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月、ふたつ。

松里莉多

ダアヌ「ヘレノ、ゾスー、元気でね!」

ヘレノ「またどこかで会えるよ!な、ゾスー!」

ゾスー「3人でやりたいこと、やるべきことが尽
    きない限り、必ず会えるさ!」

ダアヌ「そうだね!ありがとう。」

ヘレノ「なーにをしんみりしちゃってんのさ!動
    き出したいって思ったんでしょ?すぐに
    実行してるじゃんか!自分を褒めな!」

ゾスー「ダアヌのその行動が、おれたちを新たな
    道へと誘い出してくれてるんだよ!直に
    おれたちも出発するよ。」

ヘレノ「あとは"リバール"を決めるだけよ!」

ダ&ゾ「リバール?」

ヘレノ「あ、やっぱり伝わらなかった?どの色水
    に入るか、選択肢を決めてないけどって
    のを略してみたかったのよ前から!それ
    を使う絶好のタイミングだったでしょい
    ま!ねっ!」

ゾスー「なるほどね!んじゃ、使ってみるか!そ
    れで、ダアヌのリバールは?」

ダアヌ「青水で出発するよ。今までもずっと左を
    選んできたから、そうするよ!」

ヘレノ「あれ、急に生き生きし出したじゃん!」

ダアヌ「2人と話してるこの時間で、ずっと先の
    ことを考えてたけど、今のこと、目の前
    のことを思ってたら、なんか急に楽しく
    なってきたの!」

ゾスー「じゃあおれも青水にしよっかな!」

ヘレノ「なら、みんなで青水にしよ!」


ヘレノとゾスーに見守られながら、深い青水に舟を浮かべ、櫂を漕ぐ。音を立てず穏やかに。


ヘレノ「行っちゃったね。」

ゾスー「ヘレノも直に行くでしょ?あの時咄嗟に
    言っちゃったけど。」

ヘレノ「行くつもりはなかったけど、ダアヌを見
    ちゃったら...ね。行きたい気持ちは強く
    なってきたかもね!」

ゾスー「よかった、安心した。」

ヘレノ「なになに!なんで?」

ゾスー「いやさ、おれは正直びっくりしてるわけ
    よ。ヘレノって仲良くなることを忌み嫌
    うでしょ?」

ヘレノ「実は自分がいちばん驚いてる。」

ゾスー「ダアヌはさ、今までに会ったコとは明ら
    かに違ったよね。」

ヘレノ「そうなんだよなー。何が違うかは全然わ
    からないんだけどね!」

ゾスー「その不思議なところが心地よかったのか
    もなー。そういや、この空気感も懐かし
    いよね。ゆったりしてるというかさ。」

ヘレノ「たしかに!ダアヌの空気感にいい意味で
    のめり込まれてたよね!って、なにが安
    心したのよって!」

ゾスー「そうそう、ヘレノは人付き合いが苦手だ
    から、無理して合わせてたんじゃないか
    なとか、ダアヌが出発して少し喜んでる
    可能性だって捨てきれなかったから。」

ヘレノ「心配御無用!超寂しいから!」

ゾスー「みたいだね。初めてダアヌと出会った時
    のこと覚えてる?」

ヘレノ「もちろんよ!忘れられないな。」


とある日...


ヘレノ「おーい!ゾスー!起きてるー?」

ゾスー「朝から騒がしいなー。ヘレノから誘いに
    来るなんて珍しいじゃんよ。雪でも降る
    んじゃないかな?」

ヘレノ「ねーねー、聞いた?」

ゾスー「聞いた?って何をよ。」

ヘレノ「魚だよ!さーかーなー!」

ゾスー「魚?いや、わからない。聞いてない。」

ヘレノ「あんまり広めないでよ?ガクヤ湖あるで
    しょ?」

ゾスー「うん、この島の三大湖のひとつのね?」

ヘレノ「そこで見たんだって!脚の生えた魚!」

ゾスー「そうなんだ。で、みてみたくて珍しく誘
    いに来た訳ね?」

ヘレノ「どんな味するんだろーって気になっちゃ
    ってさ!眠れなかったの!」

ゾスー「いや、そこじゃないでしょ!でもわかっ
    た、釣りに行こ!」

ヘレノ「やったー!そうと決まったらはやくいく
    よ!はーやく!いこいこ!」

ゾスー「わーかったから!ちょっと待ってて!」


ヘレノ「あの時珍しくニコッてしてたの覚えて
    る!いつもは面倒くさそうにするのに
    ね!」

ゾスー「そうだった?あんまり覚えてないな。あ
    れじゃない?ヘレノがあまり外で遊ばな
    いコだから、急に外でてきて、なんなら
    誘いに来てくれたからちょっと嬉しかっ
    たのかもね?」

ヘレノ「その後だったよね!ダアヌに会ったの
    は!」


ゾスー「釣り竿はどうするの?」

ヘレノ「もうガクヤ湖に置いてきたから大丈
    夫!」

ゾスー「準備万端じゃん。そりゃそうか、大好物
    にプラスで見たことのないフォルムなん
    だもんね。」

ヘレノ「当然!今日のご飯だもん!」

ゾスー「頑張って捕まえるかー、ってあれ?」

ヘレノ「ん?あのコが持ってるのって、おれが用
    意してた釣り竿じゃん!ちょっとー!」

ロピメ「あ、ごめんなさい。お兄さんたちの勝手
    に使っちゃって。」

ゾスー「ん?木を突っついてたけど、もしかして
    何か挟まっちゃった?」

ロピメ「そうなの。ボールで遊んでたんだけど。
    引っ掛かっちゃって。」

ヘレノ「ありゃ?その釣り竿ってよーくみたらお
    れのやつじゃないな。」

ロピメ「あれ?あのお兄さんのおともだちじゃな
    かったの?」

ヘレノ「あのお兄さん?」

ロピメ「うん、今さっきお兄さんたちと同じくら
    いのお兄さんがこの釣り竿貸してくれ
    て。お兄さんは梯子を取りに行ってくれ
    てる。」

ヘレノ「優しいコじゃん!おれらも手伝うよ!そ
    のコに会って話してみたいし!」

ゾスー「釣り竿を持ってるってことは...」

ヘレノ「ゾスー?どうかした?」

ゾスー「いーや、なんでもないよ。おれも手伝わ
    せて!」

ダアヌ「お嬢ちゃーん!梯子持ってきたから、今
    とるね!待ってて!」

ヘレノ「あ!もしかしてあのコが?」

ロピメ「ありがとうございます!あ、そうです!
    あのお兄さんです!ご存知ですか?」

ヘレノ「いや、知らないな...」

ダアヌ「あ!はじめまして!ひょっとして、あな
    たたちもお嬢ちゃんを?」

ヘレノ「今さっき着いて、釣り竿で木を突っつい
    てたもんで、おれたちのを使われてるん
    じゃないかと思って話しかけたのがきっ
    かけで!」

ダアヌ「そっかそっか!もしかして、あなたたち
    もカエルウオの話聞いた感じですか?」

ヘレノ「そうそう!どんな味がするのか気になっ
    ちゃって!」

ダアヌ「実はぼくもなんです!」

ロピメ「カエルウオ?」

ゾスー「ここだけの秘密だよ?このガクヤ湖に
    ね、脚の生えた魚がいるっていう話があ
    ってね、それをお兄さんたちは捕まえに
    きたって訳なの!」

