見出し画像

12月に読んだ小説

今読んでいるカズオ・イシグロが年内に読み終えられるか微妙な情勢ですので、これで打ち止めです。12月上旬はほとんど読めなかったですが、後半盛り返すことができました。

近くの図書館、年末年始は休みです。何冊か借りてあるので、それで乗り切るか、あるいは実家から送ってもらった太宰でも読もうかな。

皆さま、年末年始の読書予定はございますか? ふだん小説を読まない方も、これを機にぜひ1冊手に取ってみてはいかがでしょうか。


息吹(テッド・チャン)

寡作にもかかわらず、SF小説界隈では圧倒的な人気と知名度を得るテッド・チャン。短編集『あなたの人生の物語』に続く、2冊目の著作がこちらの『息吹』。9編の中短編を収めます。

原題は”Exhalation”。訳者あとがきにもあるとおり、Exhalationとは「息を吐きだすこと」「呼気」といった意味で、それを「息吹」とつけるところに、SFにありがちな大仰な感じと、文学的な雰囲気が、うまく織り込まれているように思います。どの短編も面白く読めました。『あなたの人生の物語』よりもいくぶん読みやすかった印象。SF的な思いつきを、よくもまた上手に物語に仕上げられるものです。以下、いくつかの短編について。

商人と錬金術師の門:不思議な輪っかを通り抜けると、20年先の未来に跳べる。逆にくぐれば過去に戻れる。そんな一種のタイムマシンを、アラビアンな舞台設定で描いた一編。ラストはちょっと切なくてよい。

息吹:空気の流れが、生命活動を規定している世界観。主人公たちはどんな見た目をしてるんだろう。ロボットみたいな感じなんだろうか。我々の世界でいうところの熱力学の概念を借用している。

ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル:「ディジエント」と呼ばれる仮想空間上の知性体。主人公は、ディジエントを育てるサービスの開発・運営会社のスタッフらしい。運営側の視点から、問題点をひとつひとつ解決していく。ときに解決できない問題も。近未来お仕事ものですね。

不安は自由のめまい:「プリズム」という機械によって、いわゆる「並行世界」の自分とコミュニケーションをとれるようになっている、という世界観。もしもあのとき違う選択をしていたら、自分はどうなっていただろう? 誰しもが思い浮かべるそんな疑問を、SFとして落とし込んだ一品。


心淋し川(西條奈加)

タイトルは「うらさびしがわ」と読むそうです。ときは江戸。根津・千駄木近辺を舞台に、さまざまな過去を背負った登場人物の心情を描写していく連作短編集。直木賞受賞作。

初めて読む作家さんですが、かなりよかった。素直で読みやすい文体・描写で、ストーリーも奇をてらわず、だけどちょっとした仕掛けやどんでん返しのサービスも忘れない丁寧な小説を読めました。時代小説初心者にもおすすめです。作者はファンタジーノベル大賞出身なんですね。時代物だと、そういうパターンありますね。

江戸ものって不思議です。我々の現代日本とつながった世界なのに、でもどこか虚構めいた、ファンタジックな雰囲気が残ってる。


三体(劉慈欣)

話題のSF超大作『三体』です。3部作の第1作だそう。

最高のSFだ!みたいな宣伝をどこかで聞いて、いつかは読もうと思っていた作品。中国語がオリジナルの作品を読むのは、SFに限らず、ほとんど初めてだろうと思います。

冒頭、文化大革命の真っ最中? 知識階級が、その思想の転換を迫られて迫害、処刑されるシーン。なかなかのインパクト。そして時代が飛んで……変てこなVRゲームが出てきて……? あやしげな太陽によって、何度も何度も文明が滅びる世界観のゲーム。このゲームはなに? ここで描かれている世界はなに?

どこまでネタバレするか迷いますが、とりあえず、地球と人類の存亡をかけた壮絶な戦いを描くお話、とだけ申し上げておきます。ゲーム周りの設定は、自分はマンガの『ガンツ』を思い出しました。全体には駆け足でハチャメチャな筋立てに思える。

すごく面白いかというと……うーん、微妙かな? まだ本作だけではプロローグといった感じで評価は難しい。2作目、3作目に期待。


パーマネント神喜劇(万城目学)

鴨川ホルモーからのファンです、万城目先生。もっとじゃんじゃん書いてくれたらいいのに。作品数少ないですよね。

どこか小さな町の由緒ある神社にまつられた神様が主人公。一人称で語ります。小太りでおじさんのような見た目らしい。中身も、妙にせせこましい、人間臭いおじさんそのまま。人のささいな、けれど大事な願い事を叶えようと力を発揮するけれど、うまくいったりいかなかったり。しがない中間管理職で、上司(?)からの評価にいつもびくびく。

ストーリー的には……一種の日常系だろうか。ちょっと時系列や話の流れが分かりにくかったかな。過去作の登場人物が出てきたのはうれしかった。

万城目は『ヒトコブラクダ層ぜっと』というのが最新作ですね? そのうち読みます。





この記事が参加している募集