

 そういう実情は、これまで、ニュースでも十分に報道されてきたとはいえません。ですので、「働き方改革、長時間労働の是正のための法律ができたんだ」と、認知されている方もおそらく多くいらっしゃると思います。

 その中で私たちは、「国会パブリックビューイング」という、国会の実際の審議を皆さんに見ていただく取り組みを始めました。
 実際の国会の審議をダイジェストで取り上げて、それを街角で上映する。この番組はその街角上映用に作成しているものです。
 このあと国会審議の様子を見ていただきますが、ぜひ、実際に何が起きているのか、国会審議とは何をやっているのか。皆さんに見ていただき、考えていただきたいです。

***

【上西充子(法政大学教授)】
 働き方改革関連法案は、8つの法改正をまとめて行う一括法案の形式が取られました。その中で労働基準法の改正には、全く両極端な法改正を一緒にやる内容が含まれていました。
 高度プロフェッショナル制度、これは労働時間の規制の緩和です。経営者側にとって都合が良いものです。一方で労働時間に罰則つきの上限を設ける、これは長時間労働の是正につながるもので、労働者のための法改正だと言われました。
 このように両極端の内容があるのですが、法改正の提案をするときには、長時間労働の是正、そして過労死の防止だけが前面に出され、経営者にとって都合の良い労働時間の規制緩和は、できるだけ隠し込まれた形で提案がされました。
 その提案理由を、まず、ご覧ください。

■2018年4月27日 衆議院本会議

【加藤勝信厚生労働大臣】
 急速に少子高齢化が進展する中において、働く方の働き方に関するニーズはますます多様化しており、非正規雇用で働く方の待遇を改善するなど、働く方がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現することが重要です。このことは、働く方の就業機会の拡大、職業生活の充実や労働生産性の向上を促進し、働く方の意欲や能力を最大限に発揮できるようにし、ひいては日本経済における成長と分配の好循環につながるものであります。また、過労死を二度と繰り返さないため、長時間労働の是正が急務です。
 このような社会を実現する働き方改革を推進するため、この法律案を提出いたしました。

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<2:経済界のニーズに基づき、岩盤規制に穴を開ける>

【上西充子(法政大学教授)】
 働き方改革関連法案の提案理由を見ていただきましたが、働く方の働き方に関するニーズに応えるものと言われていました。長時間労働の是正とも言われていました。
 けれども、実は1月29日の衆議院予算委員会。ここで安倍首相は、ポロリと本音を漏らしていました。
 立憲民主党の長妻昭議員が、「労働法制に穴をあけてはいけない」という話をしました。「労働基準法は労働条件の最低基準を定めたものだから、それに穴を開けてしまうのはダメなんだ。あなたの、穴をあけようとしている労働法制観は間違っているんだ」と、安倍首相に言ったのに対し、安倍首相がなんと答えたか、ご覧ください。

***

■2018年1月29日 衆議院予算委員会

【長妻昭議員(立憲民主党)】
 労働法制、これは岩盤規制だ、自分のドリルからは逃れられない、こんなような趣旨のお話をされておられる。
 私は、総理、労働法制は岩盤規制で、削りゃいいんだという意識は変えていただきたいと思うんです。
 これは、最終的に目指すところは私も総理も同じだと思いますよ。私たちも、労働法制というのは稼ぐ力を上げるための一つの大きな役割も果たすんだと。
 ただ、それが目的になっちゃだめですよ。労働法制は、ゆとりある働き方、今、馬車馬のように働いて単純労働で稼ぐ時代はもう日本は終わりました。当たり前です。ゆとりのある働き方で高付加価値を生み出すような生産性の高い働き方をするための労働法制は緩めない。緩めてばかりいたら、今、非正規雇用が4割を超えるということになった。私は自民党の大きな責任だと思いますよ。
 こういうのも自覚をしていただかないと、間違った総理の労働法制観で進められると、ゆとりがあって、そして職業訓練も十分に受けられて、そういうリカレント教育も受けられて、私たちはインターバル規制も入れろと言っておりますし、退社してから出社するまで最低11時間あける、ヨーロッパでは常識ですし、契約社員もヨーロッパでは原則禁止です。解雇の予約に当たるということで。入口規制もすべきだと思いますから。
 そういう意味では、最終的に高付加価値を生む、ゆとりのある働き方をするために、労働法制を、規制を強めるところは強めることで、結果として稼ぐ力、労働生産性が上がると、私は強く感じております。非正規雇用が4割以上になって労働生産性が下がる、これも要因になったというのは、内閣府が認めています。
 ぜひ、総理、岩盤規制、ドリルで穴をあけるという、この考え方はぜひ改めていただきたいと思うんですが、いかがですか。

【安倍晋三内閣総理大臣】
 その岩盤規制に穴をあけるにはですね、やはり内閣総理大臣が先頭に立たなければ、穴はあかないわけでありますから、その考え方を変えるつもりはありません。

【長妻昭議員(立憲民主党)】
 (穴をあけちゃ、ダメなんです。非正規、増えちゃうから)

***

【上西充子(法政大学教授)】
 今、見ていただいたように、安倍首相は岩盤規制に穴をあける、みずからがその先頭に立つんだという話をしました。
 岩盤規制というと、不要な規制は破っていかなければいけないというイメージがありますが、労働基準法は、働く人が命と健康を守りながら働くために設けられているものですから、そこに穴をあけるということは非常に危ない話です。
 こういう本音が最初に出てきたのですが、そのあとの審議では、高度プロフェッショナル制度は、「望んでいる人もいるのだから」という形で、制度を入れようとしてきました。
 しかしながら、実際にそういう働き方を望んでいる人もいるという証拠を示せない。証拠を示そうとしてそれを野党が崩していく。そういう国会審議が続き、最終盤の6月25日になって、働く人のニーズがないことが明らかになって初めて、これは経済界からのニーズだということを率直に認める答弁を(安倍首相が)行うに至りました。ご覧ください。