ロピメ「そうだったんだ!よくここで遊んでるけ
    ど、全く知らなかった!」

ダアヌ「よーし!ボールとれたよお嬢ちゃん!」

ロピメ「ありがとうお兄さん!」

ダアヌ「いいのいいの!笑顔がみれて嬉しい!」

ヘレノ「よかったよかった!じゃあみんなでカエ
    ルウオみつけよー!」

ゾスー「もしよかったら、お嬢ちゃんも一緒に釣
    りする?」

ロピメ「いいの?やったね!じゃあ私はお兄さん
    たちのを見てる!」


ゾスー「ロピメちゃん元気してるかな?」

ヘレノ「あの時以来会ってないからね...」

ゾスー「そうだ。ヘレノさ、今日時間ある?」

ヘレノ「特に急ぎでやることはないかな!」

ゾスー「じゃあさ、ロピメちゃん探してみない?
    せっかくこうやって思い出したし。」

ヘレノ「それいいね!この島での最後の目標にし
    てみようか!」


ダアヌ「ヘレノー、どう?」

ヘレノ「カエルウオどころかって感じよ!」

ゾスー「ロピメちゃんはいつもひとりで遊んでる
    の?」

ロピメ「そんなことないよ!今日はお友達がみん
    な用事あって、ひとりで遊んでるの!」


ゾスー「まずはロピメちゃんくらいのコに、ロピ
    メちゃんのことを知ってるか聞いてみよ
    っか。」

ヘレノ「了解!ゾスーはやけにロピメちゃんに優
    しくしてたけど、なんかあった?」

ゾスー「いや、なんだろうね。会った時には既に
    柔らかく接してたから。」

ヘレノ「不思議なオーラでも出てた?」

ゾスー「そうなのかもしれないね。」

ヘレノ「にしてもさ...」


ロピメ「お兄さんたち今日はありがとう!また遊
    ぼうね!」

ダ&へ「また遊ぼー!じゃあね!」

ゾスー「気をつけて帰るんだよ!またね!」

ダアヌ「そろそろぼくたちも帰る?」

ヘレノ「だね。仕方ないけどまた明日にし...」

ゾスー「おっと、え?うそでしょ。」

ダアヌ「ゾスーの釣り竿動いてるよ!」

ヘレノ「ダアヌー!ゾスーの手伝うよー!」


ヘレノ「まさかあのときカエルウオを釣り上げれ
    るとはね!」

ゾスー「ただ外が暗くなってきちゃったから、ロ
    ピメちゃんが帰った後だったんだよ。」

ヘレノ「そういえばそうだった!ロピメちゃんは
    見れてないのか!」

ゾスー「ロピメちゃんを見つけれたら、もういっ
    かいカエルウオ釣りに行こうよ。」

ヘレノ「それめちゃくちゃいいじゃん!で、それ
    を持ってダアヌに会いに行こ!どう?完
    璧な流れじゃん?」

ゾスー「そうしよう。ダアヌのことだし、あっち
    もあっちで何か準備してそうだから、ち
    ょうどいい手土産になりそうだね。」

パヲエ「すみませーん!」

ヘレノ「ん?どうかした?」

ツヲヌ「キラキラしたちょうちょ見ませんでした
    か?」

ゾスー「キラキラした蝶?見てないなー...」

パ&ツ「そっかー...」

ゾスー「もしかして逃しちゃったの?」

ツヲヌ「いやちがくて、キラキラしたちょうちょ
    がいるって話をお母さんから聞いて...」

ヘレノ「そうなの?おれも探すよ!やっぱり草の
    近くかな...よし!ふたりともいこ!」

ゾスー「ヘレノ!ちょっと待ってって。おれたち
    の本来の目的は?もう忘れた?」

ヘレノ「目的?あ、ロピメちゃんね!」

パヲエ「ロピメちゃん?」

ゾスー「きみたちくらいのコで、ロピメちゃんっ
    て名前のコ知らないかな?」

パヲエ「お兄ちゃん知ってる?」

ツヲヌ「いや、聞いたことないね。」

ヘレノ「おっかしいなー...」

ゾスー「そっかそっか!ごめん、知らないなら大
    丈夫!じゃあおれたちも蝶探ししちゃお
    っかな!」

パ&ツ「いいの?やったね!」


その後、緑のある場所を山程探した。
もちろん見つからず、シンプルな蝶すらも。


パ&ツ「まったねー!」

ヘレノ「また探そうねー!」

ゾスー「気をつけて帰るんだよ!」

ヘレノ「蝶見つからなかったね...」

ゾスー「見つけたかったなー...って違うって言っ
    てんのさっきから!」

ヘレノ「ロピメちゃんね?わかったから!とりあ
    えずじゃあガクヤ湖いこ!」

ゾスー「そうしよっか。」

ヘレノ「珍しい魚がいようがいまいが、ただでさ
    えこーんなに綺麗な湖なのに、ひとっこ
    ひとりいないね。」

ゾスー「だから綺麗なのかもしれないね。」

ヘレノ「なんで?」

ゾスー「誰もガクヤ湖に来てないわけではない
    と思うの。」

ヘレノ「三大湖のひとつだもんね。」

ゾスー「こんな素敵な、偉大な場所なのに。誰も
    いない。貸切状態。綺麗に見えないわけ
    がないじゃん!」

ヘレノ「うんうん」

ゾスー「ここに知らない誰かが既に居たとした
    ら、また見え方が変わってくるはず。湖
    は何も変わってないのに。」

ヘレノ「なるほど」

ゾスー「ガクヤ湖は誰が見ても"綺麗"なの。そ
    の素敵な空間に自分達しかいない、これ
    が"希麗"に繋がる。自分達以外もその
    空間いると、忽ち"既麗"に変わる。読
    み方は全部"きれい"。こんなものな
    の。だから自分以外のコのことを考える
    のは疲れちゃうの...」

ヘレノ「ゾスー?大丈夫?しっかりして?ね?」

ゾスー「あ、ごめん。気にしないで。ヘレノのこ
    ともダアヌのことも、おれは大事な"な
    かま"だと思ってるから!」

ヘレノ「大丈夫。わかってるよ!」

ゾスー「実は、ヘレノとこの島で会う前ね、ヘレ
    ノと一緒で、ずっと独りの世界に篭って
    さ。ふと思ったんだよね。このままで自
    分はいったい何がしたいんだろうって。
    その答えはその場で出せなかった。だか
    ら、島を出た。その島で自分が出来るこ
    とは何もないんだ。そう感じたから。」

