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7/31[Wrote Bye Megumi]

太陽に当たると体調が悪くなる。でも真夏の日光浴はとても気持ちがいい。

あたしはずっと真夏の太陽に当たることも真冬のゲレンデに赴くことも絶対禁止されていた。少しくらいはいいじゃないと思う余地がないほどにガチガチに考えが固められていた。

子どもの頃からの習慣、親の教えは三つ子の魂百までという諺に近い概念を感じる。

あたしは今、親がいなくなって、基実くんや卓さん、衣子さんたちから悪い影響を受けている、実の両親、その両親に付随する親戚、それからあたしが生まれ育った故郷目線で言えば。

小児科に入院していた頃3歳の女の子と友達になった。腎不全手前の腎臓疾患で、塩分制限がされていた。腎臓移植とまではいかなかったものの、入院中、腎臓機能の度合いを見るために尿の量を測ることも治療の一環だったから、あらゆる飲み物は計量後でないと飲むことを許されなかった。

若いご両親のもとに生まれお兄ちゃんがいた。ひとりだけフライドポテトが食べられない悔しさを3歳ですでに知っていた。

でも柔軟な担当医とお母さんは彼女に言った、

「特別な日だけはフライドポテトをみんなで食べよう!」。

前後で塩分を調整すればいい、そんなふうに担当医は考えてくれたらしい。

あたしは夏が苦手だ。太陽もあたってはいけないと教えられているし、実際に火の光に存分にあたったあとは疲れてぐったりしてしまう。

あたしは免疫レベルでストレスに弱い。あたしの皮膚はストレスに弱い。紫外線のストレスにも弱いから、人よりも火傷の程度が重くなる。日光に過敏に反応するのはストレスのリミッターが低すぎて、そのリミッターを超えると自分の免疫反応が自分に向かってしまう。自己免疫疾患だから。

脱毛やエステも実のところできない。あれは紫外線照射だから医療系の脱毛でも応相談となるらしい。

なんでもお揃いがいいのにとあたしは最近気分がふさぎ込んでいた。

基実くんも卓さんも、海外の友達以上恋人未満の人たちもみんな刺青をしている。かっこいい刺青というよりも、忠誠を誓い合うような刺青だ。

あたしも!あたしも!!と言いたかった。でも自分の体のことはある程度わかっているから、わがままを言って困らせることはできないと自制した。自制するから顔色も曇っていった。もしも正直に話したら、彼らの中の誰かは善意で「やってみようか!」と言ってくれるだろう。あたしはその気になって、刺青を入れて、結果皮膚が爛れたり病気が悪化してしまったら、彼らに重すぎる十字架を背負わせてしまっただろう。

夏になって火傷がひどくなってお揃いの指輪もつけられなくなった。大切な銀色の結婚指輪だ。金属アレルギーを併発した。

気分が塞ぎ込んでいる。マニキュアだけでもと卓さんも基実くんも寄り添ってくれたけど、あたしが彼らの真似をしたいから気分は晴れなかった。

外国の友達以上恋人未満のボーイフレンドたちも8月にはみんな遊びに来てくれる。実際に会っていろんな話ができるのに。かっこいい刺青を目にしたらあたしはまた気分が落ち込んでしまうかもしれない。。。

7月の下旬はそんなことにも悩まされた。不運にも実家の近況を知らされることも多々あって気分が滅入っていった。

衣子さんや正良さんはあたしが金髪にしても真っ赤なリップを塗っても、真っ赤なマニキュアをつけても、黒いストッキングを履いても眉を一瞬たりともひそめない。それどころかすごく嬉しそうに、というか、感嘆するように「すごく素敵!そっちのほうが似合うよ!」と言ってくれる。そんなことを言ってくれる人は、あたしの故郷にはひとりもいなかった。

小説についてもそうだ。基実くんも卓さんも忠兼さんもあたしの小説を楽しみにしていてくれる。「めぐの話はすごい!」って。そんなこと今まで言われたことがなかった。

正面から惑うことなく誉めてくれる人たちに囲まれている今の日々があたしはとても愛しかった。だからというわけではないけれど、彼らと共に生きるためなら諦められることも多かったし、苦手なことを平気でできてしまうことも多かった。


8月

あたしは勉強に集中することを決めた。小説家という職業を休職して、アマチュアの作家に出戻りすることにした。フィールドも変わることになる。

司法試験のために。英語で物語を作るために。英語で日本語レベルのジャーナリズムを表現するために。

なりたいものは多い。

ディズニーのショーの脚本家、検事、裁判官、ノベルライター。

今あたしがかろうじて持っているものでは何一つ願いが叶わない。

家族や親戚はそんなあたしの決断をソファに寝っ転がりながら、ビールを飲みながら、プロ野球中継のCMのついでに「いいんじゃない」と言ってくれた。

「だって、めぐちゃんが俺たちといることは変わらないんでしょ?じゃあ問題ないじゃん」。

あっさりした言い方にあたしは拍子抜けした。あたしの思いを尊重し、肯定してくれる人が父親以外にいるなんて!と。いや、父親よりもずっと肯定して尊重してくれていると感じている。

あたしには今、海外には国籍仮称の友達以上恋人未満がいる。

(本来の国籍にしないことはあたしたちFlagMakerの本意であることは誰もが知っていることだと思う。なぜならあたしたちは国籍を超えた地球人であるからだ)

Lee=Korea
Alex=England
Andrew=South Africa
kyle=America
charles=France
Lewis=Germany

「ルイスとアレックスが笑ってたよ、刺青って彫ることばかり考えないでシールだっていくらでもあるじゃんって」

パチンと何かが弾けてあたしは飛び上がって喜んだ。

「シャルルとアンドリューは顔をしかめてたよ。日本って刺青入れたら温泉入れないんでしょ?なんでそんな勿体無いこと真剣に考えるの?って」

8月が明日に迫っている。

畳の部屋で寝っ転がっている友人や、今はまだ物理的に離れている友人たちとのより親密で新しい生活がすぐそこまで来ている。











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