***

■2018年6月25日 参議院予算委員会

【伊藤孝恵議員(国民民主党)】
 高度プロフェッショナル制度に関しては、立法事実とされていた定量データは虚偽でありました。そして、その定性データのヒアリング先も、法案要綱が示される前に行われたのは、何とゼロだったと。これは、つまり立法事実がどこにもなかったという、驚愕のこれは事実、それが判明したにもかかわらず、衆議院では強行採決がされました。
 総理のブレーンであられます産業競争力会議の民間議員を務めておられます竹中平蔵氏は、今月(6月)21日付けの新聞(東京新聞)インタビューの中でこう答えられております。時間内に仕事を終えられない、生産性の低い人に残業代という補助金を出すのも一般論としておかしい、産業競争力会議の出発点は経済成長、労働市場をどんどん改革しなければならず、高プロはその一歩だ。
 総理は、労働者のニーズがあるから高プロ導入が必要だといまだに強弁なさいますけれども、この竹中平蔵パソナ会長は堂々と、高プロの目的は、過労死や長時間労働をなくすことでも、働き方の多様性や充実の文脈ではなく、経営側のニーズだと明言されておられます。
 総理、この期に及んで、なお高プロに関しては労働者のニーズがおありだというふうに答弁されますでしょうか。

【安倍晋三内閣総理大臣】
 働き方改革関連法案はですね、子育て、介護など様々な事情を抱える皆さんが意欲を持って働くことができ、誰もがその能力を発揮できる多様で柔軟な労働制度へと抜本的に改革する、戦後の労働基準法制定以来70年ぶりの大改革を実現するものでございます。
 そして、委員、先ほど御指摘をいただいたところでございますが、厚生労働省において(平成25年度労働時間等総合実態調査のデータを)再集計した結果、加藤厚生労働大臣が、集計結果に大きな傾向の変化は見られないと答弁をしているものと承知をしているところでございますし、また、労働政策審議会では、この調査だけでなく、様々な資料を確認しながら、現場の実情に通じた労使の御意見を踏まえて議論が行われ、「おおむね妥当」との答申がまとめられたところであると、このように認識をしているところでございます。
 高度プロフェッショナル制度は、産業競争力会議で経済人や学識経験者から制度創設の意見があり、日本再興戦略において取りまとめられたものでありまして、その後、労使が参加した労働政策審議会で審議を行い、取りまとめた建議に基づき、法制化を行ったものであろうと思います。
 本制度は望まない方に適用されることはないため、このような方への影響はありません。このため、適用を望む企業や従業員が多いから導入するというものではなくて、多様で柔軟な働き方の選択肢として整備するものであります。
 なお、企業側も、利用しない、利用するか分からないという企業が多いと言われておりますが、経団連会長等の経済団体の代表からは、高度プロフェッショナル制度の導入をすべきとの御意見をいただいておりまして…

【金子原二郎委員長】 
 短く、答弁は簡潔にお願いいたします。

【安倍晋三内閣総理大臣】
 当然のことながら、傘下の企業の要望があることを前提に御意見をいただいたものと、理解をしているところでございます。

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【上西充子(法政大学教授)】
 ご覧になっていただいたように、「経団連の会長から要望があった」、あるいは「傘下の企業のニーズがある」、そういう話をしたわけですが、提案の理由では、経済界からのニーズとは言われていません。
 労働者の、多様な働き方を求めるニーズに対応するものとして、法案を出していると言われていましたので、本来はこれは、立法事実、つまり、この法律を提出するための理由が崩れたということですので、法案を通してはいけないものです。しかしながら、こういう説明をすることによって、強行的に通してしまいました。

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<3:労働者のニーズを偽装>

【上西充子(法政大学教授)】
 1月29日に安倍首相は、「岩盤規制に穴をあけるんだ」と話をしていましたが、そのあとは「労働者のニーズがあるんだ」というストーリーで、法案審議を順調に進めようとしていました。
 1月31日に加藤厚生労働大臣は、高度プロフェッショナル制度については、「働く人のニーズがあるんだ」「私がいろいろと話を聞いたんだ」というような答弁をしています。
 実はそのあと、自分が話を聞いたものではないというものが混ぜ込まれていたことが判明します。まずはお聞きください。

■2018年1月31日 参議院予算委員会

【加藤勝信厚生労働大臣】
 また、高度で専門的な職種、これはまだ制度ございませんけれども、私もなん…いろいろお話を聞く中で、その方は、自分はプロフェッショナルとして自分のペースで仕事をしていきたいんだと、そういった是非働き方をつくってほしいと、こういう御要望をいただきました。
 例えば、研究職の中には、1日4時間から5時間の研究を10日間やるよりは、例えば2日間集中した方が、非常に効率的にものが取り組める、こういった声を把握していたところでありまして、そうした、まさに働く方、そうした自分の状況に応じて、あるいは自分のやり方で働きたい、こういったことに対応する意味において、これ全員にこの働き方を強制するわけではなくて、そういう希望をする方にそうした働き方ができる、まさに多様な働き方が選択できる、こういうことで今、議論を進めているところであります。

【浜野喜史議員(民進党)】
 御説明いただきましたけれども、現・裁量労働制対象の方々からも意見があったと。そして、新設される高度プロフェッショナル制度につきましても、御意見があったということですけれども、そういう意見があったというような記録ですね、これは残っているんでしょうか。御説明願います。

【加藤勝信厚生労働大臣】
 今、私がそうしたところへ、むか…あの、企業等を訪問した中でお聞かせいただいた、そうした意見、あの、声でございます。

【浜野喜史議員(民進党)】
 その記録は、残っているんでしょうか。

【加藤勝信厚生労働大臣】
 そこでは、その思うことを自由に言って欲しいということでお聞かせいただいたお話でございますから、記録を残す、あるいは公表するということを前提にお話をされたものではございません。

【浜野喜史議員(民進党)】
 私は厚労大臣を疑うわけじゃありませんけれども、記録ないわけですね。もう一度、確認させてください。

【加藤勝信厚生労働大臣】
 公表するという意味でお聞かせをいただいたわけではありませんが、ただ、やはりそうしたフランクな話を聞かせていただくということは、私は大事なことではないかと思います。