ヘレノ「えっ、そうだったの。だから、初めて会
    ったときに...」


ソモランドがゾスーの居た島になってからすぐのこと。やや悪天候に見舞われ、青水と赤水の境目に浮かんでいた舟は、いつしか冷たさを感じるようになりました。

風に波靡く中、身を委ねる。漸く顔を出した島には、木陰に身を潜める影。身を委ねすぎたせいか、島には到底上陸できる高さではなく、大袈裟に言ってしまえば崖のような場所に浮かんでいる。声をかけて助けてもらうしかないだろう。


ゾスー「あのー!すみませーん!」

ヘレノ「...」

ゾスー「助けてもらってもいいですかー!」

ヘレノ「...」

ゾスー「木陰でお休み中のところすみませんけど
    ー!何かされてるんですかー!」


そうこうしているうちに、だんだんと島に近づいてきた。近づいてみてわかったことがある。自分には相当な盛り癖があると言うこと。というよりかは、しれっと嘘をつくことが出来てしまうのかも。自分のことが少しわかったところで、乗っていた舟の中で飛び跳ねてギリギリ届く地面に手を掛け、攀じ登る。


ゾスー「さっきは大きな声ですみませんでした...
    ちょっとばかしお尋ねしたいんですけ
    どね...って寝てるじゃん。」

   「あれ?釣り竿が横に置いてあるってこと
    はだ、なんだ?魚を釣りに来て寝ちゃっ
    たってか。」

   「せっかくなら、この島のことはこのコか
    ら聞きたいし、起きるまで釣って待って
    おくかな。したら、断られずに済むだろ
    きっと。」


気がついたらあたりは夕間暮れ。言い忘れていたが、三角座りの姿勢で寝ていたこのコ。おそらく数時間が過ぎている。まるで姿勢が変わらない。木に寄りかかり、三角座りをしているこの影がまるで"木のコ"のように。なんて訳のわからないことを考えていたら、木のコから島のコに変わるタイミングがやってきた。


ゾスー「おっ!漸く起きてくれた。おそよーさん
    です。」

ヘレノ「ん?あれ、もうこんな時間か。」

ゾスー「はじめまして。今さっきこの島に着きま
    して、この島のいろいろなことを教えて
    いただきたくて、いちばん最初に見つけ
    た木のコのあなたが起きるのを待ってい
    たんです。」

ヘレノ「いちばん最初の木のコ?この島が知りた
    い?起きるのが待ってる?何を言ってる
    んですか?って言うか誰ですか?」

ゾスー「あ、そうか。寝ぼけてるのか。」

ヘレノ「ってちょっと待って!そんなたくさんの
    魚どうしたんですか!」

ゾスー「どうしたもこうしたも、あなたが起きる
    まで、横に置いてあった釣り竿でひたす
    ら釣りをしていただけです。」

ヘレノ「ということは、その魚全部くれるんです
    か?」

ゾスー「もちろん!ただ、その代わりにこの島の
    ことを教えてくださいね?」

ヘレノ「もちろん!ついてきてよ!」


島のコについていくと、住処に招かれた。幹にしては少しばかり細い木にロープで作られた梯子がいちばん上から垂らされていた。


ゾスー「もしかして、木の上に住んでるの?」

ヘレノ「そうだよ!葉っぱの上に寝るのって気持
    ちいいんだよ!」

ゾスー「この梯子も作ったの?」

ヘレノ「そうそう!木登りが得意だから梯子がな
    くても登れるんだけど、荷物があると梯
    子の方が楽でさ!」

ゾスー「今日は魚を持って帰ろうとしてたから、
    梯子を垂らしてたってことか。」

ヘレノ「ピーンポーン!そういうこと!ただ急に
    眠くなっちゃって寝てたら、君が魚持っ
    て待ってたってわけ!まー、そんなこと
    は上で話そ!はやく登って登って!」


葉を掻き分け登り切る。すると、島のコが住み易いように工夫した空間。ひと目でわかった。


ゾスー「もしかして、ひとりが好き?」

ヘレノ「う、うん!よくわかったね?」

ゾスー「まあね。よし、この空間気に入った!」

ヘレノ「ほんと?よかった!」

ゾスー「君の名前は?おれはゾスー!」

ヘレノ「ヘレノっていうよ!よろしくね!」

ゾスー「こんな閑静な場所よくみつけたね。」

ヘレノ「よかったらどう?近くの木に、住処にぴ
    ったりなウロがあるの!もちろん、その
    名の通り腐って出来た穴だから、直す必
    要はあるけど。」

ゾスー「そこに住ませて!あと、この島の名前っ
    てなんていうの?」

ヘレノ「テフランドだよ!」


ゾスー「そうかもね。あの時目に見えてたもの
    が、全てと言ってもいいくらいにおれ好
    みだった。」

ヘレノ「おれも、ひとりが好きなはずなのにゾス
    ーとは一緒にいれるって感じた。」

ゾスー「おれがソモランドを離れたときからこう
    なる未来だったんだと思ってる。悪天候
    になったからヘレノが寝てた場所に流さ
    れたわけだし。」

ヘレノ「たしかにそうだね!もしかしたら、ダア
    ヌとかロピメちゃんだってそうかもしれ
    ない!あとツヲパヲきょうだ...」

ロピメ「お兄さんたち!お久しぶり!」


背中側の森林から突如、聴き覚えのある探し求めていた声が。振り返ると、全身からの白光。銀色に照らされるふたり。


ゾスー「ロピメちゃん...だよね?」

ロピメ「そうだよ!あ、そうか。言ってなかった
    もんね!驚かしてごめんなさい!」

ヘレノ「一体なにがどうなってるの?」

ロピメ「実は、私ね...妖精なの。ガクヤ湖の!」

ゾ&ヘ「え...妖精だったの!」

ロピメ「驚かしてほんとうにごめんなさい!」

ゾスー「えっと、いろいろ整理してもいいか
    な?」

ロピメ「もちろん!なんでも!」

ゾスー「普段は見えないんだよね?」

ロピメ「これに関していうとね?私が驚いてるこ
    とでもあるんだけど、見えないはずな
    の。」

ヘレノ「というと?」

ロピメ「この状態ね、いま軽く光ってると思うん
    だけど、白光状態のときはこっちから見
    えるようにしてるの!」

ヘレノ「うんうん」

ロピメ「初めて会った時は全く光ってなかったで
    しょ?」

ヘレノ「全く!」

ロピメ「あの状態のときは、周りには見えないは
    ずなの!なのに、ボールを引っ掛けちゃ
    ったタイミングで声を掛けられちゃった
    の!」

ゾスー「ダアヌって何者なんだ?」

ヘレノ「不思議すぎるな...おもしろい!」

ロピメ「そのときに会話しちゃったから、後から
    来たお兄さんたちにはふつうに見えちゃ
    ったってわけなの!」

ゾスー「そういうことだったんだ。魔法が解けち
    ゃったみたいな感じか!」

ロピメ「そうそう!話には聞いてたんだけど、実
    際こうなったのは初めてだったからびっ
    くりした!だから、お兄さんたちの前に
    はあの日以来出ていけなくてさ!何度か
    ガクヤ湖には来てくれてたのに。」

