地方から始まる脱炭素の流れ
見出し画像

地方から始まる脱炭素の流れ


脱炭素化の流れは国よりも地方の方がはるかに速い。それぞれの試行錯誤の結果として、色々な取り組みがあって、どんどん進む。
その一端をお知らせしたい。(私の知っている範囲での話なので、他の動きがあったらぜひ知りたいのでお知らせください。)

【紫波町の事例】
2014年、エコハウスを中心とした分譲地であったため、エコハウスと明確に言える基準が必要だった。パッシブハウスの森さんにも相談し、年間暖房負荷50kWh/㎡から、海外でエコハウスと言えるとの話を聞き、それを導入しようとしたところ、役場職員が「紫波町だから、なんとか48(シワ)kWh/㎡にできないか。」と提案された。結構、難しい基準の想定を、さらに超えるとはどうして?と思ったが、それを採用。紫波型エコハウスの基礎となっている。役所の担当は、公民連携室という全ての懸案を横串に、ワンストップサービスをする部署。もともとは、宅地をそのままハウスメーカーに売ってしまうという案で進んでいたが、「オガールデザイン会議」からそれでは「循環型社会にならない」とダメ出しをされ、山形でエコハウスの経験がある私が関わることになった。私としても、建築の規制などを考えたことなどない。手探りから始めることになった。先行事例を調べ、補助金などを調べたりしたが、特にその予算はない。まちの工務店にそのノウハウを移転するための5回の講習会と実際のモデルハウスの建設に付き合ってもらい、実際の建設を見て習熟してもらった。さて、そこで参考にしたのは、下記の札幌のエコハウスの基準の作り方である。これらを参考に、工務店が建物燃費ナビで、消費エネルギーを計算することを課した。対応は役場職員(元ハウスメーカーにいた)はその確認を一気に引き受けている。

温熱に関して、単純に高性能にするのは窓を小さくすれば、簡単であるが、それでは日本の風土に合わないような閉鎖的な家になってしまう。そこで、ここでは年間暖房負荷を採用した。この指標が良いのは、南側の窓の日射取得を考慮に入れることができることである。従って、南側の窓が大きくなる。年間暖房負荷を下げるには、冬季には日射を取り入れることが重要になるからだ。もちろん、断熱は付加断熱必須。途中で厳しすぎる基準かと逡巡したが、地元の工務店は見事に作り抜けた。坪単価は65万円程度。快適な暮らしは評判を呼び、この住宅地以外の場所でも、この性能が欲しいと言われ、行列のできる工務店に成長した。
紫波町では、これに関する補助金はなし。県産材を使うことによって、得られる30万円程度は補給される。地域熱供給を進めている会社が、自社の地域熱供給(初期コストが100万円かかる)を使ってもらいたい一心で、経産省のZEHの補助金を取り、残りを施主に還元する方法で、一気に広がった。

↓参考にした制度
https://www.city.sapporo.jp/toshi/jutaku/10shien/zisedai/zisedai.html

【山形の事例】
https://www.pref.yamagata.jp/tatekkana/

山形県は2018年「やまがた健康住宅基準」を制定した。
山形の事例はおそらく山形エコハウスがきっかけである。山形は大きな都市は盆地にあり、ヒートショックが年間200人以上(交通事故死の4倍)になる。そこで、県では独自基準(Ua値による3段階)を制定し、国を超える基準(レベルⅢ、Ⅱ、I)をつくりだした。山形は地域区分が3〜5地域まである。寒冷地の3地域では、このレベルをレベルⅢを取るには、付加断熱は必須である。補助金は年によって違うが、一棟80万円程度で、補助金の申し込みにUa値を示す必要がある。ソフトは、建物燃費ナビ、QPEXなどから適宜選んでよく、確認申請機関がチェックする。この制度は、ヒートショックという健康上の問題と躯体の断熱性能を紐付けた点で画期的な制度である。

やまがた健康住宅は平成30年4月1日施行で
設計適合証の実績はH30年度29件、H31/R1年度48件、R2年度は10月末時点で57件となっております。


【鳥取の事例】
https://www.pref.tottori.lg.jp/293782.htm

【鳥取県の事例】「とっとり健康省エネ住宅」の概要は以下の通り。

<基準の策定>
・国の省エネ基準を上回る高い省エネ性能を持つ住宅を普及させることで、県民の健康の維持・増進、省エネ化の推進及びCO2の削減を図ることを目的に、戸建住宅の新築における県独自の健康省エネ住宅性能基準を令和2年1月に策定しました。

<検討経緯>
・建築と医療の学識経験者をはじめ、設計事務所、工務店、建材店などで構成される「とっとり健康・省エネ住宅推進協議会」に県も参画し、平成30年に協議会主催の講演会や協議会との意見交換において家の省エネ性能に関する公的なモノサシ(基準)を求める意見をいただき、令和元年から検討を始めました。

<検討段階での基準に対する思い>
・耐震や省エネなど最低限守るべき水準として国の基準示されていますが、国の基準を満たせば問題ないと捉えている消費者も少なくありません。
・基準改正により性能の低い家となっていくのは施主には耐えがたいことであり、真に高い性能を理解した上で自らが建てる家の性能を考えて欲しいという思いがありました。