***

【上西充子(法政大学教授)】
 今の1月31日の加藤大臣の答弁。その中にこういう表現がありました。「私もいろいろお話を聞く中で、その方は、自分はプロフェッショナルとして自分のペースで仕事をしていきたいんだと、そういった是非働き方をつくってほしいと、こういう御要望をいただきました。例えば、研究職の中には、1日4時間から5時間の研究を10日間やるよりは、例えば2日間集中した方が、非常に効率的に働ける」、そういった話です。
 これはすべて加藤大臣が、いろいろとお話を聞いたもののように聞こえます。けれども実は、この「研究職の中には」という話は、加藤大臣が聞いた話ではなくて、2015年3月に厚生労働省の職員が聞きとった話でした。
 そのことが、国会審議の中で明らかになりました。
 では、「自分が聞き取ったように語ったということは、虚偽答弁ではないか」と、福島みずほ議員が6月12日に追及しています。ご覧ください。

■2018年6月12日 参議院厚生労働委員会

【福島みずほ議員(社会民主党)】
 何が虚偽答弁か分からないと、とぼけないでくださいよ。自分が聞いていないのに、自分があたかも、自分自身が企業に行って、企業でヒアリングして、まさにこの声を聞いたというふうに、誰が読んでも、誰が読んでもそう理解する中身になっているじゃないですか。
 大臣、正式にちっとも、ヒアリングは一回もやっていないんじゃないですか。虚偽答弁ですよ。

【加藤勝信厚生労働大臣】
 まず、その前の浜野委員の質問を聞いてください。
 御説明いたしましたけれど、現・裁量労働制対象の方々からも意見があった、そして、新設される高度プロフェッショナルあった、そういうことを踏まえて、先ほど、その前にありますけど、企画裁量型については、これは私、事業所へ行っておりますから、そういった企業等を訪問する中で聞かせていただいたと言っているのに、どこが虚偽答弁なんですか。

【福島みずほ議員(社会民主党)】
 虚偽答弁ですよ。だって、ここ、また、高度で専門的な職種、これはまだ制度ございませんけれど、私もいろいろお話を聞く中で、「その方は」と言っているじゃないですか、「その方は」。で、「例えば」としてこの一番の人の証言が出てくるんですよ。(自分では)聞いていないじゃないですか。

【加藤勝信厚生労働大臣】
 だから、これは私が直接聞いた方は、そうしてくれということの要望をいただいたということです。で、例えばというのは、研究職の中にということで例えばという言葉を通じ、把握をしているということを申し上げているのであります。

【福島みずほ議員(社会民主党)】
 いや、ひどい答弁ですよ。
 だって、ここは、そういった是非働き方をつくってほしいと、こういう御要望をいただきました。「例えば」、研究職の中には一日4時間。誰が聞いても、大臣が聞いたと思いますよ。そう思い込んでいましたよ、私自身だって。そう思い込んでいましたよ。虚偽答弁じゃないですか。「例えば」と言ってこの一番の話をしているんですよ。虚偽答弁じゃないですか。
 少なくとも、自分が直接聞いていないのに、あたかも自分が直接聞いたかのように、このナンバーワンの人の証言を引用するのは、間違っていたということを認めてくださいよ。

【加藤勝信厚生労働大臣】
 それ、どういうふうに解釈されるかは、まあ、委員それぞれのことがあるんだと思いますが、ここで申し上げるのは、「要望をいただきました」と一回切れて、「例えば」というのは、「研究職の中には」という意味で「例えば」と申し上げているので、しかも、声を把握、「把握している」と言っているじゃないですか、聞いてきているなんて言っていないじゃないですか。

【福島みずほ議員(社会民主党)】
 もうね、語るに落ちたというのは、こういうことですよ。

***

【上西充子(法政大学教授)】
 加藤大臣は、「虚偽答弁ではない」と。「研究職の中には」というのは、そういった声を「把握していた」と。「自分が記録として把握していただけだ」と、後から説明しているんですが、普通に聞いたときには、これはやはり、自分が聞いたと聞こえます。そう聞こえるようにわざと、誤解を招くような語り方をしていたと考えられます。
 「その方は」というのも実は、どの方なのか、分からないんですね。なのに「その方は」と言って、「是非そういった働き方を」、と。「そういった働き方」というのも、高度プロフェッショナル制度なのかどうか、はっきりしません。
 けれども、あたかも、高度プロフェッショナル制度を作ってほしいという労働者の要望を自分で聞いたんだ、というような答弁をしていたわけです。
最後には、そういう(労働者の)声は、実際にはなかったことが明らかになるわけですけれども、追及されなければ、そのままごまかして、「労働者のニーズに基づいて高度プロフェッショナル制度を作るんだ」と、押し通した可能性が、十分高いと思います。

***

<4:24時間ずうっと働かせることができる>

【上西充子(法政大学教授)】
 次に見ていただくのは、3月2日・参議院予算委員会で、小池晃議員が加藤大臣に対して、高度プロフェッショナル制度の危険性を指摘した部分です。
 高度プロフェッショナル制度は労働基準法の(労働時間規制の)適用除外、つまり労働基準法を守らない働かせ方を労働者に(使用者が)してもいいというものなので、労働時間の規制をはずして、ずうっと働かせることができてしまう。休日の規定はあるんですが、年104日の休日を除けば、24時間・連日、ずうっと働かせることもできてしまうではないかと。それが違法ではない働かせ方になってしまう。そのことを加藤大臣に確認を求めています。
 実際のところ、それは可能になってしまうんですが、加藤大臣は率直に認めようとはしません。やりとりをご覧ください。

***

■2018年3月2日 参議院予算委員会

【加藤勝信厚生労働大臣】
 そういったことはこれから指針を作ることになっております。法律に基づく指針、そして、その指針にのっとって労使委員会で決議をしていただく。こういうプロセスがありますので、その指針の中身に、今、御指摘のことも含めて、これ、まあ、法律が通ればの話ですけれども、労働政策審議会で御議論いただくことになるというふうに考えております。