ヘレノ「整理できたよ!兎に角また会えてよかっ
    たよ!」

ゾスー「もちろんここだけの秘密ね!」

ロピメ「ありがとう!あともうひとりのお兄さん
    は?」

ゾスー「ダアヌはね、」

ヘレノ「ついさっき...って言ってもだいぶ前か。
    今日ではあるんだけどね?」

ゾスー「島を離れちゃったんだよ。」

ロピメ「そうだったんだ...」

ヘレノ「そろそろ島を出ようと思うって相談され
    たのが何日か前よ。行動が早いんだよね
    ダアヌはさ!」

ロピメ「そっか...挨拶も出来ずにお別れか。」

ゾスー「ロピメちゃんは、ガクヤ湖を離れること
    は出来ないの?」

ロピメ「残念だけど。場所を決められた妖精は、
    その場から立ち去ることは許されない
    の。」

ヘレノ「その感じだと、場所を決められていない
    妖精とかもいるってこと?」

ロピメ「詳しくはわからないのだけど、聞いたこ
    とがあるのは、私とは逆で姿を隠してい
    る時が白光しているって妖精もいるみた
    い。ただ昔の記憶だし、あやふや。」

ゾスー「そうなんだね。あと、この流れでいうの
    は気が引けるんだけど、おれたちも島を
    離れようと思っててさ。」

ロピメ「うん。もちろん気づいてるよ。」

ヘレノ「たださ、カエルウオを持っていくことを
    最後のテフランドでの目標にしてるから
    さ!まだ、大丈夫!ね、悲しまないでよ
    ー!ロピメちゃんはまだみれてなかった
    よね?カエルウオ!一緒釣ろうよ!」

ロピメ「お兄さんたちと釣るってなると、光った
    状態で一緒にいることになっちゃうか
    ら、透明の状態で見守っておくよ。気を
    遣ってくれてありがとう。」

ゾスー「...ロピメちゃん。」

ロピメ「どうしたの?」

ゾスー「ほんとうにありがとう...」

ロピメ「ん?何かしたっけ?」

ヘレノ「ゾスー?また取り乱しちゃったか?」

ゾスー「感謝しきれないよ。ロピメちゃんのこと
    は絶対に忘れないから。」

ロピメ「えっと、なんのことか...わっかんないか
    らさ、もうしんみりするのはやめにし
    よ!で、カエルウオ?前は前だよ!もう
    釣れないかもよ?」


ほどなくして、ガクヤ湖を後にした。恐らくヘレノは気づいていなかったようだが、確かにみた。星空が反射する湖に、蝶が2頭。バタフライエフェクトを感じた。

次の日...久しぶりにヘレノの住処に向かう。


ゾスー「ヘーレーノー!ヘレノ!起きてるー?」

ヘレノ「ちょっ...何なに...寝てますからまだ...」

ゾスー「久しぶりにお邪魔するよー!」

ヘレノ「邪魔するならかえ...」

ゾスー「早速なんだけど、相談。」

ヘレノ「今日はやけに明るいなと思ったらいつも
    のトーンに戻って...昨日から情緒が忙し
    いね?大変でしょうに...」

ゾスー「今日出発しよ。」

ヘレノ「おけおけわかったからちょっと待って!
    釣り竿さ、下に置いてあったでしょ?な
    んなら先に行ってても...」

ゾスー「違うちがう。相談って言ってんのよ?」

ヘレノ「だからカエルウオを釣りに行かないとい
    けないでしょって!」

ゾスー「もうそれなしにして、今すぐ行こ。」

ヘレノ「なにを可笑しなことを言ってるわけ?カ
    エルウオはどうするのよ!ロピメちゃん
    はどうなるのよ!寝起きにそのしゃれは
    きつい。とりあえず寝る。おやすみ!」

ゾスー「待って話を聞いて。そもそもカエルウオ
    を釣ってから出発しようかなんて言った
    けど、別になくたっていい物でしょ?」

ヘレノ「そうだけどさ...ロピメちゃんはどうなる
    の?可哀想でしょ!一緒に行きたいのに
    行けないんだよ?」

ゾスー「ねえ。口先だけじゃない?ほんとうにロ
    ピメちゃんのことを考えてる?」

ヘレノ「どういうこと?」

ゾスー「昨日の話でわからなかった?もうロピメ
    ちゃんとは会えないの。お別れだったん
    だよ...昨日で。今日からカエルウオを釣
    るまでだなんて寧ろ酷だよ。」

ヘレノ「だから昨日、あんなに...」

ゾスー「もう準備しよ。わかってくれた?」

ヘレノ「よし、わかった!舟の準備だね!」


同じ状況下であっても、個々で汲み取り方が違う。分かり合っていたとしても、無理矢理に介入は出来ないもの。話し合い聞き合う。正しい道、新たな道に辿り着ける。お互いに。

舟を作る。ふたりの住む、いつも閑静な森林で。


ゾスー「流石に作り慣れてるね。」

ヘレノ「もちろんよ!何日か前にダアヌの舟作っ
    てんだから!どうせ作るんなら、ダアヌ
    の時とは違うカタチの舟を作りたいから
    さ、今回はふたり乗りにするけどね!」

ゾスー「何か必要なものある?」

ヘレノ「そうだそうだ!ロープ持ってきてよ!」

ゾスー「ちょっと多めに持ってくるよ。」


こじんまりとした舟着場の舟小屋にて...


ゾスー「こんなもんで足りるかな...もし足りなか
    ったら違う所行ってくればいいか。」

━━━「(ピチャ...ガグ ピチャ...ガグ)」

ゾスー「(グギー...キー バン)」

━━━「あ、すみませーん!」

ゾスー「ん?お、お客さんだ。はーい、手伝いま
    すよー!」

ゼスク「わざわざありがとうございます!ゼスク
    って言います!」

ゾスー「そんな...大したことはしてないですよ!
    ゾスーです。よろしく!」


ヘレノ住処...


ヘレノ「いや、遅すぎるよね。どう考えても!ゾ
    スーのことだから誰かと話しちゃってる
    んだろうなー...もうちょっとだけ待って
    みるか。」

ゾスー「お待たせ!ごめん遅くなっちゃって。」

ヘレノ「なかなかな時間よ?いまそっち行こうと
    思ってたのよ遅すぎて!もうロープない
    と作業が進まないの!」

ゼスク「あなたがヘレノさんですね!ゼスクって
    言います!先程ゾスーさんに手助けして
    もらって上陸させてもらいました。その
    あとここに来た訳を話していたら長引い
    てしまって。すみません!」

ヘレノ「そうだったんですね!いえいえ、謝らな
    いでくださいよ!大袈裟に言ってみただ
    けですから!ようこそテフランドへ!そ
    れで、訳っていうのは?」

ゼスク「はい。簡潔にまとめると、とあるコを探
    しにこの島まで辿り着きました。」

ヘレノ「とあるコ?あ、ちょっと待って!立ち話
    もあれだからさ、住処きてよ!ついてき
    て!ゾスーはそのロープ置いといて!」


ラキランドに住むゼスク...


