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5月に読んだ小説

最近、感想を短い時間でうわーって書き殴れるようになったような。そのときの体調や、どんな作品について書くかにもよるのですけど、いったん書き始めると頭の中に言葉が沸いてきて書き留めるのがたいへんなことがあります。

さて、2022年5月に読んだ小説です。新しい作品ばかり。

読む!と宣言した太宰が進んでないし、昔の名作も読みたいと思いつつも、なかなか小説用の時間・体力をとるのも難儀ですね。


ヨルガオ殺人事件

カササギ殺人事件』の続編にあたる本作。

ミステリー作家、アラン・コンウェイの担当編集だったスーザンは、前作でなんやかんやあって、今はギリシャで恋人とのんびり暮らしています。

そんなスーザンのもとを、ホテル経営をしているという老夫婦が英国から訪ねてくる。娘が失踪したというのです。いなくなった娘さんは、アランの書いた小説『愚行の代償』を読んだ直後、「あの事件の真犯人がわかった」とメッセージを残して消えたとか。彼女を探す手伝いをしてもらえないか。夫婦はスーザンに訴えます。

あの事件……じつは夫婦の経営するホテルでは過去に殺人事件が起きており、犯人はすでに逮捕され服役中。真犯人とは? 犯人は別にいたというのでしょうか。そしてなぜ彼女は消えたのか。

多額の報酬を提示されたスーザンは、かつて自分も担当した『愚行の代償』を手に英国へと飛ぶのですが……

英国らしい暗く重たい雰囲気ただよう序盤の展開。どいつもこいつもあやしさ全開の関係者たち。それはスーザン本人も同様でして。さらには実際に全文が提示される『愚行の代償』の本編。だれがあの子を殺したの? 真相もまた苦々しいことこの上ない。

上下2巻。やや読みにくい翻訳(わざとだそうです)に加えて、間に挟まれた『愚行の代償』もあり、これは最高レベルの重厚感。上巻のゆったりとした展開と、下巻後半のすばらしい謎解き・伏線回収は、アンソニー・ホロヴィッツお得意の技なんですよね。お見事です。

カササギから読むのをお勧めします。重いのをじっくり読みたい方。時間をかけてどうぞ。



自由研究には向かない殺人

若者向けのポップな作品という評判を見かけたので、どうかな、ラノベみたいな感じなのかな、と思ったら。全然だ。ふつうに面白いや。

タイトルの「自由研究」とは、日本の理科の自由研究とはまったく感じの違う、実地調査と論文作成・発表を行うような高校生のまじめな課題のようです。楽しそうですね。

その「自由研究」で、過去の女性失踪事件を扱うことに決めた主人公の女の子・ピッパ。事件とは、5年前、この田舎町に住む女子高生・アンディが姿をくらまし、しかも直後、彼女と交際していた男子高校生・サルが自殺しているのを発見される、という一連の事件のこと。アンディは発見されていないものの、サルがアンディを殺害し、どこかに遺体を遺棄したという筋書きで決着しています。

サルは殺人を犯す人間ではない。そんな思いを強く持つピッパは、サルの弟のラヴィと協力し、「自由研究」という建前で関係者にインタビューを行っていくのですが……
 
いわゆる「ヤングアダルト」的な勢いとリーダビリティを持った作品ではありますが、謎解きのサスペンスは本格派。分厚い文庫だったものの、手書きのメモや、インタビュー記事など工夫をこらした材料もところどころ提示され、楽しく一気読みさせてもらいました。

それになんといってもピッパのキャラがいいですね。向こう見ずだけど情に厚い元気っこタイプ。紅の豚のフィオや、魔女の宅急便のキキをイメージしながら読んでました。

それにしても、アメリカの高校生ってフェイスブックに個人的な写真やなんかをふつうにアップしちゃうんですか……危ねぇな。



六人の嘘つきな大学生

自分、基本的に天邪鬼なんで、話題作にはアタリよりハズレのほうが多いという先入観を持っているのですが。本作はほんと面白かったな……

あまり事前情報を持たず、フラットな心持ちで、書かれていることを素直に読んでいくと最後まで存分に楽しめるのではないかと。就活ものだと朝井リョウの『何者』が思い浮かびますが、本作もおすすめですよ。


あらすじだけ。

とある新興IT企業の最終試験に進んだ6人の大学生。全員の合格もありうる。そんなふうに "そそのかされて" 和気あいあいと準備を進める彼らは、直前になって「合格者はひとりだけ」と明かされます。

緊張感に満ちた最終課題の冒頭。会議室の片隅に放置されていた封筒には、それぞれの「過去」を暴く証拠が入っていて……

と、これくらいは明かしてもよいでしょうか。いろいろ書きたいけどやめておきます。ぜひ本編をお楽しみください。一気読み必至。二度読み必至。

どのキャラも嘘つきですが、一番の嘘つきは作者やんな。このやろう。



北緯43度のコールドケース

北海道を舞台にした警察もの。江戸川乱歩賞。

道警の失態で犯人を取り逃がしてしまった過去の誘拐殺人事件をベースに、組織における秩序と正義のジレンマを描く本作。序盤は登場人物が入り乱れてたいへんに読みにくいのですが、中盤、事件は予想もしない展開へ。主人公・沢村の過去の因縁が深堀りされ、文章もこなれてぐっと読みやすくなってきます。

事件の真相もなかなかに新規性があります。本の末尾に添付されている江戸川乱歩賞の講評で綾辻行人も述べている通り、多少文章が下手でもセンスとアイデアがほしい、の意味が分かる。誘拐事件と「このアイデア」を組み合わせた作品を、わたしはほかに知りません。不勉強なだけかもしれませんけど。

新人賞らしい、あら削りな魅力のある作品だと思いました。



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