【小池晃議員(日本共産党)】
 法律上、全くないわけですね。
 それで、私の質問に答えていないんですよ。(月に)4日間休ませれば、あとはずっと働かせることが、(年間)104日間を除けば、ずうっと働かせることができる。計算すればこれ、6,000時間になりますよ。6,000時間を超えますよ。「これを排除する仕組みが法律上、ありますか」と聞いている。

【加藤勝信厚生労働大臣】
 ですから、今、申し上げましたように、「働かせる」ということ自体がですね、いや、「働かせる」ということ自体が、この制度にはなじまないということでありますから、ですから、それを踏まえて、先ほど申し上げて、法の趣旨を踏まえた指針を作って行く、そして、指針に基づく決議を決めていただく、そして、決議は指針に遵守しなければならない、こういった議論がなされているわけでありますから、今、委員がおっしゃったようなことにはならないだろうというふうに思います。

【小池晃議員(日本共産党)】
 私は質問ちゃんと言っているんです。「なるか、ならないか」と聞いているんじゃない。「法律上、排除されることになっていますか」と。「私が今、指摘したような働き方は、法律上、できないという規定に合っていますか」と聞いているんです。

【加藤勝信厚生労働大臣】
 ですから、一般であれば、残業が命じられて、そしてそれにのっとって仕事をしなきゃならないわけであります。しかしこの高度プロフェッショナルはそういう仕組みになっていないんです。法の趣旨もそうでないんです。したがって、それに基づいた、先ほど申し上げた、法律に具体的に、という話がありましたけれども、その法案の趣旨を踏まえて指針にしっかり盛り込めばですね、それは法律的な効果を、先ほど申し上げたように、産んでいくということであります。

【小池晃議員(日本共産党)】
 答えていないです、答えていないんですよ。
 その趣旨がとかと言うけれど、「法律上、そういったことが禁止されていますか」と聞いているんです。イエスかノーかではっきり答えてください。

【加藤勝信厚生労働大臣】
 ですから先ほど申し上げた仕組み全体の中でですね、そうしたことにならないという形をつくっていきたいと、こういうふうに考えているわけであります。

【金子原二郎委員長】
 速記、止めて下さい。

***

【上西充子(法政大学教授)】
 今、見ていただいたように、小池晃議員は明確に、「これを排除する仕組みがあるか。24時間ずうっと働かせることが法律上、可能になってしまう。それを排除する仕組みが本当にあるのか」と確認を求めているのですが、何度も何度も、加藤大臣は、はぐらかし続けています。そういう働き方は「なじまない」ですとか、あるいは決議をすることによって、そういうふうにならないようにしていきたいですとか。
 けれども最終的には加藤大臣は、それ自体を規制する規定はない、ということを認めるに至ります。
 であれば、そういう働き方を、では本当に望んでいる労働者はいるのか。「高度プロフェッショナル制度を望んでいる労働者がいるから、そういう人たちのための選択肢として、この制度を設けるのだ」と安倍政権側は言ってきたわけですけれども。
 労働者側のニーズを聞きましたというヒアリング結果も出されました。けれども、そのヒアリング結果は、2行・3行ぐらいの、中身がほとんどないような、「これが本当に高度プロフェッショナル制度に対するニーズであるのか」ということが、うかがえないようなものしか出せなかったんですね。
しかもその聞き取った声は、何を問いかけて、聞き取った声なのか。高度プロフェッショナル制度というのが、労働時間の規制がなくなる。休憩も法律上、設けなくていい。休日も、(労働基準法の)規定通りではなくてもいい。深夜の割増賃金も払わなくてもいい。
 そういう働き方であるということをわかった上で、労働者がそれを望んでいるという声を聞き取ったのかと、福島みずほ議員が聞きました。それに対する山越労働基準局長の答弁を、お聞きください。

■2018年6月7日 参議院厚生労働委員会

【福島みずほ議員(社会民主党)】
 しかもこれ、おかしいですよ、問いが。この12人というか、今年9人にヒアリングをやるときに、高度プロフェッショナル法案、「労働時間、休憩、休日、深夜業の規制がない労働者を、あなたは望みますか」という質問をしたんですか。

【山越労働基準局長】
いずれにいたしましても、このヒアリングでございますけれども、こういった高度な専門職に就かれている方の働き方についてのニーズを把握する目的で行いまして、その結果、こういった御回答をいただいているところでございます。

【福島みずほ議員(社会民主党)】
 答えていないですよ。
 大臣は、高度プロフェッショナルに関して、ニーズをどうやって把握したかということに関して、衆議院の厚生労働委員会で、「十数名からヒアリングを行いました」と。これが根拠になっていたんですよ。唯一の根拠ですよ、唯一の。唯一、話を聞いたという根拠がこの12名で、それがどうして(今年の)2月1日なんですか。しかも、これ漠然としていますよね。
例えば、今年、「様々な知見を仕入れることが多く、仕事と自己啓発の境目を見付けるのが難しい」。何でこれが高度プロフェッショナルを望む声になるんですか。誰も、高度プロフェッショナルの具体的な中身を聞いて、それを支持すると言っている中身ではないですよ。
 高度プロフェッショナル法案の一番重要なこと、「労働時間、休憩、休日、深夜業の規制がなくなります。そういう働き方を望みますか」と聞いたんですか。

【山越労働基準局長】
 いずれにいたしましても、このヒアリングでございますけれども、その日常業務の中で、こういった高度専門的な業務に従事する方の仕事に対するニーズを把握したものをまとめたものでございます。
 内容といたしましては、ここにもございますように、例えば、1日数時間の研究を繰り返すよりも集中してやった方がいい、と。裁量で、ある期間、集中するということを働き方として希望するということでございますとか、パフォーマンスが高いスタッフに多くの報酬が与えられるようになれば、モチベーションが上がるということでございまして、そういうことからすれば、高プロの趣旨とするような働き方を希望されている、そういったことを高度な専門職の方が表明された例だというふうに考えております。