カラム「ゼスクくーん!今日はいちばん大きな花
    を見つけた方が勝ちだよー!」

ゼスク「よっしゃー!今日こそは負けないぞ!」

カラム「ゼスクくんの好きな色って何色?」

ゼスク「好きな色か...オレンジとかかな?いや、
    白もすき!」

カラム「わたしの好きな色はね、みどりいろ!」

ゼスク「カラムちゃんは自然大好きだもんね!」

カラム「あー大きいのあったー!ゼスクくんはま
    だみちゃだめ!違うところで探して!」


ゼスク「よく遊ぶようになってからは、ラキラン
    ドにある植物だったり、ラキランドから
    見える景色だったりでどっちが良いもの
    を見せれるかっていう勝負をひたすらし
    ていました。ラキランド全てが遊び場で
    した。」

ヘレノ「カラムちゃんとの出会いは?」

ゼスク「不思議な出会いでした。いろいろあって
    兎に角落ち込んでいました。なにも手に
    つかない、考えられない。そんな日が続
    いて、静かな海辺をゆっくり歩いていた
    んです...」


ゼスク「(シャバチャバチラピチャ...シャバチャバチラピチャ...)」

カラム「(シャバチャバチラピチャ...シャバチャ)あれ?あのコ
    何かあったのかな?」

ゼスク「(シャバチャバチラピチャ...シャバチャバチラピチャ...)」

カラム「おーい!そこのコー!元気ー?」

ゼスク「...」

カラム「(ポンポン)どうしたのって!」

ゼスク「わっ!びっくりした!」

カラム「なんでそんなに元気がないのよ。」

ゼスク「いまそれどころじゃないんです。ごめん
    なさい。」

カラム「んなこと、話しかける前からわかってる
    から!一生そのまますごすわけ?え?」

ゼスク「...」

カラム「はい、じゃあまずは座って。」

ゼスク「うん。」

カラム「お互いの名前は最後ね。なんでこうなっ
    ちゃってるのかを教えて?」

ゼスク「幼馴染がいたの。そのコとはずっと一緒
    にいた。遊んでた。家族のような、そん
    なコ。」

カラム「...」

ゼスク「そのコが病気になっちゃってね。"フィ
    ネクーナ"。知ってる?」

カラム「ごめん。初めて聞いた。」

ゼスク「謝ることないよ。ぼくもそのコのご両親
    に話された時に初めて聞いた病名だった
    から。」

カラム「どんな病気なの?」

ゼスク「目を覚ましたら、赤ん坊の時に何からな
    にまで戻っちゃう病気。話すことももち
    ろんできないし、ぼくのことだってわか
    らない。ぼくらが出会う前の状態だか
    ら。原因はわからないみたいなんだ。」

カラム「...」

ゼスク「それ聞いてさ、悔しくて。ずっと仲良く
    してた、家族のように。何をするのにも
    一緒だった。なのに、ペルユだけが戻っ
    ちゃった。ぼくのこと...いや、記憶ごと
    ね。」

カラム「その感じだと...思い残しがありそうだ
    ね?」

ゼスク「そうだね。いっぱいあるよ。あるけど、
    ぼくの力で叶えられそうなこと数個、何
    もしてあげられないままだった。」

カラム「いや、今からそれをやればいいじゃ
    ん!」

ゼスク「無理だよ。」

カラム「なんでよ!今からやろうよ!何するの?
    なんでも手伝うよ!」

ゼスク「だから無理なんだって!」

カラム「諦めないでよ!何もしないで落ち込ん
    で、それじゃ何も変われな...」

ゼスク「もういないんだよ。この島に。」

カラム「...」

ゼスク「ぼくのことを考えてくれたんだと思う。
    ご両親が病気のことを話しに来てくれた
    時、ぼくは泣きもせず、放心状態。気が
    ついたら、床に額を擦り付けてた。」

カラム「...」

ゼスク「その日から、外には出れず、自分をひた
    すらに責めてた。何の意味もないのは早
    い段階で気づいてる。けど、止めること
    ができない。自分を責めることが、自分
    自身を保つ行いということに気づくか
    ら。」

カラム「...」

ゼスク「やっとの思いで外に出ると、"ペルユを
    いままで本当にありがとう。ちゃんと伝
    えたかった。ただ、それをしてもしなく
    ても、ゼスクは辛い思いをするとぼくら
    は感じた。だからゼスクには一切伝えず
    にこの島を出ます。どうか、ペルユの存
    在を忘れずにいてあげてほしい。元気で
    な。風邪引くんじゃないぞ!ぼくらはも
    う面倒見てやれないからな!"って書い
    てある紙が置いてあった。それが今。」

カラム「じゃあさ、ちょっと提案してもいい?」

ゼスク「なに?」

カラム「わたしカラム。よろしく!」

ゼスク「ぼくゼスク。よろしく。」

カラム「わたしをペルユちゃんと同じ幼馴染だと
    思って今日から過ごしてみない?」

ゼスク「君のことを?」

カラム「君じゃなくて、カラム!カラムちゃんっ
    て呼べばいいのよ!わたしもゼスクくん
    って呼ぶから!」


ヘレノ「そうだったんだね。」

ゼスク「その日から幼馴染としてお互い接するよ
    うになったんです。」

ヘレノ「カラムちゃんがいなくなっちゃったのっ
    て...」

ゼスク「何日かに1回っていうペースで遊んでた
    んです。集合場所も決まってて。けどそ
    の日は、集合場所に来なかった。そこに
    置いてあったのが...」


ゼスクくんへ。
わたし、この島を出ます。互いに仲良くなって、感じました。あなたはもう成長したって。わたしに出来ることはもうないと思う。ゼスクくんとの今までの素敵な時間、ほんとうにありがとう。とても楽しかった。あなたは、これからも前に進んでいくべきだよ。いつかまた会えるといいな。その時まで...


ヘレノ「不思議なコだなー...ゼスクくんはそのコ
    に会いたいの?それともペルユちゃんに
    会いたいの?」

ゼスク「それは...」

ヘレノ「いや、いいじゃん!どっちにも会いたい
    でさ!」

ゼスク「はい!カラムにもペルユにも会いたいで
    す!」

ヘレノ「ゾスーも同じ気持ちよね?」

ゾスー「もちろん。舟のスペース増やせる?」

ヘレノ「うん!今作ってたさ、ふたり乗りの舟
    を、あと一艘作ってくっつけちゃう!」

ゼスク「あの...おふたりはなにをしようとし...」

ゾスー「この島には、おれが知ってる限りだと探
    してるふたりはいないんだよね。」

ヘレノ「あと、おれらさ、今日この島を出ようと
    思ってたのよ!だからゾスーにロープを
    取ってきてもらったわけ!」

ゼスク「今日じゃなかったら、お互いに会えてな
    かったかもしれないんですね!面白いで
    すね!」

ヘレノ「でしょ?面白いよね!」

ゼスク「ご一緒させてください!」

ゾスー「もちろんだよ!じゃあ一緒にロープ取り
    に行こ。たぶん足りないから!」

ヘレノ「よろしく!」


次の日...


