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対話録 : はじめの感触

※「対話録」シリーズは、作者の体験をベースに描いた、見えない世界の住人との対話記録 兼 物語です。

はじまりは、ただの好奇心だった。
どこを起点として語るのが正しいのかはわからない。けれど、私の変化の起点は、すべて好奇心からだったように思う。


あの日、私は都内のある神社へと足を運んだ。そこはそれまで、年に一度は必ず参拝をしていた馴染みの場所だった。
1年ごとに通うようになった理由は、たいしたものではない。数年前になんとなく立ち寄り、ふと授与所で可愛いお守りを見つけたからだ。お守りには効力があるから年に一回は変えましょう、と何かで読んだのを、これまたなんとなく律儀に実行していた。
どこかに定期的に通う、ということが不得意な私にそれができたのは、純粋にその場所が気に入ったのもあるし、その神社がオリジナルで出していたお守りにも愛着が湧いたからだろう。

そんな馴染みの場所ではあったが、この日はいつもと違う心構えで鳥居をくぐった。いつもより何故か、心の奥底がわくわくとしていたのだ。
その日の目的は、新たなお守りを手に入れるためだけではなかった。つい最近本で目にした「あること」を試してみるためだった。


当時は昨今のスピリチュアルブームに火がつき始めた時期で、パワースポットだの引き寄せの法則だの魂だの、なにやら不思議なワードの並ぶコーナーが書店の一角にすでに出来ていたように思う。私は書店や図書館に赴けば、何の気なしにふらふらとコーナーをねり歩き、あらゆるジャンルの国境を越えて旅をするのが好きだった。
そうしていつものように、並んだ本のタイトルや表紙を眺めていて、ふと気になる一冊を見つけた。ほっこりとした絵柄で龍のイラストが描かれたその本は、神社仏閣に関する内容だとタイトルと帯から見てとれた。
もともと神社やお寺が好きだった私は、その場で本を手に取りページをめくってみた。はじめの方に軽く目を通していて、すこし驚いた。本の著者は、神社仏閣にいる神様や仏様と話ができるという。いわゆる霊能者というやつだろうか。
最近の流行りは何となくわかっていたし、そういった分野に抵抗があるわけでもなかったので、面白半分でその本のページをめくっていった。
その内容は、著者が訪れた神社仏閣での「神仏との対話」を丁寧に描いたものだった。いくつか知っている神社の名もあがっていて、中には行こうと思えばすぐに行ける距離の場所もあった。
私は一度その本を棚へと戻し、また手に取った。なんとなく、好奇心がうずく。私はそれを抱え、レジへと向かったのだった。

それからというもの、買い上げた本は一晩で読了。著者が出していた他の本も一気に読み漁る程度にはハマってしまった。それまで特別興味があったジャンルではなかったはずなのに、何が琴線に触れたのか、夢中になって読んでいったのだった。
実のところ、本に描かれた「対話」を読みながら、私は自然と涙が出た。当時の自分には、その理由がよくわからなかった。単純に「神のことば」というものに感動したのか、著者の描き方が胸に響いたのか。ともあれ、そんな感情の動きもあったおかげで、私は「神仏との対話」に興味を持ったのだ。


そう。そして私は、ここへ「試し」にきたのだった。
単純に、純粋に。自分にも何かわかるかもしれない、と。
良く言えば無邪気に、悪く言えば無鉄砲に。

といっても、それまで自分に霊能力があるだなんてことは考えたことも無かったし、ましてや神様の声など聞いたこともない。さすがの私も、試しに行っていきなり未知の交流が始まる…なんて夢想していたわけではない。
つまり、何の算段もなく神社に訪れたわけではなかった。私の好奇心を揺さぶったあの本の著者が、神仏の存在を感じられるサインとやらを書いてくれていたのだ。それはごく簡単でわかりやすく、おそらく霊能力的な要素も介さないであろう、現実的なものばかりだった。
これなら何かしら発見があるかもしれないと思えたし、たとえわからなくても別に問題はない。根本の理由は「ただ何となく試したくなった」だけであり、いつもと違った感覚で参拝を楽しむのも悪くないと考えたからだ。

…冷静になって考えると、本の内容を簡単に鵜呑みにするというのはちょっと阿呆な気もするが。まあ、一人で楽しむぶんには問題ないだろうし、なにぶん気になったことは体験したい性分なのだ。なんだか面白そうで、それがすぐにやれそうなことなら、何はともあれやってみる。私は昔から割と、そういうスタンスなのだった。


さて、その好奇心がどんな結果を生んだかというと。

この日の参拝では、驚くことにーーほとんど、何もわからなかった。

境内はいつも通り清々しく、心地がよかった。本の教えにならい、頭の中で、おそらくそこに居るらしい「神様」へと話しかけてみたり、意識を向けてみたりなどしたが…明確な何かが返ってくるとか、お告げが聞こえるとか、そんなことはなかった。
現実的なサインとやらを見つけた気もするが、もはや今になってはその記憶は曖昧だ。ということは、さほど印象に残る出来事は起こらなかったのである。

けれど私は、特別がっかりもしなかった。純粋に、その実験が楽しかったからだ。
それにこれはチャレンジ一発目。霊能力とかはよくわからないが、最初は誰しもこういうものなのかもしれない。というか、まあ、当時の私は、霊能力を鍛えようとかいう心算はそもそも一切なかったんだが。ともあれ、また来た時には、何かがあるかもしれない。そのくらいの楽観で、鳥居の手前にある門をくぐった。

そしてふと、そのすぐ横にあった小さな稲荷神社が目に入った。そうだ、ここもお参りしよう、といつもの流れで足を向ける。
稲荷神社用の小さめの鳥居をくぐり抜けて、そういえば、メインの本殿とここは、少しだけ雰囲気が違うかもしれないなと思う。ごく、なんとなくの感覚ではあったが。神様の気配を感じとる、というのはこういう違いを見極めることなのかもしれない。
私は柏手を打ち、目を閉じて手を合わせる。そこにいるのであろう、お稲荷さんへと意識を向けてみた。

ふわり。

「?」

…はて。私は瞼を開いた。
目を開けたところで、そこには変わらぬ様子でお稲荷さんの社がある。思わず首をかしげ、訝しげにその社を見つめた。ーーが、すぐに、背後に参拝客が並び出した気配がして、慌てて一礼をしてその場を離れた。

今のは一体?と思って、稲荷神社を振り返る。
ごく僅かではあったのだが、何か「あたたかい気配」が、私を囲うように流れたような気がしたのだった。
今のは、お稲荷さんの気配なのだろうか?疑問符を頭上にいっぱいに浮かべたが、考えても一向に何もわからない。
ひとまず私は考えるのをやめて、「そう感じたこと」だけは覚えておくことにした。今は参拝客も多いようだし、また今度来てみよう、と。
私はなんとなく、稲荷神社へと再び小さく頭をさげ、その場を後にした。


最初は、そう、そんな僅かな感触だった。
その感触は、私へのささやかな後押しだったのだろう。
好奇心をつついた「それ」が、その後の私を導いたのだから。

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(都内・某神社にて)

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魂と自分を結ぶ、スピリット・リーダーです。 // 霊能者。チャネラー。スピリチュアルメッセンジャー。アーティスト。旅人。 // セッションやイベント開催、作品づくり等、気ままに活動中。 詳しくは→ https://mt-spirit.amebaownd.com/

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文章 - 「対話録」シリーズ
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「対話録」シリーズは、作者の霊能体験をベースに描いたお話です。いわば見えない世界の住人との「対話」記録。小説として読んでもよし。

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