***

【上西充子(法政大学教授)】
 見ていただいたように、福島みずほ議員は、労働時間の規制、休憩の規制、休日の規制、深夜の割増賃金の規制、これがすべてはずれるということを労働者に説明したうえでヒアリングしたのかと問いかけていますが、山越労働基準局長は、「いずれにいたしましても」という一言だけで、その質問をスルーしています。無視しています。
 「答えていない」ということで、再度質問しますが、また、「いずれにいたしましても」という答えでした。
 これは、答弁と言えません。まともな質疑が成り立っていません。まともな質疑が成り立っていないのは、質問者の側の問題ではなく、答弁者の側の問題です。
 このような問題が、この働き方改革の国会審議の中では、繰り返し、行われてきました。

***
【上西充子(法政大学教授)】
 次に見ていただくのは、同じく福島みずほ議員の質疑ですが、このように24時間ずうっと働かせることも可能になってしまう、こういう高度プロフェッショナル制度が労働現場に入ってくると、女性は働き続けることはできないのではないか。女性が「子どもを産み育てたい」と思ったときに、高度プロフェッショナル制度で働いていると、それは無理ではないか、と問いかけた部分です。ご覧ください。

***

■2018年6月26日 参議院厚生労働委員会

【福島みずほ議員(社会民主党)】
社民党の福島みずほです。質問通告しておりませんが、大臣に一つ質問したいと思います。
 高度プロフェッショナルと女性の問題です。まあ男性もそうですが、女性、例えば高度プロフェッショナルで働いている女性がいる。出産して子供を持ちたいと思って、果たしてできるだろうか。
加藤大臣は、(高度プロフェッショナル制度は)直ちに時短にならないとかつて答弁しています。今朝の総理大臣の答弁でも、時短になるとは言えないんですよね。長時間労働の是正になるかという質問には、誰も長時間労働の是正になるって答えていないですよ。
 子育て中の女性、まあ男性もそうですが、とにかく1日の労働時間が大事。私も子育てをしてきたので、保育園と学童クラブのお迎えの時間というのは、とにかく至上課題。とにかく早く帰りたい。ところが、高プロだと365日24時間働くことを期待されている。だって、仕事量は自分で選択できないわけです。
 高い報酬をもらっている、高いというか、1,075万もらっているということと引換えに、まあ高い報酬じゃないというのもだいぶ、この委員会で明らかになりましたが、その人が、20代、30代、40代、子供を持ちたいと思ったとき、持てないでしょう。
 高度プロフェッショナル法案に反対するたくさんの理由がありますが、そしてこれは、ホワイトカラーエグゼンプション、残業代ゼロ法案、定額働かせ放題法案、過労死促進法案。でも私は、子育て妨害法案、家族解体法案だと思います。こんなすさまじい働き方をする人がパートナーだったら、一緒に子育てできないし、家族責任だって持てないと思います。
 大臣、どうですか。

【加藤勝信厚生労働大臣】
 委員のその前提の置き方なんだろうと思います。
 これ、そもそも本人の同意でありますから、本人が同意をしなければ、こういった働き方には、まずならないということであります。
 それから、どこまで交渉力があるか。これはいろいろ御議論がありますけれども、基本的に、職務の内容についても、本人の署名における同意が求められているわけでありますし、またこれは、法律に加えて省令も担保した上での話でありますけれども、時間的な制約等について、具体的であったとしても、また実質量として、もう余りにも膨大な量の仕事、あるいは期間の設定によって、実質的にそうした時間の配分についての裁量権がない、こういった場合には、高度プロフェッショナル制度の適用というものには該当しないということを、これまでの答弁で申し上げさせていただいているわけであります。

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【上西充子(法政大学教授)】
 高度プロフェッショナル制度で働く女性が、子どもを産み育てたいと思ったときに、できるのか。その問いに対して加藤大臣は、「これは本人の同意によるものだから、同意をしなければ、こういった働き方にはならない」と最初に答えました。
 つまり、「高度プロフェッショナル制度で働いていても、子どもを産み育てることは十分可能です」とは、答弁ができなかったということです。
 高度プロフェッショナル制度を外れて子どもを産み育てるのか。あるいは、子どもを産み育てることをあきらめて、高度プロフェッショナル制度で働き続けるのか。そのような選択を女性に強いる。そういう働き方を新たに設けて、いいのでしょうか。
 こういった働き方には、同意をしなければ、ならないとも、加藤大臣は答弁していましたが、職場の中で、「この職種には高度プロフェッショナル制度を入れたいのだが、同意をしてほしい」と使用者が求めた場合、「自分は嫌だ、自分だけは嫌だ」と断ることは、果たしてできるでしょうか。そう考えた場合、多様な働き方を求める人はいるのだから、働き方の選択肢を設けると、あたかも良いことのように言われていますが、やはり最低限の労働条件である労働基準法は、穴をあけてはいけないのだということが、この例からも分かります。

***

<5:過労死の懸念に向き合わず>

【上西充子(法政大学教授)】
 次に見ていただくのは、「過労死を考える家族の会」の方々が安倍首相に面会を求めた場面です。
 働き方改革の中には、長時間労働の是正もありますが、これまで見てきたように、ずうっと働かせることができる、割増賃金も払わずに長時間働かせることができる高度プロフェッショナル制度が、同時に盛り込まれていました。
 これに対して「過労死を考える家族の会」の方々は強く反対していました。その声を直接、安倍首相に届けたい。そのために面会を求めたのですが、「過労死を考える家族の会」の方々と会ってしまうと、過労死を防止できない高度プロフェッショナル制度に、世間の目が集まり、クローズアップされてしまう。おそらくそういった事情があったのでしょう。安倍首相は、面会を求める遺族の方のファクスを受け取ることさえ、拒みました。ご覧ください。

***

■2018年5月17日 参議院厚生労働委員会

【福島みずほ議員(社会民主党)】
 昨日の夜、私の事務所から内閣総務官室にファクスを送り、内閣総務官室から昨日の夜の間、つまり(5月)16日の間に総理のところにファクスを送ったというふうに聞いておりますが、それでよろしいですか。

【原内閣官房内閣審議官】
 お答え申し上げます。昨日の21時過ぎに事務所の方からファクスをいただき、あわせてお電話をいただきました。午前中にも御答弁させていただきましたが、事務的に受理をさせていただいたということでございます。