ヘレノ「おっはよー!」

ゾスー「おはよ。」
ゼスク「おはようございます!」

ヘレノ「もう準備はできてるからね!」

ゼスク「ありがとうございます!」

ゾスー「あれ?ヘレノ?」

ヘレノ「ん?どうかした?」

ゾスー「赤水に舟が浮いてるけど...」

ヘレノ「うん!青水サイドはダアヌに任せよ!」

ゾスー「なるほどね。わかった!」

ゼスク「ダアヌ?」

ヘレノ「おれたちがこの島を出るきっかけを作っ
    てくれたお友達!」

ゼスク「そうだったんですね!ダアヌさんには感
    謝しなきゃ...ダアヌさんにも是非ともお
    会いしたい!」

ヘレノ「さあ!乗って乗って!」

ゾスー「これバランス大変だね。」

ヘレノ「おれとゾスーが前に乗ったら、ゼスクは
    すぐに舟と舟を跨って!そうしたら大丈
    夫だと思う!」

ゼスク「わかりました!」

ヘレノ「それじゃいくよ!」

ゾスー「乗るよ。」

ゼスク「はい!」


ヘレノから、左前。ゾスーが間髪入れずに隣の右前。ヘレノの後ろからゼスクが乗ろうとした瞬間、右側のゾスーしか乗っていない舟がゆっくりと傾いた。


ゾスー「あら?なんか沈んでいってない?」

ヘレノ「もしかして重くなった?ってそんなこと
    言ってる場合じゃないわ!ゼスク!跨が
    なくて大丈夫だから、おれの後ろ乗って
    くれる?」

ゼスク「あ、はい!わかりました!」


こうしてヘレノ一行は、テフランドから新たな島へ向かうことに。舟が一瞬傾くハプニングはありつつも、無事に赤水の旅をスタートさせた。

一方その頃...


ダアヌ「あ!新しい島だ!やったー!」

━━━「おーい!こっちこっちー!」

ダアヌ「お!島のコだ!今行きまーす!」

━━━「やったー!どんなコなんだろう...楽しみ
    だなー!」

ダアヌ「はじめまして!声かけてくれてありがと
    うございます!」

━━━「そんなそんな!そうだ、ようこそ"コモ
    ランド"へ!」

ダアヌ「コモランドっていう島なんですね!ダア
    ヌって言います!よろしく!」

エダン「ぼくはエダン!ダアヌよろしく!」

ダアヌ「エダン!ひとつお願いがあるの!」

エダン「ん?なになに?」

ダアヌ「コ助けがしたいの!」

エダン「え?コ助け?」

ダアヌ「そう!ぼくね、色々な島に行ってきたん
    だけど、その島のコたちの手助けをメイ
    ンで島を回ってきてるの!」

エダン「そうなんだ!ってことは、この島で、例
    えばだよ?例えば、ぼくがこの流れでダ
    アヌに、これを手伝ってほしいって言っ
    たら、それが終わり次第、また次の島に
    行っちゃうの?」

ダアヌ「そうだね!悲しいけど...」

エダン「じゃあいやだ!絶対に頼まない!」

ダアヌ「えー!なんでよ!まだなんの関係もない
    じゃん!」

エダン「だから嫌なの!普通だったらこうはなら
    ないよ?その時が来るまで仲良くしよっ
    て思うけど、なんか嫌なの!」

ダアヌ「でもなー...そう言われても、マイルール
    だから...」

エダン「じゃあわかった!」

ダアヌ「切り替え早くない?」

エダン「ぼくの手助けをしてくれるんだよね?」

ダアヌ「そうだよ?」

エダン「ぼくさ、小さい時からずっとひとりぼっ
    ちなの。というのも、ぼくと同じような
    コたちと遊ぶことはあっても、みんなに
    は相棒がいたの。ぼくを除いてね。」

ダアヌ「うんうん」

エダン「だからお願い!」

ダアヌ「相棒になってほしいってことだよね?」

エダン「できるよね?」

ダアヌ「もちろん!じゃあ今日から相棒ね!」

エダン「え?ほんとうにいいの?」

ダアヌ「どうする?やめる?」

エダン「いや、まさかだったから。断られると思
    ってたから、びっくりしちゃって。」

ダアヌ「エダン?コモランドのこともそうだけ
    ど、まずはエダンのことを教えてよ!」

エダン「ありがとうダアヌ。わかった!とりあえ
    ずさ、ぼくの住処来てよ!」

ダアヌ「こちらこそありがとうね!うん!」


一方その頃...


ヘレノ「ありゃりゃりゃ雨降ってきちゃった!」

ゾスー「しかも急に真っ暗になっちゃったね。」

ゼスク「...」

ヘレノ「ゼスク?大丈夫?」

ゼスク「...あ、なんか言いましたか?」

ヘレノ「雨降ってきたあたりくらいからかな?ゼ
    スクの声をしばらく聞いてなかったから
    さ、まさか水の中落ちてないよなーって
    思ってね!」

ゼスク「あ、はい...大丈夫です。心配してくださ
    ってありがとうございます。」

ゾスー「にしても、ダアヌが島出てこんなすぐに
    おれたちまで出ちゃうとはね。」

ヘレノ「ほんとそうだね!出る予定ではいるんだ
    けど、いつになるかはまだわからないな
    ーこれから決めようかなーって感じだっ
    たもんね!」

ゼスク「(...チョン モニュ)うわー!」

ヘレノ「ん?どうした!」
ゾスー「なになに?」

ヘ&ゾ「うわ!眩しい!」

ロピメ「バレちゃったー!悔しいなー!」

ヘ&ゾ「え...その声って!」

ゼスク「何の、どこからの声ですか!」

ロピメ「勝手に乗っちゃってごめんなさい!」

ヘ&ゾ「ロピメちゃん!」

ゼスク「ロピメちゃん?」

ゾスー「そうだよね、ゼスクは知らないよね。」

ヘレノ「話すと長くなっちゃうから、簡潔に説明
    すると、テフランドのガクヤ湖を守る妖
    精さん!」

ゼスク「妖精さん?...え!妖精さん!」

ロピメ「驚かしてごめんなさい!はじめまして!
    ロピメって言います!よろしくね!ゼス
    クくん!」

ゼスク「よ、よろしくお願いします!...ていう
    か、すごい白光ですね!」

ロピメ「ごめんね、みんなの前に自分から姿を現
    すと、こんな感じで光っちゃうの!」

ゼスク「いろいろ理由があるってことですね!」

ロピメ「そうそう!また時間ができたら、お兄さ
    んたちとの出会いも話しちゃおっか!」

ゼスク「はい!是非お願いします!...あ、目が慣
    れてきました!ロピメさん!改めてよろ
    しくお願いします!」

ロピメ「よろしくね!」

ゾスー「ロピメちゃん!なんでガクヤ湖から離れ
    られてるの!」

ロピメ「なんで離れられてるんだろうね...」

ヘレノ「えっとー?まさか、無理やり出たら出れ
    ちゃったみたいな感じ?」

ロピメ「いやいや!そうじゃないよ!」

ゾスー「一体何があったの?」

ロピメ「お兄さんたちが帰った後だった...」


ガクヤ湖...