<制度開始後の反響>
・高断熱・高気密住宅は単に基準を満たすだけでなく、高断熱・高気密住宅の設計や施工における留意事項を設計者や施工者に理解していただくため、県では技術研修を開催しました。
・この技術研修を受講し、研修終了後に行う考査(テスト)に合格された方が所属する企業を県が登録し、NE-STの認定においては、基準を満たすほか、県に登録された事業者による設計と施工を要件としています。
・令和2年の年頭会見で知事から基準策定の発表もあり、技術研修は県内の実務者320名の方に受講いただき、登録事業者数は設計142社と施工120社と大変多くの登録をいただいています。
・令和2年7月から認定及び助成を開始しており、11月末時点で41戸の申請を受け付け。
※申請状況 T-G1:19戸、T-G2:20戸、T-G3:2戸
※助成制度は県内工務店により県産材を活用する住宅が要件であり、大手ハウスメーカーからの申請はありません。(同等以上の水準である一条工務店の県内の年間建築戸数は100戸程度)

<成果指標>
・新築木造戸建て住宅の着工戸数に対するとっとり健康省エネ住宅の新築戸数の割合を2030年までに50%まで引き上げることを目標としています。
※県内における直近5年間の戸建住宅の新築木造戸建て住宅の着工戸数は年間平均1,450戸
※2018年度においてとっとり健康省エネ住宅と同等以上の新築戸数の割合は推計で9%と試算


【宮城の事例】
2021年3月、宮城県住宅建築センターがHEAT20を元にした評価ラベル制度を制定。評価ラベルでありながら、断熱レベルの向上に大いに寄与するものと予想される。

https://www.mkj.or.jp/archives/4946?fbclid=IwAR2VWsKeeVBnAQ_x5YkuuTR964eLgb1uREsqIvjWvU5aJz1U2JyV4EskNgU


【長野の事例】
長野は今年6月、「長野ゼロカーボン戦略」を制定。国が2030年までのNDC46%を宣言したのち、6月に県独自で2030年までのNDC60%を目指すと宣言しました。
https://www.fnn.jp/articles/-/193870

https://www.pref.nagano.lg.jp/kankyo/happyou/20210608presss2.html

これは、国の基準をはるかに超える基準であり、しかもこれはきちんとした目標の積み上げを前提としている。長野県は今までも環境行政をリードしてきたが、一気に加速した感がある。しかし、これは地道な制度とその効果の検証を経て、策定制定した行動計画であることをまとめます。


長野県は2014年に「住宅の購入時に省エネの性能の説明義務化」を制定しました。
https://www.iesu.co.jp/article/2014/07/20140725-2.html

これにより、省エネに対する意識が高まり、省エネ基準の住宅が推進された。画期的なのは、県が制定したこの制度、きちんと長野県の市町村での対応も同意され、実施された点にある。
その長野県は、2019年の台風19号の被害から、2019年12月に「気候非常事態宣言」をいち早く行い、全市町村もそれに続く形となりました。

https://www.pref.nagano.lg.jp/ontai/climateemergency.html

ここからの延長で、長野県環境審議会 地球温暖化専門委員会での6回の委員会をへて、策定された。私も委員会の末席で、戦略アドバイザーを拝命し、「ゼロカーボン戦略」の策定に関わったが、2030年に全ての建物のZEH,ZEB化の義務化を視野に入れた戦略となっています。

ここは素直に、義務化と書きたいところだが、国の義務化を超えてはいけないらしい。国の議論を待って、どうするかが決められると聞いているが、私はできるところが先行していくべきだと思います。

【ニセコ町の事例】
ニセコの事例は、町全体のエネルギー政策を、ドイツの環境ジャーナリスト村上敦やクラブヴォーバンというグループが関わっている点にある。
https://www.town.niseko.lg.jp/chosei/kankyo/model/

環境モデル都市というまち全体で、脱炭素化を狙う。自動車の利用を抑えたショートウエイシティを掲げ、新市庁舎を超省エネで建設中である。常に、高断熱高気密の議論は、建物単体から始まりがちだが、都市からのアプローチである。

このように地方の様々な取り組みが行われている。どんどん進めて、国にフィードバックしていくことが大切だと思う。さて、地方はリードしようとしているが、実は困ったことがある。現行の最高レベルの断熱等級のレベルがZEH(外皮)レベルと低く、なんと表現したら良いか、わからないのである。

ここで一つの提案がある。早々に義務化される等級を新等級1として、HEAT-20のG1、G2、G3をそれぞれ、新等級2、新等級3、新等級4としたらどうか。まずは、ラインナップを示して欲しい。その上でどこまでやるかの運用はそれぞれの自治体に任せるというのが、地方ごとの気候の違いなどを考慮して進められる優れた方法なのではないかと思う。


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
1962年神奈川県生まれ。みかんぐみ共同代表。東北芸術工科大学教授。エネルギーまちづくり社代表取締役。都市経営スクールエコタウン専門課程。エネルギーと建築のことを中心に書いていきます。著書に「図解エコハウス」「新しい家づくりの教科書」「原発と建築家」