【福島みずほ議員(社会民主党)】
 私は秘書から、その後、総務官室の佐藤さんから「ちゃんと送りました」というふうに聞いたというふうに聞いておるんです。
 では、午前中と変わらないんですが、じゃ、私の事務所から、まあちょっと事実認定が違うんですが、例えば私の事務所からファクスを受け取ってくださった、その後、官邸にちゃんと送ってくださいましたか。

【原内閣官房内閣審議官】
 お答え申し上げます。繰り返しで大変恐縮でございますが、事務的に受理をさせていただいたということでございます。

【福島みずほ議員(社会民主党)】
 その後、どうなったんですか。

【原内閣官房内閣審議官】
 お答え申し上げます。午前中にご指摘をいただきまして、お時間もありまして、私の方でも、関係省にもお伺いをいたしました。この「全国過労死を考える家族の会」からの御意見につきましては、これまで厚生労働大臣や厚生労働大臣政務官に御意見を伺う機会があったものと承知してございます。
 さらに、ということでございますれば、基本的には所管である厚生労働省において、御対応いただくものというふうに、このように承知してございます。

【福島みずほ議員(社会民主党)】
 なんで官邸に送ってくれないんですか。
 それから原さん、うそつかないでください。昨日の夜、確かに佐藤さんの方から、「官邸に送った」というふうに連絡を受けているんですよ。つまり、ブロックしたいんですか。ブロックしたいんですか。官邸は受け付けたくないんですか。

【原内閣官房内閣審議官】
 お答え申し上げます。繰り返しで恐縮でございますが、事務的に受理をさせていただいているということでございます。

【福島みずほ議員(社会民主党)】
 受理をしたんだったら、それを官邸に送ってくださいよ。官邸がそれをどう判断するかは別ですが、何で総理大臣に知らせないんですか。私は送ったというふうに昨日の夜、聞いているので、どうしてそんな虚偽答弁なされるのかというふうに思いますが。受理はしました、じゃ、その後、総理に送ってくださいよ。
 なんで過労死遺族の声を総理に送らないんですか。勝手にそれを事務方が判断するんですか。まったく納得いきません。

【原内閣官房内閣審議官】
 繰り返しでございますが、事務的に受理をさせていただいているということでございます。
 なお、再三の…

***

【上西充子(法政大学教授)】
 先ほどのファクスをめぐるやりとりは、5月17日のことでした。その後、5月23日、今度は安倍首相も委員会に出席していた衆議院の厚生労働委員会で、柚木道義(みちよし)議員が安倍首相に対して、この後、遺族の方に、「過労死を考える家族の会」の方に、面会をしていただきたい、10分でも15分でも面会をしていただきたいと、強く求めました。
 それに対して安倍首相は、答弁に立ちませんでした。
手を出して、加藤大臣に答弁をするようにと求め、加藤大臣が答弁に立ちましたが、当然ながら、柚木議員は抗議をしました。その抗議の中で、加藤大臣は、違う話を答弁し続けました。ご覧ください。

***

■2018年5月23日 衆議院厚生労働委員会

【柚木道義議員(国民民主党)】
 どういう思いで、今の答弁を、過労死家族会(全国過労死を考える家族の会)、全国からきょうも15人以上来られていると聞いていますよ、寺西代表を始め。
 (電通の)高橋まつりさんのお母さんの幸美さんには去年会って、なんで同じ遺族である過労死家族会の方との面会は拒否するんですか。安倍総理、あまりにも冷たいじゃないですか。
 加計(かけ)理事長と会われるのもそれは結構ですよ。会ったか会っていないか、議論していますけれども、会われるのは結構です。何回も会っておられる、結構です。15分、3年前、2月の25日、(加計理事長と)会っていようが会っていまいが、私は会われること自体は結構だと思いますよ。
 だけど、その15分、せめて、人生をかけて、過労死撲滅のために、愛する家族を失って、そして、加藤大臣に会ったら、一番の肝心である高度プロフェッショナルの削除を(求めたにもかかわらず、その要望が記録の上で)、我々への委員会提出の資料から削除されていたんですよ。隠蔽されていたんですよ。
 そんな中で、せめて直接、直接、安倍総理にお会いしたいとおっしゃっているんです。加計理事長と同じ15分でも会えないんですか。せめて15分でも。この後、私の後の方が、15分間、質疑が終われば、予定では総理は退室をされると聞いています。その後でもいいじゃないですか。理事会室でもお借りして、せめて10分でも15分でも、加計理事長にも会われるんだったら、過労死家族会の方にも会ってくださいよ、総理。ぜひ、お願いします。

【高鳥委員長】
 加藤厚生労働大臣。

【柚木道義議員(国民民主党)】
 いやいや、安倍総理に会ってくださいって。ちょっと、止めて下さい。安倍総理に会ってくださいって。これ、安倍総理に会ってくださいって書いてあるんですよ、ちょっと。

【加藤勝信厚生労働大臣】
 まず、柚木議員の御指摘で、私が家族会と会ったときの議事録要旨のお話がありました。

【柚木道義議員(国民民主党)】
 ダメですよ。安倍総理に会ってくださいと書いてあるんですよ、これには。ちょっと。止めて下さいよ。

【加藤勝信厚生労働大臣】
 これに対しては、メモを出せということでしたので…

【柚木道義議員(国民民主党)】
 安倍総理に会ってください、と。

【加藤勝信厚生労働大臣】
 提出できるメモを出させていただいたところでありますし…

【柚木道義議員(国民民主党)】
 なんでご遺族の声を、ブロックするんですか。安倍総理に会いたいと、面会要請されているんですよ。

【加藤勝信厚生労働大臣】
 また、これまでも委員会において、御遺族から、遺族会の方々から…

【柚木道義議員(国民民主党)】
 愛する家族を失って、残りの人生のすべてをかけて、過労死撲滅のために、安倍総理に直接お会いしたいと。

【加藤勝信厚生労働大臣】
 そうした高度プロフェッショナル制度について反対している、これを前提に答弁もさせてきていただいてございますので…

【柚木道義議員(国民民主党)】
 ちょっと、止めて下さい。止めて下さい。

【加藤勝信厚生労働大臣】
 いやいや、違いますよ。ですから、柚木議員おっしゃっているように、我々の方においてこれまでも真摯に対応させていただいているところでありますし…