ロピメ「もうお兄さんたちともさよならか...」

━━━「ロピメ様...」

ロピメ「ん?だれ?」

━━━「はじめまして、ロピメ様。」

ロピメ「えっと...」

━━━「ロピメ様は、144周の守護を無事に終
    えられました。ほんとうにご苦労様でご
    ざいました。」

ロピメ「ん?なんです?144周?全くわからな
    いんですけど...」

━━━「ロピメ様。先程お話しされていた方々
    は...」

ロピメ「お兄さんたちは、私を助けてくれた方々
    で、お友達です!」

━━━「そうでしたか...ご一緒しなくてよろしい
    んですか?」

ロピメ「もちろん行きたいです。ただ、ガクヤ湖
    の妖精の私が、ここを離れることなんて
    出来ないです。」

━━━「ロピメ様のご意向をお聞きできてよかっ
    たです。どうぞ行ってくださいませ。」

ロピメ「え?行っていいんですか?じゃなくて...
    あなたがたは一体誰なんです?1から説
    明してください!」

━━━「私たちの普段は、光り輝く蝶の姿をして
    おります。妖精と言われたら妖精なのか
    もしれませんが、正式な呼び名は"島神
    "です。テフランドの守護神です。」

ロピメ「そ、そうだったんですか!すみません!
    誰なんですかなんて言って、失礼を...」

━━━「とんでもございません。急に色々と言っ
    てしまったのは私たちなので。」

ロピメ「いえいえ。それで、話を戻すと、144
    周というのは...」

━━━「はい。妖精の皆様は、ロピメ様の認識通
    り、この場所を守護してくださいという
    カタチで守っていただいておりました。
    ですが、12年を12回まわっていただ
    くことで、そこからは妖精様のご意向で
    様々な様式に変わっていただくことが出
    来るようになると言ったことでございま
    す。長い説明にはなりましたが、お分か
    りいただけたでしょうか?」

ロピメ「なんとなく分かりました!...ということ
    は、ガクヤ湖から離れてしまっても問題
    はないということですか?」

━━━「仰る通りでございます。帰ってこられる
    その日まで、私たちが守っておきます。
    なので、ロピメ様。どうか悔いの残らぬ
    よう、動き出してください。」


ロピメ「ざっとこんな感じかな!」

ヘレノ「光り輝く蝶...ってそれ!ツヲパヲ兄妹が
    言ってたやつじゃん!」

ゾスー「(あの時みた蝶が、島神だったのか。)」

ゼスク「島を出発するときに舟が傾いたのはロピ
    メさんが乗ったからだったんですね!」

ロピメ「そうそう!恐らく、何日か後には島を出
    てしまうんじゃないかと思って、水辺を
    張り込んでたの!」

ゾスー「なんでゼスクは、透明のロピメちゃんに
    気づいたの?」

ゼスク「不意に横見たら、雨粒に縁取られた人型
    が、ちょこんと座ってたんですもん!触
    ってみたら柔らかい感触が返ってきたか
    ら驚いちゃって!」

ゾスー「ってことは、ロピメちゃんの姿が見えな
    いだけで、ちゃんとそこにはいるって仕
    組みなのか...」

ロピメ「もしかしたら、効力が弱まっちゃったの
    かも。ガクヤ湖にいる時とは何か違うん
    だよね...」

ヘレノ「何はともあれ!また会えてよかったよ!
    今から、ゼスクの会いたい人に会いに行
    くから!その後にダアヌを探す!そんな
    予定だよ!」

ロピメ「わかりました!お供します!」


一方その頃...


ダアヌ「エダンはひとりでここに?」

エダン「そうそう!もしあれだったら、一緒に住
    む?」

ダアヌ「広いし、綺麗だし、そうする!」

エダン「ダアヌは正直だね!面白い!」

ダアヌ「エダン?今から何するの?」

エダン「まずは、ぼくたちの相棒記念日というこ
    とで、花冠をつくろうよ!」

ダアヌ「花冠?いいね!つくろつくろ!」

エダン「住処の近くに、綺麗な草原があるの!そ
    こでつくろ!」

ダアヌ「はやく行こ!」


ロングラス地帯...


ダアヌ「そういえばさ?」

エダン「なに?どうかした?」

ダアヌ「なんで花冠をつくるの?」

エダン「なんでって...記念日と言ったら花冠でし
    ょ!ずっと仲良くいたいから、肩書きだ
    けの相棒は嫌だからさ!」

ダアヌ「記念日って花冠なんだね!知らなかっ
    た!」

エダン「ダアヌは花冠つくったことある?」

ダアヌ「いや、つくったこともなければ、実際に
    見たこともないかも!」

エダン「わかった!じゃあふたりで、ひとつの花
    冠をつくっちゃお!」

ダアヌ「それいいね!」

エダン「まずはね...これこれ!この小さくて茎が
    ちょっとだけ長い草!これを集め...」

ダアヌ「(ハハハ...コレイイジャン...)え、なにいまの!」

エダン「わっ、なに急に!どうしたの!」

ダアヌ「一瞬なんだけどね?見たことあるような
    ないような...映像なんだか記憶なんだか
    がハッキリしない...とにかく不思議なこ
    とになったよいま!」

エダン「なんだそりゃ!気になるけどとりあえ
    ず、つくるものつくっちゃお!」

ダアヌ「そうだね!次は何が必要?」

エダン「さっきの茎で土台は大丈夫だろうから、
    次は花でもつけちゃう?」

ダアヌ「つけよつけよ!」

エダン「あそこに見える?綺麗な色した場所!」

ダアヌ「すっごい綺麗なとこだー!行ってみよー
    っと!」

エダン「ちょっとー!置いて行かないでよー!」

ダアヌ「うわぁ...ほんと綺麗。あ!大きい花見つ
    け...(オオキイハナミツケタ...カクシテオカナキャ...)うわ!ま
    た出てきた!」

エダン「また出てきたの?」

ダアヌ「ほんとなんなんだろこれ...ま、いいや!
    それより、大きい花見つけたよ!」

エダン「すごい大きいね!よし、じゃあそれもい
    くつか持って帰ろうか!」

ダアヌ「あれ、住処でつくるの?」

エダン「ダアヌの不思議現象がさ、この場所に来
    て起こったじゃんか?だから戻った方が
    絶対よくない?」

ダアヌ「そういうことね!ありがとう!」


次の日...