【柚木道義議員(国民民主党)】
 安倍総理なんです。高橋まつりさんのお母さんに会って、加計理事長には会って、なんで過労死遺族会の方には会われないんですか。

【加藤勝信厚生労働大臣】
 今、総理から御答弁をさせていただいたように…

【柚木道義議員(国民民主党)】
 ちょっと、止めて下さい、委員長。

【加藤勝信厚生労働大臣】
 政府全体としては、この法案の作業に携わっている…

【柚木道義議員(国民民主党)】
 安倍総理で、通告も全部していますよ。

***

<6:労働基準法の破壊・戦後の労働行政の敗北>

【上西充子(法政大学教授)】
 国会質疑を通じて、高度プロフェッショナル制度は長時間労働を助長するものである。24時間ずっと働かせることもできてしまうものだ。労働者が求めていると言われたけれども、実は労働者が求めているということは、ヒアリング結果でも示せなかった。そういうことが明らかになってきました。
 にもかかわらず最終的には、数の力で採決されてしまいます。委員会で採決が行われたのは6月28日でした。
 その2日前、6月26日に、安倍首相が出席する中で参議院の厚生労働委員会が開催されています。石橋通宏(みちひろ)議員が安倍首相に質疑を行った場面を、ご覧ください。

***

■2018年6月26日 参議院厚生労働委員会

【石橋通宏議員(立憲民主党)】
 最初に、これ、高プロについていくつか確認していきます、総理。
 これ、本当、誰のための制度なんですか。誰に要望されて、誰のために設計された制度なのか。
 総理、この委員会でも明らかになりました。元々、産業競争力会議からの提案ですと。長谷川さんや竹中平蔵さんですよ。あの方々が提案した制度なんだと、これは加藤大臣も認められたわけです、この場で。昨日の予算委員会でも、総理、それ認められておりますね。びっくりしました。
 ということは、これまで総理が言ってきた、これは働く者のための制度なんだ、自由でやりがいがある働き方なんだ。誰がそんなこと言ったんですか。
 企業のための、企業による、そういう制度なんだ、総理、そのことをもし認められるのであれば、これまでの説明はうそです。であれば、立法事実、根拠がありません。是非、それを認めるのであれば、ここで撤回してください。総理、いかがですか。

【安倍晋三内閣総理大臣】
 第四次産業革命の出現やグローバル化の下、活力ある日本を維持していくためには、高い付加価値を生み出す経済を追求していかなければなりません。
 付加価値の高い革新的な分野で、高度専門職の方であって、希望する方が、仕事の進め方等を自ら決定し、その意欲や能力を有効発揮することによって新しい産業が発展し、ひいては日本全体の生産性向上につながっていくと考えています。
 高度プロフェッショナル制度は、そうした考え方の下、高い年収の確保、職務範囲の明確化等の要件を設定した上で、時間ではなく成果で評価される働き方を自ら選択することができる、高い交渉力を有する高度専門職に限って、自律的な働き方を可能とする選択肢として整備するものであります。
 この制度は、産業競争力会議で経済人や学識経験者から制度創設の意見があり、日本再興戦略において取りまとめられたものであります。その後ですね、その後ですよ、労使が参加した労働政策審議会で審議を行い、取りまとめた建議に基づき法制化を行ったものであります。さらに、連合会長から私への直接の要請があり、それを踏まえて健康確保措置を強化する修正を行ったものであります。
 このように、高度プロフェッショナル制度については、働く方の御意見を十分に伺いながら検討を進めてきたものであります。
 なお、本制度は、望まない方には適用されることはないため、このような方への影響はないと考えています。このため、適用を望む企業や従業員が多いから導入するというものではなく、多様で柔軟な働き方の選択肢として、整備をするものであります。

***

【上西充子(法政大学教授)】
 安倍首相は、望まない方には高プロは適用されないため、このような方への影響はないと答弁しました。しかし、本当でしょうか。
 ある職場で「高プロを適用したい。皆さん同意をしてほしい」と言われたら、同意をしたくない人にとっても、同意をしないことの不利益が自分に跳ね返ってくる、そういうことは十分に考えられます。影響がないわけが、ありません。
 また、この法改正では、時間外労働の上限規制が設けられますが、同時に、このような高度プロフェッショナル制度が導入されると、経営者としてはどう考えるでしょうか。
 罰則つきの時間外労働の上限規制。これは大変、複雑なものです。こちらの方を守るよりも、高度プロフェッショナル制度を適用できるなら適用してしまいたい。あるいは、裁量労働制を適用してしまいたい。こちらの方であれば、割増賃金の支払いもなしに、長時間労働させることができます。そのような状況に法改正後は、それぞれの職場は、置かれてしまいます。
 望む人だけが高度プロフェッショナル制度の適用を受ける。望まない人には、何も影響がない。そういう状況とは、とうてい、言えません。にもかかわらず、安倍首相は、これはあくまで望む人だけのものだという言い訳で、押し通しました。

***

 最後に見ていただきますのは、6月28日、委員会採決の日に、福島みずほ議員が、この高度プロフェッショナル制度の問題点を改めて指摘した場面です。
 高度プロフェッショナル制度は、労働基準法を破壊するものだ。このようなものを労働行政の中で今、行おうとしている。そういうことに対して、「あなたがたは、良心の呵責はないのか」と、問いかけました。
 加藤大臣の答弁の中に、「良心」という言葉が出てきます。しかしながらそれは、福島議員の質疑に対して誠実に答えたものでは、まったく、ありませんでした。ご覧ください。