エダン「やったー!やっと終わったー!」

ダアヌ「エダンおつかれさま!」

エダン「だいぶ時間かかっちゃった...ぼく、細か
    い作業苦手みたい。たくさん失敗しちゃ
    った。悔しい...」

ダアヌ「なんで?どうしてそんなに落ち込んでる
    の?」

エダン「だって...こんなに小さくなっちゃって
    さ、なんならブレスレットよこれ。」

ダアヌ「それでいいじゃん!花冠をつくったか
    ら、細かい作業が苦手なことに気づけた
    わけだし、失敗したから、こんな可愛い
    ブレスレットが出来たわけ!」

エダン「ダアヌ...」

ダアヌ「失敗したことを失敗したって自分で思わ
    ないこと!その先に"経験"があるんだ
    よ!これは相棒からの初アドバイス!」

エダン「ありがとう...そうだよね。この経験が出
    来たことがいい事だよね!」

ダアヌ「そうそう!そういうこと!明るくいこう
    よ!あ、その代わり!この"花カンムレ
    ット"は頂いたぞっ!」

エダン「もしかして気に入ってくれたの?」

ダアヌ「当たり前じゃん!これつけて明日外出た
    いくらい!」

エダン「じゃあ明日さ、ぼくらが出会った海辺と
    は逆の海辺行ってみない?」

ダアヌ「それいいね!決定!」


次の日...


ダアヌ「いい天気でよかったね!」

エダン「よかったよー!あ、そうだ!」

ダアヌ「なに?」

エダン「ダアヌは今までさ、どんな島に行ってき
    たの?」

ダアヌ「それがさ、この島に来る前のテフランド
    のことしか覚えてないんだよね...」

エダン「あれ?色々な島に行ってきたって言って
    なかった?」

ダアヌ「うん、色々な島に行った。覚えてること
    もあるはあるの。リバールはずっと左だ
    ってこととか、コ助けをしてから次の島
    に移動してることとか。」

エダン「リバール?」

ダアヌ「リバールって言うのは、テフランドで仲
    良くなったコがつくった略語でさ!移動
    するときの色水、赤・白・青、どれを選
    ぶかって言うことなんだ!ぼくも初めて
    使った!」

エダン「そうなんだ!じゃあさ、テフランドで仲
    良くなったコとの出会いを教えてよ!」

ダアヌ「わかった!テフランドの友達はふたりい
    て、ゾスーとヘレノってコだった!最初
    の出会いはゾスーが島に着くのを手助け
    してくれたんだよね....」


とある日...


ダアヌ「手助けしていただいてありがとうござい
    ます!」

ゾスー「いえいえ、大したことはなにも。」

ダアヌ「はじめまして!ダアヌって言います!」

ゾスー「ゾスーです。よろしく!」

ダアヌ「ゾスーさん!よろしくお願いします!」

ゾスー「さん付けしなくて大丈夫だよ。ゾスーっ
    て呼んで!」

ダアヌ「わかった!ねえ、ゾスー?」

ゾスー「なに?」

ダアヌ「なにか困ってることない?」

ゾスー「え?いきなり?」

ダアヌ「なんでもいいから!」

ゾスー「あるはあるよ?」

ダアヌ「教えて!」

ゾスー「いや、でもねー...」

ダアヌ「いいから!」

ゾスー「わかった...おれの友達がさ、外に全然出
    てくれないんだよ。」

ダアヌ「理由は?何かわかる?」

ゾスー「外が嫌いなわけじゃなくて、コ付き合い
    がとにかく苦手みたいなんだよね。」

ダアヌ「なるほど...ゾスーに何か考えある?」

ゾスー「今さっき、これいいかもって思った考え
    はあるんだけど...」

ダアヌ「どんなの?」

ゾスー「ヘレノって言うんだけど、魚が好きなん
    だよね。だから、珍しい魚がいるってい
    う噂を住処周りで流して誘導する作戦!
    どうかな?」

ダアヌ「それいいじゃん!」

ゾスー「場所なんだけど、ヘレノの住処近くに、
    湖があるの!そこに現れたらしいってい
    う内容の噂を流したら、多分だけど上手
    くいくんじゃないかなって思ってる!」

ダアヌ「魚の名前ももしかして決まってる?」

ゾスー「そこがまだなんだよね...」

ダアヌ「"カエルウオ"とかどうかな?前に進ん
    で欲しいっていうゾスーの気持ちも込め
    てさ!」

ゾスー「それにしよう!」

ダアヌ「ぼく、色々な声出せるからさ、ヘレノく
    んの住処近くで噂流しておくよ!」

ゾスー「ありがとう!で、その湖にカエルウオを
    釣りに来た島のコとして、ダアヌが居て
    くれたら、ヘレノとも仲良くなれるんじ
    ゃないかな!」

ダアヌ「この計画が成功して、ヘレノくんとも仲
    良くなれるといいな!」

ゾスー「ダアヌに会えてよかった!ありがと!」

ダアヌ「こちらこそだよ!とにかく、楽しもう
    よ!」


エダン「素敵な出会いだね!」

ダアヌ「ほんとうにそう!たまたま海辺にいた島
    のコに手助けしてもらって、そのお返し
    をしたら、ぼくも幸せになって!」

エダン「もうすぐで着くよ!」

━━━「ん?あれって、そうだよね?」

━━━「ほんとだ!そうだよ!」

━━━「どうかしました?...ってあれって!」

ゾ&ヘ「ダアヌ!」
ゼスク「カラム!」

ロピメ「え、ダアヌさん!」

ダアヌ「ゾスー!ヘレノ!...と、あとのふたりは
    誰だろう...」

エダン「え!テフランドの島のコじゃん!...って
    いうか後ろのコすごい光ってない?」

ゾスー「何日かぶりじゃん!紹介するね!この光
    ってるコはロピメちゃんだよ!」

ダアヌ「あー!ほんとだ!言われてみたらロピメ
    ちゃんじゃん!お久しぶりだね!」

ロピメ「お久しぶりです!」

ヘレノ「このコはね...」

ゼスク「カラム!会いたかったよ!」

ダアヌ「ん?ちょっと、ちょっと待って!ぼくは
    ダアヌだよ?カラム?」

ゾスー「ゼスク?このコはダアヌだよ?」

ゼスク「あ、これ!ちゃんと持ってきたよ!」

エダン「花冠だ!綺麗につくれてますね!ぼく昨
    日つくったんですけど、見ての通り、ブ
    レスレットになっちゃったんですよ!」

ダアヌ「ほんとだ!花冠...(モッテイテクレタンダネ...)」

エダン「...」

ゼスク「そっか...似てるってだけでしたか。すみ
    ませんでした。」

ゾスー「似てるコはいくらかいるっていうし!気
    を落とすことないよ!」

ゼスク「おふたりともすみません。ぼく、次の島
    に行きます。ここまで連れてきてくださ
    って、ありがとうございました。それで
    は。」

ロピメ「ちょっと!ゼスクくん!待って、舟はど
    うするの!しっかりとした舟が浮かんで
    いればいいんだけど...」


ゼスクくんへ。
わたし、この島を出ます。互いに仲良くなって、感じました。あなたはもう成長したって。わたしに出来ることはもうないと思う。ゼスクくんとの今までの素敵な時間、ほんとうにありがとう。とても楽しかった。あなたは、これからも前に進んでいくべきだよ。いつかまた会えるといいな。その時まで...

この花冠を大事に持っていてくれたら嬉しいな。ふたりして、遊びながら集めた材料でつくった花冠を。


- 朋 完 -

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