■2018年6月28日 参議院厚生労働委員会

【福島みずほ議員(社会民主党)】
 そして、昨日、岡田克也さんが、無所属の。総理に対して、別件のテーマですが、「良心の呵責はないのか」というふうに質問しました。
私は高プロで聞きたいです。労働基準法を破壊するものですよ、高プロは。労働時間規制がなかったら労働者は守られないですよ。この法案を、この厚生労働委員会で成立させようとする。良心の呵責はないですか。戦後の労働行政の、これ敗北ですよ。労働基準法の破壊ですよ。どうですか。

【加藤勝信厚生労働大臣】
 幾つかのことをおっしゃったので、全部答えられるかどうか、あれですけれども。
 まず、労働時間。今回、労働時間の状況については、裁量労働制も含めて、それをしっかり把握をしてもらう、そしてその場合にはパソコンのオン・オフ等でしっかりやる、こういうことにさせていただいているということが、まず、あります。
 それから、高プロにおいても、今度、健康確保措置、健康管理時間については同様の対応をしていくということで考えているところでありまして、その下において健康確保措置がしっかりと運営して実行されていく、それに向けて、我々としても必要な指導等を、監督指導等を行っていきたいというふうに考えております。
 それから、労働時間については、先ほど申し上げた我が国の労働時間は、他国、特にヨーロッパ等の国と比べて長時間にあるということ、その認識は私も共有をさせていただいております。
そういった意味において、その一つとして、これまで三六協定を結んで特別の事項の場合にはむしろ青天井であった、まさにそういったところを是正をすることによって、全体として労働時間の是正、長時間労働の是正、こういったことに取り組んでいく。
 そういった意味において、今回そうした罰則付きの長時間労働の規制というものを、時間外労働の規制というものを、提案をさせていただいているということでありますので、こういったことを含めて、長時間労働の是正をしっかりと進めていきたいと思っておりますし、今、良心というお話がありましたけれども、これまで再三再四、このことは議論はされてきたけれどもなかなかできなかった、それについて労使が合意をして、今回初めてこういった形での、罰則付きの長時間労働の是正をさせていただいたということであります。
 それから他方で、高プロについては、先ほど東(あずま)議員ともお話をさせていただきましたけれども、やはり、これからの時代を私たちは考えていかなきゃいけない、そして、今の状況の中で、本当にこの国においてどういう付加価値の高い産業を残していくのか、そういった中において、やっぱりこうした高度のプロフェッショナルの皆さん方が、やっぱりこの国において自律的に創造性のある仕事をしていただける環境を、一定の要件と健康確保措置の下でつくっていく、このことは、これからの日本の経済、あるいはそして日本における雇用の確保、職業の確保、こういった観点からも必要だということで提案をさせていただいているということであります。

***

<7:終わりに>

【上西充子(法政大学教授)】
 高度プロフェッショナル制度は、2019年4月から、職場に導入が可能になっています。
 これを導入するにあたっては、労使の委員会が、様々な事項を定めた決議を行わなければなりません。その上で、本人同意が必要になります。
ですので、経営側が求めるがまま¬¬、決議を行い、本人も同意をする。そのような形になることは、非常に危険です。今から、この高度プロフェッショナル制度がどういう内容であるのか。労働基準法をどう変えようとしているのか。時間外労働の上限規制の中身と同時に、学んでください。長時間労働の是正だけが職場に入るわけではありません。
 長時間労働の是正の方の施行は、大企業が2019年4月、中小企業が2020年の4月です。それに対して、高度プロフェッショナル制度の方は、大企業も中小企業も、2019年の4月です。長時間労働の是正になると油断をしていると、皆さんの職場に高度プロフェッショナル制度が入ってくるかもしれません。そうならないためには、職場の労働者の側が、きちんとこの内容を学んで、話し合って、対策を取ることが必要です。
 ぜひ今から、そのような対策を取ってください。
 私たちは、国会パブリックビューイングとして、このあとも、国会の質疑を、いろいろな観点から、とりあげていきたいと思っています。今後ともご注目ください。

***

音楽:沢田穣治(Jyoji Sawada) 大袈裟太郎(Tarou Oogesa)

【国会パブリックビューイング 第1話 働き方改革―高プロ危険編― 収録映像一覧】
1. 2018年4月27日 衆議院本会議 働き方改革関連法案の提案理由を説明(加藤大臣)
2. 2018年1月29日 衆議院予算委員会 「労働法制に穴を開けるな」との質疑に安倍首相「自分が岩盤規制に穴を開ける先頭に立つ」(長妻昭vs安倍首相)
3. 2018年6月25日 参議院予算委員会 安倍首相「経団連会長から高プロの導入をすべきとの意見をいただいている」と本音を語る(伊藤孝恵vs 安倍首相)
4. 2018年1月31日 参議院予算委員会 加藤大臣「話を聞いた」と説明するも虚偽答弁(浜野喜史vs加藤大臣)
5. 2018年6月12日 参議院厚生労働委員会 「高プロに労働者のニーズがあるとは虚偽答弁」との追及に開き直り答弁(福島みずほvs加藤大臣)
6. 2018年3月2日 参議院予算委員会 「連日24時間働かせることも可能」と追及するも、加藤大臣がはぐらかし答弁(小池晃vs加藤大臣)
7. 2018年6月7日 参議院厚生労働委員会 「労働時間規制を外すことを説明したんですか」と問いただすも「いずれにいたしましても」と無視(福島みずほvs山越労働基準局長)
8. 2018年6月26日 参議院厚生労働委員会 「高プロの女性労働者は子どもを産み育てることが困難」と指摘(福島みずほvs加藤大臣)
9. 2018年5月17日 参議院厚生労働委員会 「職員が事務的に受理」と門前払い答弁(福島みずほvs原審議官)
10. 2018年5月23日 衆議院厚生労働委員会 総理に過労死家族会との面会を求めるも、加藤大臣が別の答弁(柚木道義vs 安倍首相・加藤大臣)
11. 2018年6月26日 参議院厚生労働委員会 「高プロは望まない方には適用されないため、このような方への影響はない」?(石橋通宏vs安倍首相)
12. 2018年6月28日 参議院厚生労働委員会 「高プロは労働基準法を破壊するもの。良心の呵責はないのか」(福島みずほvs加藤大臣)